第23話
あの求婚後、面白い様にトントンと結婚準備が進み、婚約期間はたったの半年で結婚することになった。
婚約から結婚までの期間が短かったのはクリスの我侭と、他国への牽制も兼ねている・・・らしい。
DNA鑑定や衛士隊、食関係の改善・・・等々。画期的な提案だった為に、他国にも私の名前が知れ渡っていたらしいの。
私の敵は国内だけではなく、国外にもいるのだと聞いて、正直驚きを隠せなかった。
他国の人達は、自国の発展の為に私を飼い殺そうとしているらしいとの事。怖い、怖い!
私は知らなかったんだけど、侯爵家からと王宮からとで私に護衛が付けられていたみたい。
こうして真実を聞けば、感謝しかないわ。
私がクリスと結婚すれば王族になるから、滅多な事で手は出せないでしょ?
だから、結婚を急いだらしいわ。
そう言う事情もあって、他国へのお披露目はさらにもう半年後に行う事になった。クリスが王太子に決まった事のお披露目と一緒に。
そう、結局はクリスが王太子となり、レオンは補佐へと回ったの。
この二人、王太子の座を押しつけ合っていたんだけど、元々クリスの方が能力的に国王に向いているだろうと言われていた。
まぁ、レオンは脳筋な所もあったからね。
私のお店であるパン屋さんは、人を派遣する事になったの。
今まで通りとはいかなくても、当然、私もお店には行くわよ。
私の実家である侯爵家の跡取りは、今現在の所、私達の子供が継ぐことになっている。最低でも三人位は産まないとね・・・・
ただ、お母様に子供が授かればその子が跡取りに。
・・・・あの夫婦はまだ若いからもう一人くらい産んでもおかしくはないけれど、私的には複雑。
だって、下手すれば私の子供と、弟か妹となる子が同い年になる可能性もあるのだから。
子供は授かりものだから、今どうこう言っても仕様がないんだけどね。
そして今日がなんと!結婚式当日だったりする。
たった半年の婚約期間。兎に角、忙しかった・・・
お妃教育に関しては、お墨付きをもらっており、後は王太子妃としての補足的な授業のみだ。
だって、小説の様にお花畑になるのが嫌で、完璧令嬢を目指したんだもの!
鏡の中に映る私は、自分で言うのもなんだけど・・・美しい・・・
自画自賛!というか、どうしても第三者の目で見てしまうのが癖の様になっていて、普段から鏡を見ても他人の顔にしか見えていなかった。
でも、今日は何故だかこれが自分の顔なんだ・・・と、今更ながらに胸の内に納まった。
そしてふと、これって本当に小説の世界だったのかな?と考える。
私を断罪する予定だった王子達は年上で幼馴染。
侯爵様を騙し入り込んだ母子は早々に退場。
断罪される筈だったパーティでは、王子とエミリー様に守られ。
守られてしまったがために、平民、国外追放イベントは消失。
そして究極は、王太子妃になってしまった事。
これって・・・断罪ヒロインでは無くて、ただのヒロインなんじゃね?と、今更ながらに気付く・・・・いやっ!気付くのが遅いって!
確かにここは小説の世界かもしれないけど、強制力らしきものはピンク頭が私を断罪しようとした事位で、貴族令嬢の割には自由に生きてこれた。
小説では描かれていない所謂モブの人達が一生懸命に逞しく生き、私とも関わりを持っている。
あぁ・・・ベースは小説かもしれないけれど、どう選択してどう生きるのかは自分で考えないといけないのよね。
前世と同じで、此処は現実世界。
なんか、本当に今更だけど結婚を機に『小説』という呪縛から解放された気がして、全てを素直に受け入れる事ができたみたいだ。
そう、今正に生まれ変わった人生なのだと実感していた。
だからなのか、あれだけ父と認められなかった侯爵様を『お父様』と呼ぶ事にも抵抗がなく、先ほど両親への挨拶と共にそう呼べば大人げもなく夫婦揃ってギャン泣きしながら退場していった。
そんな両親と入れ替わる様にクリスがやって来て、「アディ、準備は・・・・」と言ったきり固まっている。
私は私で目の前のクリスがカッコ良すぎて「っ!クリス!カッコイイ・・・・素敵!」そう叫ぶと、うっとりと彼を見つめた。
彼は白を基調とした正装で、髪は後頭部で一つにまとめて垂らし、私の目と同じ色の紐で結んでいる。
自分の気持に素直になった途端、彼が眩しくて愛おしくて仕方がない。
気持ち一つでこんなにも変わってしまうのかと、今までよく普通にクリスと付き合っていられたなぁと、今となっては彼をどのように思っていたのかすらおぼろげである。
お互いぼぉっと見つめ合っていたけれど、クリスがはっとした様に我に返り嬉しそうに私を見下ろす。
「アディ・・・なんて、美しいんだ・・・・」
そう言いながら腰を抱きよせるクリスの頬はほんのり朱に染まり、とろりとした甘い眼差しをしていた。
「あぁ、早く夜にならないかな・・・」
溜息の様に吐き出された言葉に、その意味を理解するや否や私の頬に熱が上がる。
彼の求婚を受け入れてからと言うもの、クリスは人が変わったかの様にスキンシップが激しくなった。
身体のどこか一部にでも触れていないと、死んでしまうのか!?と思うくらい、べたべたべたべた・・・・・
初めの頃は、彼の変わりように恥ずかしくて眩暈がしていたが、今では大分慣れてきた・・・周りに人がいなければ、だけどね。
態度だけではなく言葉でも愛情を伝えてくれて、今の様に心だけではなく早く身体も結ばれたいと、恥ずかしげもなく囁くから堪ったものではない。
それに、何歳になっても何度恋しても、好きな人の前では初心になるのだ。これまでの経験値なんて役にも立たない。仕方の無い事なのよ。
だけれど、やっぱり、振り回されっぱなしなのも面白くなくて、ちょっとはやり返したい気持ちもあった事は確か。
止めときゃいいのに、とろっとろな表情のクリスの耳元に唇を寄せ「私もよ」と囁いてしまった私。
電光石火の早業とは、こう言う事を言うのかもしれない。
「私もよ」と言い終わった瞬間、いや「私も」の「も」を言ったか言わないかの辺りで、口を塞がれていた。勿論クリスの唇で・・・・
其処からはもう大変!濃厚でぐっちゅぐちゅのキスをされて、でろっでろになっている所に、時間を知らせに侍女頭がやって来た。
当然クリスは侍女頭に雷を落とされ強制退場。
私はと言うと、お小言を受けながらも化粧を直され何事も無かったかのように整えられた。
少しすると、口紅
差し出された手に手を乗せれば、途端に蕩けた表情となり思わず笑みが零れる。
この世が小説の世界だったとしても、結婚後の事は語られてはいなかった。
ならば、此処からは読者も羨むような物語を、愛しい人と思うままがに紡いでいけばいい。
でもそれは、決して公開はしないけれどもね。
完
断罪ヒロインだと思っていたら、ただのヒロインだった件 ひとみん @kuzukohime
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