第3話 入学式の後

「足立 翔子と申しましゅ」 いきなりかんだ。痛い。教室がドッと沸く。

30年前の嫁も笑っている。「翔子ちゃんかわいー」男子が囃し立てる。

血の味がして、顔が熱くなり、耳まで真っ赤に染まっていくのが自分でも分かる。

当たり前だ、昨日女の子に転生したばかりなのに、

1番最初に自己紹介をさせられて、緊張しないわけがない。

もともと必要以上に緊張する性格なので、昔から齢45になる今でも

自己紹介みたいなのは苦手だ。「足立 翔子で~す。中身は45歳のおっさんで~す。

好きな物はビールとギョウザで~す。げへ」なんて言えたら気持ちいいだろうな。

絶対に言えないが。こういうのは出席番号順なので、青井さんでもいない限り、

小学校入学時からたいてい1番最初にさせられてきた。

苗字が「和田」とかだったら良かったのにな~と思う時もあった。

でも最後にやるのも緊張するから、嫁の旧姓の「島崎」くらいがいいか。

などと考えていると、その嫁の自己紹介の番になった。もうわかっていたが、

嫁はこの世界でも女として生まれてきていた。俺とは違って良かったような、

試練が難しくなるから男で生まれてきて欲しかったような、複雑な気分だ。

試練が終われば元の世界で嫁に会えるんだし。


「島崎 千尋と言います。趣味は編み物と料理です。よろしくお願いします。」

緊張しているせいか、早口で無難に終わらせやがったな。

そんなところは30年後も変わってないな。違うところは・・・若い!可愛い!

細い!でかい!いや、身長と胸囲は30年間ほぼ変わっていないようだが、

その他はまるで使用前、使用後のようだ、なんて元の世界で言うと

次の日から飯がなくなるな。


さて、自己紹介もHRも終わって、今日はもう帰るだけだが、何か声を掛けた方が

いいのだろうか?









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30年前の嫁を同級生(女子)の立場でオトさないと元の世界に帰れません。 足立 翔吾 @zigzagwalk

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