第14話 人目を引くのは魔眼だけじゃない。
いや、確かに大声は出したけどさ・・・。
静かすぎる駅で僕の声はよく響き、周囲の人の視線を集めてしまう。
当然大声を出した張本人の僕に視線は集まるのはもちろんだが、「かわいい」なんて言われた涼葉の顔がどんな感じなのかと、涼葉にも視線が集まってしまう。
僕は馬鹿だ。
こうなる可能性なんて少し考えればわかるのに、テンパってというか、涼葉が可愛すぎて、思わず叫んでしまった。
でも、世界が僕と涼葉だけとか勘違いした痛い奴でしかない。
(今度こそ・・・本当に迷惑かけたから謝らないと・・・っ)
「あっ、涼葉。その・・・ごめん。ちょっと・・・」
「ダーメーーッ」
涼葉はさっきよりも大きなバッテンを顔の前で作る。
さっきよりも力の入った両腕はなかなか解けそうもない。
「本当に・・・ごめんなさい」
僕は深々と頭を下げる。
涼葉に見られていなくても、しっかりと頭を下げるのが誠意だ。
許してくれるまで、顔を上げない覚悟。
「あの人、めっちゃ90度で頭下げてる~」
子どもの声がどこからか聞こえる。
神奈川の田舎の方とは言え、知り合いに会うかもしれないし、こんなところを写真を撮られて、SNSで投稿されたり、SNSのチャットのキズナでグループで盛り上がられたら、僕は良くても、さらに涼葉に迷惑をかけてしまうかもしれない。
僕はちらっと顔を上げると、涼葉も涼葉でテンパっているのだろうかその大きなバッテンを崩す気配はない。
「あっ」
僕は涼葉の耳が真っ赤になっているのに気づいてしまい、思わず声が出てしまう。
そして、その先に土日だと言うのにうちの制服を着た女子たちを見つけてしまう。
(まずいっ)
テンパっている時に相手の方がテンパっていると、妙に落ち着く僕は悪い意味で、結構いい性格しているのかもしれない。
「ごめんっ、涼葉。話しは後でっ!!今は先を急ごうっ!!」
僕はそのロックされていた左手を取る。
「えっ」
涼葉もまさか僕に手を引かれるとは思わなかったらしく、素っ頓狂な声を出す。
「改札通るよ、準備はいいっ?」
「うっ、うんっ!!」
ピッ
ピッ
ノルカを使って改札を通る。
(うん、ノルカ、最高っ)
僕と涼葉は駆け出す。
なんだろ、僕は必死に走るのになぜだか、楽しくなる。
振り返ると、涼葉も必至なはずなのに笑顔で、目が合うと二人とも、もっと笑った。
◇◇
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン・・・ッ
僕らは電車に揺られていく。
「ねぇ、エイトきゅん。聞いてもいい?」
「なに?」
僕は涼葉を見る。
手すりにつかまっている涼葉の袖はラフになっており、きれいなワキが見えて僕はドキッとしてしまい、慌てて正面を見て、メガネを直す。
「やっぱり、長野県の方が景色はいいのかな?」
僕は窓の外を見る。
そんなに悪くはないと思うけれど、グレーのビルが建ち並び、人工的な派手な色の広告は田舎生まれの僕には少しちかちかする。
「うーん、良し悪しは僕にはわからないけれど、緑が多いね」
窓の景色はビルばかりだったけれど、僕は信州鉄道に乗ったときの窓の外を思い出す。
飾らない景色。
住宅などの建物は茶色を基調とした色をして自然と調和した景色。
今の時期は緑だけれど、秋には紅葉、冬には雪、場所によっては春に桜並木のピンクなど、四季折々の景色が迎えてくれる。
その一方で、家や工場などが建ち並んでは人口減少著しい区間では、今の人はいいかもしれないが、若者が暮らしていくには難しそうな景色も顔を覗かせる。
良くも悪くも、本当に飾らない景色なのだ。
「ふーん、そうなんだ」
僕の顔を見て涼葉も外を見る。
彼女も長野県で電車に乗ったらどんな景色になるのか想像しているのだろうか。
チラッ
「ん?」
「いや、なんでもないよ」
ちらーーーっ
「あっ、お兄ちゃん。お姉ちゃんの目を盗んで、袖の中覗いてたよっ!!」
前に座っていた男の子が大声を出して、僕を指さし、涼葉の顔を見て報告している。
隣に座っていた母親らしき人が注意をするが・・・。
ちらちらっ
じーーーーっ
ひそひそ・・・っ
(んんんんっ!!!)
僕は周りの視線を感じて心の中で悶絶する。
涼葉も涼葉で恥ずかしそうに腕を降ろす。
機転の利いた言い訳も浮かばない。
「ごめん・・・っ」
「ううん・・・私もごめん」
ガッタンッ
「きゃっ」
電車の揺れでつり革を離していた涼葉が転びそうになるので、僕は支える。
なんだか、片手でつり革を持ちながら、片手で涼葉を抱きしめる形になってしまった。
「あー、イチャイチャしてるー」
今度は母親に報告するように子どもが話しかける。
また、視線を集めてしまうので、涼葉と離れようとする。
「んっ、いやっ」
涼葉が下を向いたまま声と動きで嫌がった。
「でも・・・」
「エイトきゅん・・・っ。また、私の・・・ワキ。見たいの?」
顔を全くあげてくれない涼葉からウィスパーボイスが聞こえてくる。
(その言い方はずるいんじゃないのっ、涼葉さん!!)
「いや、うん・・・あぁ、そういうのじゃなくて・・・」
「・・・このままがいい」
僕は困ってしまい、周りを見る。
僕が視線を周りに向けると、やっぱり僕らを見ていただろう人たちが首や目を逸らすのが確認できた。
(恥ずかしい・・・けど、開いている席・・・もないし、入り口付近の手すり・・・もないか・・・)
田舎なら旅行シーズンでなければ、席は空いていて当然というくらい空いているけれど、僕らが乗っている電車は空いていない。
僕は棒立ちしたまま涼葉の体温を感じてぼーっと、正面の景色を眺めていた。
◇◇
「さっ、着いたよ。降りるよ、エイトきゅん」
「うっうん」
急いで電車から降りる僕ら。
周りを見るけれど、やっぱり都会の人たちの歩きは速い。
「さっ、今度は使えるかな?ノルカ?」
「もっ、もちろんだよ」
涼葉がスマホケースをちらつかせてくるから、僕も先ほど購入したノルカをポケットから出して、涼葉に見せる。
二人で顔を見合わせて笑い合う。
ピピッ
改札を抜けると、みなとみらいが目の前に広がる。
「うわ~~~~っ」
「ふふふっ、エイトきゅん。おおげさだよ」
開けた空間にオシャレなデザインの空間。
僕はキョロキョロしながら歩いて行く。
「軽井沢だってすごいでしょ?」
「軽井沢なんて、オシャレな・・・」
「オシャレな?」
転校前のオシャレな人たちが軽井沢まで男女のグループで買い物に行くなんていうことを話していたのを思い出す。ハブられた辛い思い出というわけではなく、昔の学校のこと自体を思い出すと僕は辛くなってしまうのだ。
「まぁ・・・電車賃が4桁に近いくらいかかるから、あんまり行くところじゃなかったな。僕みたいな奴には」
ばつの悪い僕は明後日の方向を見ながら、言い換える。
「えっ、エイトきゅん。かっこいいじゃん」
言い切る涼葉。
まっすぐな涼葉の瞳は今日も素敵だ。
でも、僕の魔眼に魅了された証のハートが瞳に映っている。
「うーん、そうやって面と向かって言われると照れるんだけれど・・・。ありがと」
「お世辞じゃないんだけどなぁ。あっ、今日私が服選んであげる」
「本当に?助かるなぁ」
これは本当に助かる。
どんな服を着ていいのか、悩んでしまっていた。
長野の高校の友達と出かけるときは、服装で頭を悩ませていたし、一回、クラスメイトからドン引きされたことまである。
その点、涼葉は自分がわかっている人というか、服も靴も彼女に似合っていて、オシャレが頭のてっぺんから足のつま先までできている。
「ふふっ、私色に・・・染めてあげる」
「ん?なんか言った?」
涼葉が目を光らせて、よだれを垂らしていたような気がしたけれど、そんなわけはないか。涼葉がそんなに下品なはずがない。
キューーーッ
涼葉のお腹からかわいらしい音が聞こえた。
涼葉自身は真っ赤な顔をして、虚ろに前を向いている。
「僕、お腹がすいちゃったなっ。まずご飯にしない?」
「・・・うん」
僕は今はいない怒髪天の姫である朱夏で慣れているから全然気にしていないけれど、涼葉は本当に恥ずかしがっていて、そこがまた、かわいいな、って思った。
魅了の魔眼、愛の行方 ~一目惚れした相手に出会って1秒で魔眼で魅了しちゃった。やばい、彼女の下着の中身も知りたいけれど、本当の性格はもっと知りたい~ 西東友一 @sanadayoshitune
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