僕はただ引きこもりたいだけなのに
mikazuki
第1話
僕こと
ただしそれは枯れてしまった精神を潤すためであり1週間以上は引きこもらないことにしている。しかし同時に一度ひきこもると1週間は絶対に家から出ずに引きこもることにしている。
そして最近も不幸な目にあい昨日から引きこもり始め、今日で2日目を迎えていた。僕は今日もお布団の気持ちよさに勝てず起き上がれずいた。
すると突然今までに味わったことのない強烈な電流が体を流れて僕は嫌でも目を覚ました。
「ギャーー!!」
生まれで始めて痛みによる絶叫を上げた。
「痛てて、一体何が…」
「よかった、ちゃんと起きてくれて。これ効いたみたいね」
声の主の方を見るとそこには僕の幼馴染である
「おはよう透。目は覚めた?」
「美咲…挨拶の前に君は何か僕に言うことないのかい?」
「えっ?ああ、そうね。幼馴染割引で千円にまけといてあげるね」
「待って、それなんの代金?」
「勿論透を起こしてあげた代金だけど」
この女…人にスタンガンなんて物騒な物で無理矢理起こしておきながら金まで取ろうと言うのだろうか。しかもそれが至極当然みたいな反応しているのがより腹が立つ。
「ごめん美咲、何から突っ込んでいいのかわからないからちょっと待っててくれるかな」
「でも私を待たせている間、別料金が発生するけどいいの?」
どこまで金にがめついのだろうこの女は
「分かった。じゃあ聞くけどさ、鍵は閉めてた上に両親共に海外に行ってて開く要素はないはずなのにどうやって僕の家に入ったの」
「今度はあんたが引きこもったら無理矢理連れ出してくれとおば様に頼まれてたのよね」
「くっ!母さんめ、余計な事を。まあそれは分かったけどそれは何?」
僕は彼女が手にしているスタンガンを指差して尋ねた。
「ああ、これはあんたがどうしても起きなかったらこれを使って起こしてっておば様が」
あの母親…100歩譲って家の鍵はともかく、どこの世界に息子を起こさせるためだけにスタンガンを持たせる母親がいるんだ。
「というかどうしても起きなかったらって聞こえたけど、そもそも僕はそれで無理矢理起こされる前に君に声をかけられた記憶がないんだけど」
「だってわざわざ声なんてかけて起こすよりも電撃浴びせで起こしたほうが手っ取り早いじゃない」
「そんな理由!」
「十分すぎる理由でしょ」
「そんなことの為だけに他人に向けて平気でスタンガンを使えるのは日本探してもおそらく君くらいのもんだと思うよ」
僕は呆れて大きなため息を吐く
「少しは僕に悪びれる気持ちとかはないの」
「そういうあんたこそわざわざ私に起こさせて人として罪悪感とか感じないの」
残念な事にこの幼馴染には常識は通用しないのである。常々この女、本当は人間ではないのではと思わずにはいられない。
「とにかく僕は学校に行く気は無いから諦めて帰って」
「そうはいかないわ。あんたにはなんとしても登校してもらう」
「なんでそんなに学校に行かせようとするのさ。君には関係のないことじゃないか」
「いいえ大いに関係があるわあんたが学校に来てくれないと私が困るの。あんたを連れていかないと報酬が貰えないんだから」
「なんて無駄な人材を雇ったんだ母さん」
というかお金もらっといてこんな雑な仕事をしてるんだろうかこのバカ女は。
「お金を貰う以上ちきんと与えられた役目はこなさないとね」
「何でその役目の中に優しく起こす事が含まれてないの?」
「だって頼まれてないものそんなもの」
「普通は依頼になかったとしても無意識に達成させようとするもんだと思うんだけど」
「そりゃ私だって少しは悪い気がしなくもないような気はするけど」
「いやそこははっきり感じてほしいんだけど」
僕は電流による激痛でかなり痛がってたと思うんだけど普通の人ってあそこまで他人が痛がっている姿見たら罪悪感を感じるものじゃないの?何僕の感覚おかしいの?
「でもこのスタンガンっていう非現実的なものを手にした時、好奇心に抗えずどうしても使いたくなっちゃったのよね」
「本当の理由はそっちか!」
「いいえ、起こすのが面倒だったのも本当よ」
「どっちにしてもそんな理由で実行に踏み切る人間が君だけである事を願うよ」
彼女みたいな興味本位で危険物を平気で行使する人が普通に区分されてしまったらこの日本はおろか世界存亡の危機と言っても過言ではないだろう。
「まぁあんたがどうしても行きたくないって言うならそれでもいいけどその場合はもう一回電流を流して気絶させて首にワイヤーくくりつけてに連れて行くけどそれでもいいよね」
どこがいいのかさっぱりわからず、結局僕はこれ以上話していてもらちがあかないと思いマシな方の選択を選び学校に行くための身支度を整える。
僕は学校に着くなり嫌な視線を感じ取っていた。そして多くの生徒から言い寄られた。
「なあ透君、今日の放課後一緒にカラオケに行かないかい」
「今日は忙しいので」
「透君週末遊園地にでも…」
「すいません、予定が埋まっているので」
僕は数々の誘いを断り続けて自分の教室を目指した。僕の在籍している学校は男子校ではないが女子生徒と比べて男子生徒の割合が多い。そして僕は中性的な顔立ちのためかよく女子と間違われることがある。そのせいもあって僕は非常にモテる…男子から。先程誘って来たのも全て男子であり当然のことではあるが全く嬉しくない。
これが純粋に遊ぶのが目的と誘ってくれているのであればまだいいのだが、彼らとの行き先は基本的に大人なホテルか彼らの家である。僕がまだ何も知らない無垢な頃に何度騙されて貞操の危機に陥ったかわからない。
僕はノーマルで女性が好きであって男性にはこれっぽっちも興味がない。しかし思春期で周りが男が殆どで飢えている男子からするとそこら辺の女子より僕の方が好みといった輩が数多くいるらしい。
その上そもそも男子が好きだからこの学校を選んだ特殊な性癖の持ち主達もおり、僕は男子の間で絶大な人気を誇っているらしい。大変迷惑な話である。
さらにこれに追い打ちをかけるかのように僕が男子を好きだとか人気があるからと調子に乗って男をとっかえひっかえしているだとかあらぬ噂が女子の間で流れて、女子の中で僕の評価は最悪のものとなっていた。
故に基本的に僕に声をかけてくる女子は殆どいない。これによって異性にモテないのに同性限定のハーレムが完成しそうになっている状況なのである。
もし今の僕のこの環境を羨ましがる人がいるのであればどうか今すぐ名乗り出てほしい。こんなクソみたいな役回り今すぐにでもお歳暮と一緒に送って差し上げよう。
教室にたどり着いた僕は自分の席へと腰を下ろす。僕の席は窓側の1番後ろであるため男子に左右上下両斜を占領されていつ何をされるかわからない最悪の状況になっていないのが不幸中の幸である。
そんなささやか時間もあっという間に過ぎさり、授業のために着替えて校庭へと急いだ。
そんこんなで1限目の授業が始まってしまった。1時間目から早々に体育なので憂鬱になる。朝っぱらから体動かしたくないのもあるんだが、うちの学校の体育は少し…いや、かなり特殊なのである。
「まず始めに校庭59周してもらう」
この時点でツッコミたくなるのは僕だけだろうか?しかも普通の学校とは違い僕たちの通っている学校の校庭の広さは400メートル。59周で約24キロ近くになる。どう考えたって体育で走らされる距離じゃない
「先生それはいけないと思います
そうだもっと言ってくれ。普通の高校生がこんなに走るわけ…
「59周ではきりがよくないのです60周がいいと思います」
違う!問題はそこじゃないだろ
「それは間違っているぞ」
おお~ようやく間違いを指摘してくれる奴が…
「60でも数字としては中途半端だ。だからいっそ100週にするのはどうだろうか」
「なるほど、お前天才だな」
待って60でいいじゃん。なんでわざわざ100なんかに繰り上げするんだよ。どう考えたって無理だよ。僕間違いなく死んじゃうよ?
「でも流石に100周はきついな」
だよなだよな、やっぱり嫌がるやつは出てくるよな
「だがこれをクリアすればムキムキに近づけるぞ」
「そうか、それならやるしかないよな」
どこがそれならなのか訪ねたい。どこにそんなに誘惑される要素があったんだ?僕の知らない間ムキムキ男子の需要ってそんなに上昇していたの?
結局僕は意識が失いそうになるまで走り続けた
2限目は数学。正直僕の苦手な教科である。何故かといえば…
「木村君、この問題の答えをお願いします。焔君×鈴木君は?」
何?問題の意味が解らないだって。安心していいよ僕も全くわからないから
「焔君×木村君だと2人ともかなりの上級者なのでかなり激しい行為になると思います」
「んん~いい回答ですね90点です」
当然のことながら工程式も答えの理由も、そもそもなんでこんな明らかに先生の特殊な趣味的なものを勉学の場で学習しなければならないのかそれがこの授業における永遠の謎と言っていい。
「それでは次の問題を…透君お願いします。旭君×大林君は?」
指摘されてしまったので仕方なく着席する
「すいません全く解りません」
「あらあら、ちゃんと勉強していないといけませんよ?答えは2人とも受け側の男の子なので成立しないでした」
注意されている理由も答えの意味も当然理解の及ばないものだった
「ところで透君、これで前回から合わせて3回連続の間違いですね。先生は悲しいです」
「すいません」
謝罪しながらつくづく思う。なんで僕は今謝っているのだろうと
「なので罰として今日一日これで過ごしてください」
そう言って先生が取り出したのはうちの制服(女子用)
「あの先生、なんで罰がこれなんですか?」
「え?だって男の子の制服じゃ罰にならないじゃないですか」
この先生も美咲と同様に言葉が通じないタイプの人だ
「違ういます。僕が聞きたかったのは何でこんなコスプレみたいなのが罰なのかってことです。別に罰なら授業中立ってろとかでいいじゃないです」
「だってそんなの面白くないじゃないですか」
いつから学校の罰に面白さが求められるようになったんだろうか?授業内容も含めはっきり言って職権欄用としか思えないのに誰一人として異議を唱えるクラスメイトがいないことに僕はほとほとため息が出そうになる
「それが嫌ならスクール水着もありますよ?」
違う、服の種類が気に入らないのではなく罰の内容が気に入らないんだ
「何なら全裸でも…」
これ以上話を続けていても悪化する未来しかないと悟った僕はダッシュで男児トイレへと行き急いで着替えた。過去にこれほど教室のドアを開けるのに戸惑ったことがあるだろうか?と一瞬思いもしたが振り返ると山のようにあることに気付き、今更だなと割り切ってドアを開ける。
「まあ透君、とっても良くお似合いですよ。素晴らしく可愛い男の娘ですね」
過去にこれほど嬉しくない誉め言葉はなかったが、それに近いものなら腐るほどある自分の人生に落胆し、自分の席に戻ってふて寝する。すると僕の様子を気にして隣の席の美咲が声をかけてきた。
「そんなに落ち込むことないんじゃない」
今までの一連のやり取りのどこに落ち込まずにいれる要素があるのだろうか?
「あんたにもいつかいいことあるって」
「いつかっていつ?」
「えっと…来世とか?」
今世紀の話ですらないのね
「こんな姿…はあ。僕もうお婿に行けない」
「お嫁さんじゃなくて?」
なんて事を言うんだこいつは
「冗談よ」
男子に襲われ続けているこの環境だと全く冗談に聞こえない
「大丈夫よ」
「何が?」
「あんただお婿に行けなくなっても私が貰ってあげるから」
美咲は少し照れくさそうに頬を赤らめながら照れくさそうに呟いた。僕はこの時初めて人生でトキメキというものを感じていた。扱いは酷いがなんだかんだで他の女子と違って誤解することなく接してくれていた唯一の女子にして幼馴染。この子となら僕も…そんな風に思えていた。次の言葉を聞くまでは
「あんたと結婚したらあんたんちの財産すべて私の自由にできるしね」
「今すぐ僕の純情を返せ!」
こうして結局外に出るとろくな目に合わないとつくづく実感した僕は切に思うのだった。一生家に引きこもりたいと
僕はただ引きこもりたいだけなのに mikazuki @mikazukikouya
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