第6話 告白

午後4時、十分に遊んだおいら達は帰る事に。

着替えを済ませた雪乃の半乾きの髪姿もちょいと可愛い。


四ヶ月半ぶりに逢って二人きりのデート。私学に通っても何一つ変わらぬ雪乃。

おいらの中で眠っていた何かが確実に目覚めやがった。胸の奥が熱くキューンとしているのを感じた。


なんだかプールに居た時よりも元気の無い雪乃。

「どうした?」「疲れちまったか?」

『 、 、 、 』

「どっか具合ぇーでも悪いか?」

『まだ帰りたくない』『まだ一緒に居たい』

『だってずぅーと逢えなかったんだよ』

「ああ 帰りに上野で降りて、久方ぶりに不忍さんでボートでも乗るか?」「まだ間に合うぞ!」  

『うん!』

不忍池のボートは小学校時分によく皆で行っていた場所。もちろん2人で行くのは初めてだった。


「ギリちょんで30分乗れらあ」

『良かった』

二人乗りのボートでおいらがオールを握り、不忍通り側に向かった。

何となく乗り場から遠くに離れたかった。

周りにボートがいねえのを見計らって、おいらは根性決めて雪乃の顔を真っつぐ見ながら口を開いた。

「雪乃 おめえの事が好きだ」「おいらの彼女になっちゃあ貰えねえか?」


『道ちゃん!』


「あっ あぶねえよ!あぶねえ」

雪乃の野郎!ボートの上だって事忘れてんじゃあねえか?突然おいらに抱きついて来やがった。

『やっとちゃんと言って貰えた』

「おめえ泣いてんのか?」

「泣いてないモン!」

そっと唇を合わせた。ボートが心配でほんとにそっとで御座いやす。


雪乃が微笑みながら『あたし決めてる事があるんだ!』『絶対に!』

「何が?」

『内緒』

「何だよ!そこまで言って勿体つけんなよ」


『な い しょっ』


夕陽が蓮の葉と水面を輝かしてた不忍池を後に、2人仲良く弁天堂で御参りしていたと思いねえ。

この辺りは涼しく夕涼みにゃあ持って来いの場所。夏も終わりかけだがまだまだ暑い日が続き、夕方になっても汗ばんじまう有様。


『もうちょっとだけお散歩してかない?』

今しがた、おいらの告白を受けて気持ちが高揚してんのも分からんでもねえが、この時間のここいらは浴衣着て夕涼みしに来ている年配のご夫婦やデートを楽しむアベックなんかが多いときてらあ。もしかして刺激されてんじゃあ御座いやせんかと独りごち。


「ほんじゃあ、噴水広場の方回って帰るか?」 

『うん そうしよ』

もそっと歳重ねていやがったら、伊豆栄の鰻だの精養軒のフレンチかって言いてえとこだが、十二、三のガキにゃあまだまだ敷居が高こう御座います。

弁天堂から五條天神の入り口かわし、精養軒を抜けて東照宮過ぎりゃあ噴水広場!

不忍池の周りよか幾分かあ人も少ねえが、噴水の周りにゃあ二体一対のアベックがチラホラと愛を囁き合ってらあ。

ちょいと離れたベンチでおいらと雪乃は腰を下ろした。 煙草を取り出し先ずは一服!


『道ちゃん!』

「大丈夫だよ。暗えし十八くれあには見えっから!」火ぃつけ様とした手え摑まれてキスしてきやがった。

『煙草臭くなる前に』

おいらは煙草をしまってもっかいキスよ。

『休み中またデートしよ』 

「ああ」

『道ちゃん!』  

「ん?」

『ホントはね、由美と連絡取り合ってて道ちゃんが全然連絡くれないって愚痴こぼしたら、

アイツ結構モテてるから他の子に取られちゃうよって!雪ちゃんグズグズしてちゃダメって言われちゃったんだ』

おいらは思わず雪乃を抱きしめた。

「そんなこったろうと思った。連絡しなくてごめんな。由美に感謝しねえとな」

『怒らないの?』

「なんで怒る必要があんだよ!こうして居られんのに」   

『良かった』


それからおいらと雪乃は幾度となくデートしたり、雪乃の家に遊びに行ったりと付き合いを重ねていったと思いねえ。


雪乃の両親は上野で飲食店をやっていて、夜は不在。春日通りを隅田川に向かって、ちょいと左に入った集合住宅の3階。両親の住む部屋と姉妹で住む部屋の2つを借りていて雪乃たちの部屋は1DK。両親の部屋は階段挟んだ向こうかわし。

でけえ集合住宅だから同級生の家も何件か在るが、その中で雪乃もおいらも可愛がってる後輩の新山くんがスーパーアリバイ要員として後に大活躍するってえ塩梅よ。


中学校では由美ちゃんの厳しい監視下に置かれていたおいらだったが、由美ちゃんがおいらのマブダチの聡と付き合うことになり、ぞっこんの由美ちゃんの監視の目も緩くなったが、余所見もせずに聡達とダブルデートをしたりと楽しい日々が続いていたと思いねえ。


先に話した新山くんの大活躍ってのを語っておきましょう。

おいらが雪乃のとこに遊びに行くと、お姉ちゃんは気を利かせて母屋へ。稀に親父が様子見だか用事があってだか帰えって来るときが有りやがる。そーすっとお姉ちゃんが知らせに来て、雪乃が新山くんを呼び、おいらは新山くんと2人仲良く部屋を出て行くって具合えーよ。

集合住宅だが、周り近所は顔見知りが多く、バッタリ親父に見られりゃあマズいってんで新山くんの登場となりやす。

1、2度雪乃の親父と鉢合わせしたが、新山くんと一緒だったので怪しまれず万事休す。それにしても新山くんは嫌な顔ひとつ見せずいい奴だったなあーと独りごち。


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