エピローグ 「曲者」
見事と成行に昼食後の片づけを命じた
雷鳴に黙って続く八千代。二人は別荘から練習場方面へと歩いた。
あの大きな岩がある練習場まで来た二人。そこには見事によってプレスされ、粉々になった岩が散らばっている。周囲を見渡して雷鳴が声をあげる。
「出てこい。いるんだろう?」
すると、無傷の岩陰から立夏が現れた。
「お呼びですか?」と、いつもながらのラブリースマイルな立夏。彼女は八千代から借りた体操服とブルマ姿である。
「本当にその格好で道の駅に行ったんだな・・・」
立夏のいで立ちを眺める雷鳴。
「三毛猫は?」
「いません。彼女は帰りました」
「他には誰もいないな・・・」
雷鳴は周囲に警戒を払う。
「大丈夫ですよ。今日、ここへ来た御庭番は彼女だけです。そんな警戒しないでください」
立夏はなだめるように言う。
「立夏。私から提案がある」
「提案ですか?」
「ユッキーのことだが、どうだろう?執行部に入れてもらえないか?」
「岩濱君を?」
雷鳴からの提案に、パッと表情が変わる立夏。笑顔が消えて、雷鳴を警戒するような雰囲気だ。
そんなことを言われるとは思っていなかったようだ。立夏はすぐに言葉を発さない。考えている。雷鳴がなぜそんなことを言い出したのかを思案しているようだ。
「何か企んでます?」と怪訝そうな表情の立夏。彼女の視線が、雷鳴の傍らにいる八千代に向かう。
しかし、八千代は黙って立っているだけ。立夏の視線を無視する。
「魔法使いの
ケロッとした表情で言う雷鳴。
「まあ、そうですけど・・・」
「そんな顔をするな。美人が台無しだ」
からかうように言う雷鳴。立夏にしては珍しく、雷鳴を睨むような視線を向けてくる。
「父や上層部に相談します」
「相談する?この場で決めてくれないのか?」
「ダメです。私にそこまでの権限はありません。それに何かアナタの意図を感じます」
即答する立夏。彼女は険しい表情を崩さない。
「監視はしても、仲間にはしてくれないのか?」
「雷鳴さんの言葉を額面通りには受け取れませんから」
「冷たいな。もっと私を信用してくれてもいいのに」
「父からアナタのことは、そう簡単に信じるなと言われています」
「なるほどな・・・」
立夏の言葉を聞いて思わず苦笑する雷鳴。
「まあ、いいだろう。じゃあ、執行部の上の連中に相談してくれ。なるべく早く回答してほしい。そう伝えてくれ」
不敵な笑みを見せる雷鳴。
「わかりました」と短く答える立夏。彼女は八千代に向かって言う。
「八千代さん。お借りしたこちらの体操着はクリーニングして返却しますので」
「OK。それでいいわ」
八千代もそう答えるだけで、余計なことを言う様子がない。
「じゃあ、これで私は」
そう言い残し、姿を消す立夏。それを確認して八千代は雷鳴に言う。
「どういう気の変化ですか?岩濱君を使って何をするつもりなんですか?」
「八千代までそんなことを言うな。まあ、
雷鳴は決して詳しいことを語ろうとしない。
「岩濱君のクラスメイトとして忠告を」
そう切り出し、八千代は雷鳴に言う。
「複雑な事情ですが、岩濱君は魔法使いになりました。けど、彼の場合、私や見事、立夏、ましてや三毛猫のように生まれながらの魔法使いじゃありません。ここ一カ月で魔法使いになったんですから。彼の能力は凄いし、脅威ともいえますが、適性があるかは別問題ですよ?」
「何事もやってもなければ、わからないぞ。すぐに決めつけるな」
八千代にたしなめられて少し機嫌が悪そうな雷鳴。
「とにかく、『才能』と『適性』がイコールではないことは、しっかり具申させてもらいます」
「
すると、八千代はため息交じりに言う。
「策謀もほどほどに。今は中世や幕末とは違うんですから。それに関西や九州の魔法使いの目もありますし、それに―」
そこまで言って八千代の口が止まる。
「それに?何だ?」
雷鳴の睨みつける目に圧倒されて、八千代の口が止まった。
「いえ、何でも・・・」
「なら、結構」
半ば強引に八千代を黙らせた雷鳴。それに満足したのか、それ以上のことを言わなかった。
「さあ、私たちも戻るぞ」
「はい・・・」
二人は会話を交わすことなく練習場を
「無茶を言う赤鬼さんと、突然やって来る黒髪ショートクラス委員長編(旧:東日本魔法使い協会執行部編)」ペルソナ・ノン・グラータ③ 鉄弾 @e55ok3q777g1v5
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