第5話 再会

この出来事から半月ちょいした8月の半ばっくれあの頃だった。

『道ぃ~電話だよ~ 雪乃ちゃんからぁ~』


さなえの事から暫くは、「やっぱしやっときゃあ良かったかなぁ~」とか「せめて拝まして貰えりゃあ良かったかなぁ~」とか格好つけ過ぎちまった若き獅子は反省しきりで御座いやした。 そんな時の懐かしい声!


『道ちゃん!元気にしてたぁ~』

『学校慣れたぁ~』

『雪乃は通学にも慣れて、友達も出来たんだあ。朝は雪乃のほうが早く家出るから無理だけど、帰りに逢わないかなぁ~なんて思いながら、全然逢えないんだもん!』

女はなんでこうも畳み掛けるように喋りやがると独りごちしながら、たった4ヶ月半ぶりの雪乃の声に懐かしいやら心地良いやら、聞いているだけで笑顔になっちまう不思議な感覚に囚われていると、急に雪乃の野郎が怒り出しやがった。


『なんで連絡してくれないの!』

『なんでほっぽらかしなの!』

『なんで!なんで!』のオンパレード。

おめえはなんで屋さんかと独りごち。

『ずっと連絡待ってたのに、道ちゃんは楽しく中学校生活送ってるみたいだけどぉ!』

先にチアリーダーでご登場の雪乃の親友の由美と連絡を取り合ってたみてえで、おいらの近況はご存知のご様子。由美はおいらと同じ町内会でお金持ちのお嬢。おいらとも仲良しだが、雪乃と連絡し合ってる事は黙っていやがった。まあ雪乃の事だから自分で言うって言ってたんだろうが。


おいらと雪乃とは付き合いを約束した仲じゃあねえが、なんだか恋女房と浮気性の亭主みてえな間柄だったのかなあ?ガキの分際で。


『逢いたい、』

聞いた事のねえ小せえ刹那な声

「ああ~おいらも!」

この時分から咄嗟にこういう事をいけしゃあしゃあと言いやがるおいらの口。

『ほんとぉ~に!』

電話の向こうで笑みが見えらあ。

「本当よ!したっけおめえは私学の女子中。連絡したくても相手にされなかったら恥ずかしいじゃねえか?」

よくもまぁ~この口ときたら、


まあ小せえ時分から先公にゃあ“お前は口から先に生まれてきたのかあ!って怒鳴られても、「いや、おいらは逆子だったんで足からです。悪しからず!」なんて言ってよく引っ張叩かれたなあと独りごち。

『じゃあ今度の日曜日デートしよ』優しくして、怒って、切なくして可愛らしく!おいらは完全に手玉に取られちゃあいやせんか?

『ママがお店のお客さんから東京マリンのチケット貰って来たから、プールデートね』

東京マリンといやあ今を時めくアイドルやらタレントやらが撮影だの番組だのってやる東京屈指のアミューズメントパーク!今までもねえコレからも絶対にねえ~!足立区に有名人が集結する場所なんざぁ~!!


『じゃあ決まりね。今度は道ちゃんが電話して』『時間とか決めようね』って言って電話を切りやがった。絶対あいつぁ~武田信玄の生まれ変わりに違えねえ。やり方が風林火山そのものじゃあねえかと独りごち。

でも雪乃は可愛いなあ。なんであんなにも真正面からぶつかって来やがる。おいらの何処がそんなに良いんだか?あの器量ならいっぺえ男が寄ってくらあな。

さてさて東京マリンかあ!雪乃はどんな水着で来やがるんだろう、と大きくなって行く息子に話しかけていると思いねえ。


金曜日の夜、言われた通りに雪乃の家に電話すりゃあ、

「もしもし あの~」

『あっ道ちゃん!ちょっと待っててね!』

お姉ちゃんがでやがった。マブいんだよなぁ~お姉ちゃんと独りごち。

『道ちゃん!約束通り電話してくれた!』

ルンルンしてやがらあ。

「時間どうすっか?」

『せっかくだから早く行きたい!』

「ああじゃあ9時頃にすっか?」 

『8時半!』

「わかった、わかった。8時半にヒサヤ大黒堂のめえな!」

春日通りと清洲橋通りの角の“ぢ”の看板のとこである。

『ねえねえ、浮き輪持って行く?』

「おいらはいいよ」

『え~持っていこうよ!雪乃は持っていくから、道ちゃんも持ってきてね!』

「あったらな?」

『もう 貸してあげないからね?』『敷くのは雪乃が持ってくね!』

めちゃくちゃ楽しそうな雪乃。


『なんかねえ 流れるプールが速くて、波のプールも溺れちゃうくらいなんだよ!』

先にお姉ちゃんとお姉ちゃんの友達と一緒に行ったらしく、興奮気味の説明でございやす

『あっ!道ちゃん泳ぎ得意だったもんね!』

『溺れそうになったら、道ちゃんに助けて貰おっと』

「馬鹿かおめえは!」

『何よぉ~』

「じゃあ日曜な!」

『明日も電話して!』

「わかったよ。じゃあな!」

行くまでおいらがバックレんじゃあねえかって心配してんのかなあ?おいらも楽しみなんでえと独りごち

次の日も電話をして雪乃を安心させた。


日曜日の朝、予定通り雪乃と東京マリン!

入り口でもえれえ待たされ、おいらがイライラしてようと何食わぬ顔でしっかり手なんざあ握りやがってニコニコ顔!アベックも多いが夏休み中の日曜とあって家族連れが凄い数。

やっとの思いで入り口まで来りゃあ、更衣室もごった返し!女子更衣室は2階,男子更衣室は3階と分かれていて3階がプールの入り口になってらあ。雪乃とはプール入り口の出たとこで待ち合わせだったが、皆さん同じ事を考えなさりゃあ、其処もいっぱいてえ有様よ。雪乃とようやっと合流!いざプールへ!


ピンク地に白の花柄ビキニ姿の雪乃!

スクール水着しか見たこと無かったおいらは

目が釘付け!“可愛い メチャクチャ可愛い

”こんなにも大人っぽかったっけ?おいらが物凄く子供に感じやがる。動揺をかくしながら、、、

「すっげえ人だな!」

『お姉ちゃん達と来た時は平日だったからこんなじゃ無かったの!ごめんね』『日曜にしなきゃ良かったね!』 

「大丈夫だよ!」

本当はその通りと独りごち。


『場所取りしよ!』 

「ああ」

尻に敷かれてらあと思いながらも、こうゆう事は女の方が図々しいから、まっいいかぁ雪乃にお任せとしよ。

『道ちゃん!浮き輪は?』

雪乃が持ってきた浮き輪を取り上げ、膨らましてあげた。

『もぉ~絶対持ってこないと思った!』

「押さえてあげるから」

『うん!』

早速、流れるプールへ!まるで芋洗いじゃあ御座いやせんか?

それでも雪乃を浮き輪に座らせ、おいらが押さえながらピチャピチャキャッキャッと芋洗い流れるプールで遊んでいたと思いねえ。

『ずっと前から道ちゃんと2人で出かけたかったんだ。良かった!来れて』

おいらは浮き輪を押さえる振りをして、雪乃に身体を寄せた。今日は混んでても絶対にイライラしねえぞって心に誓いやした。


雪乃に触れながら間近でビキニ姿の股間なんざあ見てりゃあ、おいらは海老になってプールから上がる事なんざあ出来やしません。

それから波のプールや競泳プールに移動して暫く熱した股間を冷やしていたと思いねえ。


プールから上がり小腹が空いたってんで、アメリカンドッグに焼きそば、ソフトクリームなんざあ2人仲良く分け合って食べりゃあ、

ほっぺに付いちまったケチャップなんてえペロッとして取りやがる始末。雪乃は周りのことなんざあ気にも留めねえご様子だが、おいらは小っ恥ずかしいったらありゃしねえ。大胆な行動はご健在で御座いやす。こいつぁヤンキーガールにちげえねえ。


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