第7話 交友関係、調査結果 ★
「セシリア嬢は精力的に社交を行っていて、顔も広い。でも今彼女の近くに頻繁に姿を見せている者は限られているんだね?」
「はい、特に仲良くしている特定の人物は、全部で3人。モンテガーノ侯爵家第二子息・クラウン様、テンドレード侯爵家第一令嬢・テレーサ様、セルジアット子爵家第三子息・レガシー殿です」
3人という数字、そして挙げられた名前達。
それらを聞きながら、アリティーは「ふむ」と考える素振りを見せる。
「思っていたより1人多いな」
アリティーは、最近特にセシリアの参加する社交には必ず顔を出し、彼女との接触を持っている。
彼の『1人多い』とは、おそらく「そういった場で彼女の近くに居る所をよく見るのは2人だった」という事なのだろう。
そしてその間ずっと彼と共に居たジェームスだ、その1人が一体誰なのかという事もすぐに分かる。
「新たに増えたテレーサ様は、どうやらテレーサ様からのコンタクトで交流が始まったようです。2人は今、『対等』な友人関係を築いていらっしゃるとか」
「ふぅん? 『対等』、ね」
ジェームスの報告に、意味ありげにそう言って含み笑いをした。
何やら機嫌がすこぶる良さそうだ。
そう思いながら、ジェームスは主人を静かに注視する。
その口ぶりから、何か指示があるかと思ったのだが。
「それで、後の2人は?」
続きを急かされたので、それに従い言葉を続ける。
「クラウン様とは元は対立関係にあったようですがらクラウン様をセシリア嬢が許した事で2人は交流を深めるに至ったたとか」
「対立関係?」
そんな事があったのか?
暗にそう問われた気がしたので、ジェームスは「あったのだ」とそれに頷く。
「どうやら王城パーティーでクラウン様がセシリア嬢のドレスを汚した事が発端とか」
「へぇ、そんな事があったんだ。それで? その件についての現状は?」
「クラウン様は、周りから大分遠巻きにされている様です。しかしそれも今は徐々に収拾されつつあるとか。まぁ侯爵は、まだ火消しに奔走中なようですが」
「あぁ、そうなんだ」
へぇ、でもまぁ一度され始めた噂なんて今日明日じゃぁ無くならないだろうしね。
そんな風に相槌を打ったアリティーだったが、次の言葉を聞いてあっという間に不穏な空気へと早変わりする事になる。
「レガシー殿の方は、どうやらセシリア嬢からの声掛けが始まりの様ですね」
「……セシリア嬢から?」
片眉を上げて問い返したその声が、室内の温度を2度くらい一気に下げた。
今まで機嫌良く報告を聞いていただけに、その落差はとても激しい。
お陰でジェームスも少し口籠もってしまう。
「は、はい。レガシー殿が1人離れて座っていた所に能動的に向かうセシリア嬢の姿が確認されています」
そんなジェームスの声を聞きながら、アリティーは記憶の中からレガシーの姿を探しだす。
そして見つけた。
両目が隠れるくらいの長さまで伸ばした前髪をした、何だかちょっと冴えない少年を。
子爵だけあって流石にボロでは無いものの、着ている物の品質はそれほど良いとは言えないし、デザインだって非常にシンプル。
流行に左右されないといえば聞こえは良いが、要はあまり身だしなみに気を使っていない人間のソレだった。
だからだろうか、『正直言ってパッとしないヤツ』というのがアリティーのレガシーに対するイメージである。
(セシリア嬢は、ああいうのが好みなのか……?)
だとしたら、自分とは正反対……とまでは行かずとも系統は大きく違うだろう。
しかしまぁ、どちらにしてもだ。
「邪魔だなぁー、彼」
アリティーは、呟くようにそう言った。
そもそも『セシリア嬢から声を掛けられての、仲良さげな今』というだけで、アリティー的にはアウトである。
そして、ここまで来れば話は早い。
レガシーという一個人に対する記憶は先程の通りだが、引っ張り出せる記憶の引き出しはまだある。
家名の方だ。
(セルジアット子爵家か。確か研究者の名門貴族で、そう言えば同い年に当第一の原石が居るとか何とか……あぁそうか、それが彼か)
そこまで思い至り、アリティーはニヤリと笑う。
これは良い撒き餌になるだろう。
そう思ったのだ。
「ジェームス」
「はい」
「デーラ伯爵を呼べ」
「――かしこまりました。すぐに」
策謀を巡らせる主人の言葉に従う声が、一礼してから執務室を後にした。
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当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991709498
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