エピローグ 「曲者」

 見事と成行に昼食後の片づけを命じた静所おとなし雷鳴らいめい。時刻は土曜日の十五時を過ぎている。彼女は曾孫ひまごの八千代をともなって別荘の外へと出た。

 雷鳴に黙って続く八千代。二人は別荘から練習場方面へと歩いた。


 あの大きな岩がある練習場まで来た二人。そこには見事によってプレスされ、粉々になった岩が散らばっている。周囲を見渡して雷鳴が声をあげる。

「出てこい。いるんだろう?」

 すると、無傷の岩陰から立夏が現れた。

「お呼びですか?」と、いつもながらのラブリースマイルな立夏。彼女は八千代から借りた体操服とブルマ姿である。

「本当にその格好で道の駅に行ったんだな・・・」

立夏のいで立ちを眺める雷鳴。

「三毛猫は?」

「いません。彼女は帰りました」

「他には誰もいないな・・・」

 雷鳴は周囲に警戒を払う。

「大丈夫ですよ。今日、ここへ来た御庭番は彼女だけです。そんな警戒しないでください」

 立夏はなだめるように言う。


「立夏。私から提案がある」

「提案ですか?」

「ユッキーのことだが、どうだろう?執行部に入れてもらえないか?」

「岩濱君を?」

 雷鳴からの提案に、パッと表情が変わる立夏。笑顔が消えて、雷鳴を警戒するような雰囲気だ。

 そんなことを言われるとは思っていなかったようだ。立夏はすぐに言葉を発さない。考えている。雷鳴がなぜそんなことを言い出したのかを思案しているようだ。

「何か企んでます?」と怪訝そうな表情の立夏。彼女の視線が、雷鳴の傍らにいる八千代に向かう。

 しかし、八千代は黙って立っているだけ。立夏の視線を無視する。


「魔法使いのはかりごとなんて、今更いまさら珍しくも何ともないだろう?」

ケロッとした表情で言う雷鳴。

「まあ、そうですけど・・・」

「そんな顔をするな。美人が台無しだ」

 に言う雷鳴。立夏にしては珍しく、雷鳴を睨むような視線を向けてくる。

「父や上層部に相談します」

「相談する?この場で決めてくれないのか?」

「ダメです。私にそこまでの権限はありません。それに何かアナタの意図を感じます」

 即答する立夏。彼女は険しい表情を崩さない。

「監視はしても、仲間にはしてくれないのか?」

「雷鳴さんの言葉を額面通りには受け取れませんから」

「冷たいな。もっと私を信用してくれてもいいのに」

「父からアナタのことは、そう簡単に信じるなと言われています」

「なるほどな・・・」

 立夏の言葉を聞いて思わず苦笑する雷鳴。

「まあ、いいだろう。じゃあ、執行部のに相談してくれ。なるべく早く回答してほしい。そう伝えてくれ」

 不敵な笑みを見せる雷鳴。

「わかりました」と短く答える立夏。彼女は八千代に向かって言う。

「八千代さん。お借りした体操着はクリーニングして返却しますので」

「OK。それでいいわ」

 八千代もそう答えるだけで、余計なことを言う様子がない。

「じゃあ、これで私は」

 そう言い残し、姿を消す立夏。それを確認して八千代は雷鳴に言う。


「どういう気の変化ですか?岩濱君を使って何をするつもりなんですか?」

「八千代までそんなことを言うな。まあ、執行部むこうにも思惑はあるだろうが、私にもある」

 雷鳴は決して詳しいことを語ろうとしない。

「岩濱君のクラスメイトとして忠告を」

 そう切り出し、八千代は雷鳴に言う。

「複雑な事情ですが、岩濱君は魔法使いになりました。けど、彼の場合、私や見事、立夏、ましてや三毛猫のように生まれながらの魔法使いじゃありません。ここ一カ月で魔法使いになったんですから。彼の能力は凄いし、脅威ともいえますが、適性があるかは別問題ですよ?」

「何事もやってもなければ、わからないぞ。すぐに決めつけるな」

 八千代に少し機嫌が悪そうな雷鳴。


「とにかく、『才能』と『適性』がイコールではないことは、しっかり具申させてもらいます」

流石さすが、クラス委員長だな。しっかりしていては嬉しいぞ」

 すると、八千代はため息交じりに言う。

「策謀も。今は中世や幕末とは違うんですから。それに関西や九州の魔法使いの目もありますし、それに―」

 そこまで言って八千代の口が止まる。

「それに?何だ?」

 雷鳴の睨みつける目に圧倒されて、八千代の口が止まった。

「いえ、何でも・・・」

「なら、結構」

半ば強引に八千代を黙らせた雷鳴。それに満足したのか、それ以上のことを言わなかった。

「さあ、私たちも戻るぞ」

「はい・・・」

二人は会話を交わすことなく練習場をあとにした。





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「無茶を言う赤鬼さんと、突然やって来る黒髪ショートクラス委員長編(旧:東日本魔法使い協会執行部編)」ペルソナ・ノン・グラータ③ 鉄弾 @e55ok3q777g1v5

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