第10話 素敵な場所
楽しい時間てのは、あっちゅー間に過ぎていくもんで、雪乃達ぁ~ぶぅーぶぅー文句垂れながら別荘まで戻って来たと思いねえ。
シャワー済ませてからおいらは、帰りたく無いってわがまま言いやがる雪乃をチャリの後ろに乗せて、ちょいと連れ出した。
『何処いくの?』
「いいから黙って乗ってろ!」
海の帰り道に通った一ノ宮川の橋の真ん中でチャリを停めた。
「ほら」って言って顎を向けた。
『わぁ~綺麗ぇ~』
「おいらはこの時間のこの景色が好きなんだ!」
一ノ宮川が緩やかに弧を描き、林の向こうにちらちらと灯りの燈った田舎屋。そこに沈む夕陽、杭に繋がれてキラキラの水面で踊る小船。
「おいら田舎がねえから、この景色がおいらの田舎なんだ」
『うん』
喋りの雪乃が微笑んだまんまおいらの田舎を見ていやがる。
『素敵だね』
「そうだろ、何だか懐かしい気持ちになっちまうんだよ。」
『何となく分かる。だから田舎なんだね』
「ほら 行くぞ!」
『え~何処へ?』
「いいから!ほらっ乗っかれ」
『ハイハイ また海?』
「ああ 海!」
さっきまで遊んでいた海岸にチャリを走らせた。
「この時間のさっきの場所とここが特別だからお前を連れて来たんだろ!」
海岸から海に向かって迫り出した堤防の真ん中でチャリを停めて腰を下ろしたと思いねえ。
堤防に腰を下ろしているとまるで海に浮かんでいるかの様で、海の上から見る浜辺とその後ろに広がる防砂林。その向こうの田園風景には夕陽が溶けていく。
優しい光が海面をキラキラと輝かしている。
『道ちゃん、、、、、』
「夏の海の夕方 5時~6時くれあの間が一番好きなんだ」
「なんだか優しいだろ、全てが」
『ずっと一緒にいれたら良いね』
「ああ」
そろそろ帰さねえといけねえなあと独りごち
別荘に戻ると雪乃と由美ちゃんのケツを叩き
、帰り支度をさせおいらと聡はそれぞれチャリの後ろに乗せて駅まで向かったと思いねえ。
田んぼのあぜ道をチャリのニケツで走る姿なんざあ、どうみても田舎モンのカップルじゃあ御座いやせんか。
したっけこれが中々おつとくりゃあ。
夕陽に包まれた田園風景の中をお互い心を寄せ合う男女二組。稲の緑の絨毯がおいら達を優しく迎えてくれてらあ。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」「八時くれあには家に着くだろうから、着いたら電話しろよ」
別荘に戻り皆と食事も終わりかけの頃。
バタン! ブゥーン、、、
雪乃と由美ちゃんがタクシーで戻って来やがった。この浅はかなおなごの行動が後でとんでもねえ騒動を巻き起こしやがる。
「何してんだ!おめえら!」
『もう電車は無いし、駅に変な人が居るから戻って来ちゃった』
「電車はまだあんだろ!」「時刻表だって一緒に見たじゃあねえか?」
『泊まちゃダメかな?』
『まだココに居たいし』
「与太飛ばしてんじゃあねえよ!何てえ家に説明すんだ!」
どうにかなると思ったのか?二人で勝手に相談して戻って来た始末。どんだけ好きな相手でもそいつぁ~無理な相談よ。
「聡!もっかい行くぞ!」
「おう わがままもたいげえにしろよな!」
女にゃあ怒らねえ聡も流石にキレていなすった。何せ駅までチャリで片道3.40分。おまけにニケツじゃあかなりしんどい。
おいらと聡はそれぞれ人騒がせ我がまま娘を乗せ、再度駅まで急いだ。
十時ちょいに駅に到着!十時十八分の最終に間に合った。
駅に着いた時、雪乃達が言っていた変な人ってえのがいて、二十四、五の地元のヤンキー崩れみてえな野郎で、「お~今度は男連れかよぉ~可愛い顔してやるね~俺らも混ぜろよ!」とか抜かしてやがる。
「やかましいわ!」「後で相手してやるから待ってろや!ボケ!」
間髪入れずにおいらと聡が飛ばし!とりあえず雪乃達を電車に乗せた。
「まっつぐ帰るんだぞ!」
『うん ごめんなさい』
電車を見送ってから後一仕事。
聡も腕力は強かあねえが、根性あって引かねえ男。二人気合で駅から出りゃあ、誰も居ねえ始末。
「なんでえ!拍子抜けだなあ」
「ああ 気合入れ損だな」って二人仲良くチャリで別荘まで向かったと思いねえ。
ホッとしたおいらと聡は、海でキスしただの乳揉んだだのと互いの話で盛り上がり、田ん中道でペダルを急がしていた。
後ろっから車のライトがおいら達目掛けて突っ込んで来やがる!
おいらと聡は間一髪で避け、田ん中道からチャリごと外れすっ転び、土手際ギリであわや田んぼの中!って有様。
過ぎ去る車から罵声が、、、「ガキがぁー 調子こいてんじゃあねえっぺっ!」
おいらと聡の口ん中にゃあ転倒した時に雑草と土が、、、「かっぺに、ぺっぺっぺっ!ねえっぺっぺっぺっぺっだとぉ~」
ぺっぺっぺっぺっと口んなかから雑草と土を吐き出しながら叫んだ!
腕と足を擦りむく程度の怪我で済んだが、腹立たしいったらありゃしねえ。男ならステゴロで勝負じゃあ御座いやせんか?
したっけ流石に鉄の塊にゃあ適わねえと独りごち。
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