きっと恋だと誰かがいった

 「何それ」


 「ん? ラブレターじゃない? うちのクラスのやつの宛名書いてある」


 「ラブレター? このご時世に?」


 「うん、このご時世に」


 「中身見える?」


 「封はされて……ないな。へえ……」


 「マナー的にどうよそれ」


 「見ろって言ったのあんたじゃん」


 「そーだけどさ」


 「いや、結構、胸打つ文章だよ。おもしろ」


 「でもそれさあ……ゴミ箱から出てきたよね」


 「うん」


 「で、さっき泣きながら女子が出てったよね」


 「うん」


 「断られたのかな」


 「……んー、わからんけど、多分出してないんじゃない。あいつなら、ラブレター受け取ったらもっと騒いでるだろうし」


 「たしかに」


 「出す勇気がなかったんじゃない」


 「ありゃー、それでは恋は始まらんよ」


 「そだねー」


 「始まらんことには、うまいこと終われないからなー」


 「あんた的にはさあ、これってさ恋だと思う?」


 「……ん? そりゃ、そうじゃない?なんで?」


 「いや、手紙にさ。伝えられないこれは恋ですらないのかもしれませんってね」


 「いやあ、ようわからんけど。ラブレター書いてる時点で恋でしょ」


 「同感」


 「で、どうすんの、それ」


 「んー、出しちゃうか、代わりに」


 「え、いいの? それ? 無駄に傷つけちゃうかもよ?」


 「あんたも言ったじゃん。始まらないことには終われないって。それにこの子が迷ってるとこ悪いけど、これは誰が見たって恋でしょ」


 「ほーん」


 「結構ね、いいこと書いてある。好きだってちゃんと伝わるよ。拙いし、自信はないのかもしれないけどさ」


 「へえ、気になってきた見せてよ」


 「ほい。そうだ出した後、声かけてみようよ。友達になれるかも」


 「その子視点からみたらあたしら大概やばいやつだよ」


 「わかってる、でもね」


 「うん」


 「こんな良い想いがあるんだよ、きっと、きっと仲良くなれる」


 「だといーね」


 「うん」


 「ああ、いいね。なんかうるっと来る。宛先のやつの下駄箱にでも入れとく?」


 「引き出しでいいでしょ。下駄箱は人に見られるし」


 「それもそうか、あの子びっくりするかな」


 「するだろうね」


 「伝わらない、恋になりきれない想いを私らが勝手に伝えちゃうわけだ」


 「いやいやお姉さん、こんな綺麗な想いが伝わらないなんて嘘でしょう。それにこの想いはね、きっとね伝わるずっと前からさ、充分、恋だよ」


 「そっか、恋だね」


 「そうそう、恋だよ」



 手紙を指先に挟んで、宛先の引き出しに忍ばせました。


 ねえ、名前もさっきまで知らなかった貴女。


 伝わらない想いに意味はありませんか?


 伝えられないあなたに価値はありませんか?


 そんなことはない、そんなことはないでしょ?


 あなたの想いはそれだけでちゃんと価値があるのだから。


 あなたの心はそれだけでちゃんと価値があるのだから。


 そしていつかちゃんと伝えようとできたなら。


 それはそれで大丈夫じゃないですか。


 スタートの準備はとっくにできているのだから。


 あなたのそれは、まぎれもなくきっと恋なのだから。

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きっと恋だと誰かが言って キノハタ @kinohata

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