第29話 ビュグロスの心の闇

ビュグロスは孤独だった。


ブロンシュの兄とされていたが単に先に産まれた

だけで数ヶ月の違い言わば同じ年齢なのだ。

ただ赤子時代から成長の差が有った、理由は母親

の関わり方だろう、別に乳母でも愛情があれば何

の問題は無い。でも、ビュクロスが乳母に懐けば

アコニは何故か腹を立て引き離したのだ…。

抱きもしない乳もやらなければ母親に懐かなくな

るのは当たり前の事、ましてや赤子は匂いや声に

安心するのだ、柔らかな匂い優しい声、アコニは

濃い香水で叫ぶばかりでは赤子は不安になり泣い

て嫌がる。そうして乳母に懐けば引き離されてい

ればビュグロスは愛情を持てば引き離されること

を学んでしまい、相手からも自分からも愛される

という事が出来なかったのが始まりだった。


だが、グリソンもそれなりに子供のビュグロスの

相手をしようとしていたのだ。それらをアコニが

邪魔をしたのは彼女の劣等感の所為だった…。

気付けばグリソンがニュイやニュイの赤子に会い

に行っていると知るや、すぐさま訪ねて嫌がらせ

を続けるのだ。

そして、ビュグロスの心はそこで決定的に壊され

てしまう。目にする母親のニュイはブロンを抱き

抱えているし、グリソンはその二人を守る様に立

つのだ…。自分の母親アコニは鬼の形相で喚き怒

鳴り、嫌な言葉ばかり発している。

幼いビュグロスは怖くて震えるだけだった。


その時、ニュイが静かに優しく抱きしめてくれた…

ブロンと一緒に分け隔てなく、背中を撫で穏やか

な声をかけてくれる。ビュグロスにとって赤子以

来の暖かさだった。優しい匂いに縋る様にしがみ

付いた事を憶えているしブロンも頭を撫でくれた

事も嬉しかったのは微かな記憶にあった。


それらは……一瞬だった。


グリソンを罵っていたアコニが気付いたのだ鬼の

形相を向け更に叫びながらニュイ達から引き離し

ていた。


「私の子供よ!汚い手で触らないで!」


自分の子供だと母親に言われたら普通なら嬉しい

はずの言葉たが、幼心に違う意味だと感じていた

し嫌だった……必死にニュイの元に行きたかった。

綺麗で優しいニュイの子供になりたかった…。

でも、ビュグロスの母はこの鬼の様な母だ嫌な匂

いしかしない母親なのだ。

なぜだ?…ナゼ……。


だから、綺麗で優しい母親を持つブロンが羨まし

く妬ましく……恨むしかなかった。


グリソンが差し伸べてくれる手すら目を背け見な

くなり、ただ恨み憎み母親と同じ様にするしか出

来なくなっていく、ただブロンへの嫌がらせしか

浮かばなくなっていった。


ブロンはグリソンに似て武芸に長けていた。素質

もあったかも知れないが父親からの手解きはアコ

ニにの目も有り到底無理であって、彼の努力の賜

物だった。

物腰や振る舞いも凛としたものなのは母親ニュイ

を見て学んだ物だった。紳士的な振舞いも品があ

り、それらも年に一度に会う父親の所作を学習し

ていたのもある。

ビュグロスは母親が嫌がるからとマナーを一つも

習わず、いや学習しなかったのだ。

歳を重ねて行く度に品の無い自分を恥るのに学ば

ず。無駄に憎しみを募らせるのだった。泥沼に落

ちていく様に…そして母親の言いなりになる。


それにもう……後戻りは出来ないと自ら闇の中に

落ちて行くだけだった。





暗闇に上がる火の手に誰かが気付いた。

小間使いや執事達や庭師が走り護衛も消火にあた

る、そして客達を素早く誘導しながら避難させて

行く。多少のトラブルには慣れたもので客達も用

心しながら少しづつ落ち着いて帰路につくのだ。

場所的に城の端であるから大騒ぎにも大事になる

様子もなかったが、国王の護衛の態度がおかしい

事に気付きブロンが様子を聞くのだ。


「その様子だと、ただのボヤ騒ぎじゃ無いんです

ね。」


「ああ、例の人身売買をする予定だった場所だ。

拘束されていた被害者達を確保したのだが犯行に

関係ある者は逃げた様なんだ。察知して逃げる為

に火を放ったのだろうが大した事無いのが気にな

るんだよ。」


国王も状況報告を聞き顎に手をあて、唸る様に悩

みながら、随分下調べして捕らえる準備したのだ

がなと首を傾げ「何故勘付かれたんだ?」と呟く。

ブロンはふとグリソンの傍らに立つ護衛を見て違

和感を感じた。


「フロモン国王、父の護衛は何方からですか?誰

かの紹介なのでしょうか?」


「ああ、私が付けたんだ。見ての通り様子がおか

しかったからな。側近から選りすぐったんだがど

うかしたか?」


「…父上、ビュグロスに付いている者達は?」


「フロモンからだと聞いているが。」


ブロンはもう一度、父グリソンの側に立つ護衛を

見る。父を気遣いながらも視線や佇まいに息を飲

むのだ。フロモン国王も何かを感じながら、


「ああ、私が見張り付けた。グリソンと同時期に

付けたのだが…」


「いつからですか!」


「随分と前になる…」


ジョーンヌも気付いて「まさか!奴等は違う」ブ

ロンは納得したように頷きながら。


「あれは、ビュクロスと一緒にいたのは護衛じゃ

ない傭兵だ。それをビュクロスは分かっている。」


あの日、突然ブロン達の前に現れたビュグロスと

二人の男は国王からの護衛じゃ無い。あの動きや

視線、そしてビュグロスを止めず俺たちに

のだから。


「すぐにビュグロスを探すんだ‼︎」


国王の声が響き渡るが、その場にまだ残って居た

客達の中から素早く移動する人影があり、そのま

まニュイとヴェルトの背後に近付く4人の男達は

素早く背後から拘束していくのだ。


「国王、静かにして頂きたい。怪我人を出したく

無いだろう?」


そう言って次々と客に紛れた傭兵達がその場に居

た無関係な客人の首にナイフを当てて拘束してい

くのだ紛れていた傭兵の数に驚く。


「動くなよ。まあ何人怪我しようが関係ないし、

俺達も死ぬ事は怖くないってのは分かりきった事

だよなぁ?」


そう話す頭らしき男が拘束するのは震えるネージ

ュだった。見れば首にナイフを当てている、他の

ジョーンヌやガルグイユには二人掛かりで傭兵が

拘束しているのだ。一体何人居るんだとブロンが

静かに視線だけで確認する様を見て、傭兵のリー

ダーはニヤリ顔で話しかける。


「黒髪のお前、お前がブロンシュだな?見ての通

りの数だけじゃ無いよ。傭兵は此処だけじゃなく、

あんたの城にも複数行ってるよ。まぁ今頃火の海

だろうなぁ。」


「火だと!何故だ何が目的なんだ。」


「さぁ知らんよ。俺らは金で動くだけだ恨まれた

自分に聞きな。」


理由も目的も興味無い、ただ金だけで動くのだろ

う何の感情も感じさせないリーダーの男は淡々と

話すだけだった。隙も無くフロモン国王も護衛達

もブロンも人質を取られた状態に動けずに居た。

ふと、静かになったホールに女性の声が聞こえた。


「変わってくださいね。」


その声はネージュでひとり喋って頷くのだ。拘束

しているリーダーの男がその行動に訝しむ。


「何だお前?ビュグロスが高値になると言ったが

頭イカレた女だったのか?」


話しかけられたネージュはさっきまで震えていた

筈なのに、落ち着いているし微かに笑みを見せ。


「そうこれはビュグロス様の仕業ですよね?今だ

に隠れてますけど、高見の見物ですか?」


「ネージュ?どうした。」


妙に落ち着いたネージュに違和感を感じ、ブロン

が声をかけるのだ。すると顔をこちらに向けにっ

こり微笑むと、


「ブロン様大丈夫ですよ。ちゃんとをお返し

ますからね。さぁ、出て来て下さい。」


まるで、見透かした様にある扉を見据えるネージ

ュに傭兵達もさすがに不気味に思い動揺し始める。


「頭、その女は何だ?予定じゃ適当な女とその白

い髪の女を拐って逃げる予定だったろ?それに雇

い主は先に逃げてる話しじゃ?」


「…黙ってろ。」


リーダーは静かに下っ端を黙らせ、ネージュが見

る扉を睨みながら低い声で呟く。


「確かにな、お前何で居るんだ?」


「…予定変更だ。」


扉を開けながら入って来たビュグロスが苦々しく

呟く、例の護衛二人も共に入ってきた。

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白い髪のネージュ 宏江さなえ @akira37e

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