第16話 化けの皮が、剥がれています ★
キラキラの瞳でエキサイトし始めたセシリア。
近すぎるのは勿論だが、問題は物理的距離だけではない。
そもそもが彼女は顔が整っているのだ、それが瞳を輝かせて嬉しそうな顔をたった1人に向けているのだから、破壊力は半端ない。
レガシーは内心で思わず「キャーっ!」と叫んだ。
そしてキャパオーバーで振り切れた何かの針が、やっと彼に言葉を発せさせる。
「分かったからちょっと離れてっ!」
お願いだから!
そんな気持ちで叫べば、やっと執事の影が動く。
狼狽えているレガシーの為に。
そして何よりも、淑女にあるまじき失態を行っているセシリアの為に。
「――セシリア様」
その声は決して大きいものでは無かったが、間違いなくセシリアの耳まで届いたようだった。
先程のレガシーの願いでは全くと言っていいほど止まる様子を見せなかったセシリアがピタリと静止したのは、有無を言わせない彼の声の重量感が故か。
「化けの皮が、剥がれています」
その一言で、セシリアはハッと我に返ったようだった。
いつの間にか木の幹にまですっかり追い詰め切ってしまっていたと自覚して、「すみません」と言いつつレガシーから体を引いて距離を取る。
(はぁ、やっと息が出来る)
そんな気持ちで深い安堵の息を吐いて、レガシーは心を落ち着けようと心掛けた。
彼女を見れば、そこに羞恥の色は無い。
どうやら「申し訳ない事をした」という気持ちはあるようでその証拠に眉が少しハの字になっているが、頬のほてりを感じずにはいられないレガシーからすると少し不服な反応だ。
しかも申し訳無さが見えたのは、ほんの10秒にも満たない間だけだった。
レガシーが先程までと同じ位置まで戻った所で、彼女は一度軽く佇まいを正してコホンと一度咳払いをする。
そしてスンとすまし顔になって、こんな風に尋ねてきた。
「さぁそれではレガシー様、話の続きをお願いいたします」
すまし顔にはなっていた。
距離も適切に保たれている。
しかしいかんせん、瞳に宿る好奇心が隠せていない。
(ちょっと、怖い)
そんな風に思った所で、ゼルゼンからも声が掛けられる。
「レガシー様の身の安全と私の心の平穏の為にも、どうかお答えください」
その言葉は暗に「あまり焦らすとまたさっきの様になってしまうぞ」と言っていた。
(そんな事になったら今度こそ、俺の体が持たない)
きっと心臓は張り裂け、血管は崩壊する。
そんな気がする。
もしかするとゼルゼンは善意で言ったのかもしれない。
再びの暴動は自分にはもう止められないから早く言ったほうが身のためだ。
そういう助言なのかもしれない。
しかし、残念ながらこの時のレガシーには脅迫にしか聞こえなかった。
心中で冷や汗を掻きながら、レガシーは答えられる限りの情報を自身の中でかき集めた。
しかしレガシーだって「そういう情報を聞きかじった」というだけなのだ。
当事者ではないし当事者から話を聞いた訳でもないから、どうしたって情報には乏しい。
「……一昨日、オプサー男爵領の鉱山で発見されていた新鉱脈の奥で『発光する鉱石』が発見された。新鉱脈を発見したのは1週間前だけど――」
結局この後レガシーは、必至でかき集めた情報を、一通りをセシリアに話してきかせた。
するとその後、案の定と言うべきかセシリアから質問攻めに遭う。
いかんせん情報不足だったので、中には答えることが出来ない物もあったが、鉱石そのものやオプサー男爵領の他の鉱山についての話もあったので、そういったものには一通り答えた。
そうして結局残りの時間を、レガシーは全てセシリア無双の余波に付き合う事となった。
セシリアと出会うまでは、いつだって「早く終わらないかなぁ」と思いながら社交の時間を過ごしていた。
しかし今日ほど社交の時間が終わった事に喜んだ日は無い。
帰宅した彼が珍しく余所行きの服を着たままでベッドに倒れ込んだレガシーに、彼付き執事が思わず小首を傾げたのはまた別の話である。
↓ ↓ ↓
当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991694146
↑ ↑ ↑
こちらからどうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます