第2話 入学式の朝
朝になって目が覚めた。夢オチ、ではなく15歳の女の子のままだった。
「翔子!遅刻するよ!早くしなさい!」昔から、30年後でも口うるさい
母親の声が飛んできた。父親はもう仕事に行ったようだ。両親の仕事は
元の世界と同じで、母親の仕事は実家が店舗の美容師だ。
部屋のハンガーに吊るされている真新しい制服に着替える。
女性特有の下着は問題なく装着していた。体が覚えている感じだった。
といっても元の世界で女装趣味があったわけではない。文字通り
体が覚えているのだろう。テレビのヒーローが、初めてぶっ放す
はずの必殺技を知っているのと同じような感じ?だと思う。
ちょっと違うな。
というわけで、初めてのスカートも違和感はなかった。元の世界では
小学生の頃から剣道をやってて、袴は慣れてるから感触は似てるけど。
「背、ちっさ。」
昨日から目線が低いので薄々気付いていたが、鏡の前に立って実感する。
元の世界の俺は170センチ位で男性としては普通だったが、
嫁は俺よりもほんの少し背が高かったくらいだ。
今の自分は150センチないんじゃないか?15歳の女子の平均身長以下だろうな。
胸は意外とあるので、こっちは明らかに平均以上だろう。谷間もしっかりあるし。
約20年で何千回、いや何万回、吸った揉んだ?してきた嫁のを思い出して比べてみると、明らかに自分の方がでかい。嫁もかなりでかかったが。でもこの世界では2人共まだ誰にも触らせたことなんかないはずだ。2人共オクテだったし。
パラレルワールドの自分のだけど、元の持ち主に悪いので、
あんまりいじらないでおこう。
店で母親に髪をセットしてもらう。女の子の姿でされるのは俺は初めてだったが、
母親はさも当然のように仕上げていく。15年間、毎日女の子として扱ってきたのだから当然だろう。今の中身は45歳のおっさんだがな。でも間違いなくあなたの子ですよ。今の中身はあなたから生まれたわけではないけど、
あなたは俺の記憶している母親そのものなのだから。
懐かしいな、20代の頃はロン毛で母親に染めてもらってたな。鏡に映る人の白髪が少し増えた時を想像して思い出す。その頃はよく女に間違えられたけど、今は体だけは本物だ。トイレでも確かめたし。違う意味で見慣れたものだった。
元の世界では14歳になる娘のおしめも替えてたし。よく見れば、鏡に映る自分は
娘そっくりだ。娘は父親似だし当たり前か。じゃあ俺が女に生まれていて、娘ができていたらそっくりになるのか?分からなくなってきた。そんなパラレルワールドもたぶんあるのだろう。いま確信したが、この体の持ち主は、存在Xによってどこかのパラレルワールドで元気に試練を受けているな。俺と同じように最近事故にあってICUに入っていたらしいし。女なのに男にされて、男を口説いたら元の世界に返してやるなんて言われて、15歳の女の子なのに45歳のおっさんに転生させられてたりして。それじゃ俺と真逆だな。俺の代わりに俺の元の世界にいたりしてな。
事故にあって命を助けてもらって、試練をクリアしたら元の世界に戻れるという
チャンスをくれた存在Xには感謝しているが、実は事故もわざと起こして、
趣味を満たせるような試練を与えてるんじゃないだろうな?
まさにマッチポンプというやつじゃないか?
「はい、終わったよ」
そんな妄想にふけっていたら、髪のセットが終わったようだ。
ツインテールかよ!丸顔だから似合うとはいえ、中身45歳のおっさんにそれは・・・と思ったが、150センチなさそうな体と童顔にちょう似合うから、
文句は言わずにそのまま行くことにした。さすが母親、子供に何が似合うかよく
分かってらっしゃる。今日初めて出会えるはずの、30年前の嫁にアピール
できるかな?いやいやいや、アピール方法はこれでいいのか?
嫁が男だったらこれでいいかもしれないが、おそらく女どうしで出会うはずだから、翔子ちゃんって可愛いね~だけで終わっちゃうのでは?
そもそも、この世界では嫁が女として生まれているとは限らない。
男として生まれてくれていた方がオトしやすいんじゃないか。
特別な仲になりさえすれば、元の世界に戻れるんだし。
だとすると、俺が女として、男を誘惑する事になるのか?
頭が痛くなってきた。とにかく身だしなみには気を遣っておこう。
運命の人の性別がどちらでも、後悔しないように。
それこそ30年振りに、母親に連れられて出かける。
自分の母校ではない、嫁の母校の入学式に。
人生2度目になる1991年の桜も綺麗だった。
2021年の桜は、元の世界で見られるのだろうか?
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