第3話 目覚め

『こんにちわぁ~。おばさぁーん!コレ道ちゃんに、今日学校休んだから』

『今日は道ちゃんの好きなコーヒー牛乳出たから持って来ちゃった』

「わざわざありがとね」

『道ちゃんに明日学校で待ってるねって!』

「あいよ。気をつけて帰るんだよ。ありがとね」

『はぁーい』

「道ぃー。今、雪乃ちゃんがパンとコーヒー牛乳持ってきてくれたよ!」


「不味いパンはいらねぇよ。コーヒー牛乳は持って来てぇー」

おいらが学校休むたんび学校帰りにパン持ってきやがる。帰り道だからしょうがねえけど、、あんな不味いパンなんざぁ犬でも喰わねえよと独りごち。


おいらの時代じゃあ学校休むってえと、同じクラスで近所に住む子が給食のパンを持っていく決まりになっていやがった。あの時代たあ昭和四十年代高度経済成長期だったが、まだまだお江戸下町界隈にゃあ貧乏な家が多かったからか、そんな決まりを作ったんだろうな。


雪乃の家は別においらの家のすぐ近所じゃあねえが、おいらの家が学校のすぐそこだってんで、持って行く人~って聞かれると真っ先に手えあげたにちげえねえ。世話焼きだかんなぁ雪乃わ。


小四から小六まで雪乃のお節介は続いた。


雪乃はハーフみてえな顔立ちで、頭ぁあんまし良くねえが運動神経は抜群。オートバイみてえに足の速え活発な女の子。上にお姉ちゃんが居たせいもあってかなりのおませさんだった。発育もよく小四でオッパイなんざあぷっくりと出ていやがって、今にしてみりゃあスーパー小学生ってやつで御座いやす。


小四からずっとおいらの事が好きだったみてえで、何かにつけちゃあちょっかいかけて来やがる始末。おいらと来たらいろんな女の子好きになるんだが、あいつぁーおいらの何処が良いのか一途に想っていてくれた。

小四で初キッス。

小五で初パイ舐め。

流石に小学生じゃあおいらも雪乃もB止まりってこって。


おいらも小五で雪乃を女と意識し始めちまった。


小五の初めっ頃、講堂の壇上から屋根裏に上がるはしご階段で女子のスカート覗きをしてたら、たまさか雪乃の野郎が来てスカートの中見りゃあ驚くじゃねえか。他の女子たちは皆んなは深えパンツなのに、雪乃の野郎ときたら白の小せえパンティよ。股ぐらぁカタカナのルになってやがる。あんな小せえ代物じゃあ風邪引いちまうと独りごち。

おいらもこの覗きから雪乃を意識し始め、雪乃はもっと積極的になりやがる。


小5の軽井沢林間学校の時なんざぁあ雪乃の野郎、夜中に部屋を抜け出しておいらの部屋に来る始末。

『道ちゃ~ん。道ちゃ~ん。何処ぉ~』

消灯をとっくに過ぎて寝静まりかえってる広い部屋に、雪乃のそぉ~とした可愛い声が響き渡った。


おいらは慌てて飛び起き、雪乃に手招きしちまった。雪乃の野郎と来たら万遍の笑みですぅーとおいらの布団の中に入り込んで来やがった。まぁおいらもちょいと布団をめくり上げやしたけどね。


『一緒に寝たかったの』


おいらの人生、時計の針が人様の針よかちょいと早えやと独りごち。


おいらはクラスメイトに見えねえ様に、雪乃と布団をすっぽり被りゃあ、ガキの分際で唇合わせて舌なんざぁあ絡ます始末。

流石に周りも気付いて騒ついてやがるが、ガキ大将のおいらに文句を言う奴なんざぁいやしねえ。ちょいと潜ってパジャマのボタンをひとつ二つと外しゃあ、なんでえ、なんでえスポーツブラじゃあ御座いやせんか。

先に、雪乃の家で乳繰りあった時にゃあ可愛らしいブラジャーしてたじゃねえかと独りごち。

それでもブラん中手え入れてパンパンのおっぱい揉んではチュパチュパする有様よ。


あまりに周りが騒つくもんで、流石にヤバいと思ったおいらは、雪乃のパジャマを直して帰らすってえ始末よ。

いつの世も女は大胆な行動に出やがる。雪乃の大胆な行動っていやあコレだけじゃあなかった。


これも小5の時だったが、仲間と作った野球チーム「リトルロジャース」の台東区少年野球大会夏季公式戦初戦。隅田グランドC球場


雪乃の野郎、親友の由美ちゃん連れてチアガールの格好で登場しやがった。おまけにボンボリまで作って持って来やがる始末。

おいら達は3塁側。ダッグアウトの上に上がって応援と来たもんだ。

双方の監督やコーチ、アンパイアのおっさん連中は大喜び!

おいらはショートで3番、不動のレギュラー


守備につきゃあ、おいらのほう向いて

『道ちゃ~ん! 頑張ってぇ~!』

打席に入りゃあ、

『道ちゃ~ん! かっ飛ばせぇ~!』

おいらの顔は煙草を近づけりゃあ火が付くくれえ真っ赤になっちまってる。

ほんに女は凄え!

でも、キラッキラ輝いて可愛かったぁ~。素直に言ってやりゃあ良かったけど、小5のおいらには言えなかった。

「マブかったよ! 雪乃!」って


小六になってから雪乃が皆から総スカンくらって、派手が災いしちまったのかも知れねえが、辛え日々が続いていたが休まず学校に着ていやがった。

おいらといやあ隣のクラスの沙耶と付き合っていて、助けもせずに時折いじめに加わるって有様よ。一番助けて欲しかったおいらに。


何十年過ぎてもあの当時のことを思い出すと胸が苦しくなりやがる。たとえ小学生のガキの事とはいえ、その時分のおいらは自分勝手で人の痛みの分からねえ大馬鹿野郎。クズ野郎で御座いやした。


ある日、体育の授業で卓球があり、女子の片付けを雪乃一人でやっていた時、卓球台が倒れ雪乃が怪我をしちまった。それがきっかけでいじめがなくなり雪乃の辛え日々が終わった。


それでもこんなおいらを好きでいてくれて、責める事無く世話をしてくれる雪乃。おいらの行動は最低でした。

おいらの信条は『反省しても後悔せず』だが

、戻れるもんなら戻ってやり直してえ。

そんな事に気づいたのは随分と後のこと。この事はその後のおいらの人間形成に大きく影響されやした。


まあ雪乃とは笑顔で卒業と相成りましたが、おいらの小学校生活で雪乃とリトルロジャースを抜きにしたら語れねえ。

したっけ雪乃は中高一貫の私立の女子校へ。

おいらは地元の中学校へと別々の進路になっちまいやした。


卒業式の日、髪を二つに結び、薄いベージュのチェック柄のキュロットスーツを身に纏った雪乃が、証書片手においらのところに眩し過ぎる笑顔とともに走ってきやがった。

『道ちゃん!ありがとうね。一緒にいれて楽しかった。絶対、絶対に中学いっても連絡してね。じゃあまたね!』


おいらはただ「ああ」としか返せなかった。


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