第28話 伝説のマゴニア

「何故、現国王が?それにグリソンが俺の事を知

っているのも気になるんだが…」


警戒するガルグイユにグリソンは穏やかに話す。


「まず、現国王との話しは人身売買についての状

況や売られた竜に関する事を会ってから聞いて欲

しいのだ。それと、ガルグイユ殿を知っていると

言うか前国王から聞いた事があってね、銀色の髪

を持つ青年になるとね。ただ彼は面白おかしく話

す事が多いから、あまり信じてはいなかったのだ

がね…見事な銀髪だからそうだと思っただけなん

だが、彼女もそうかね?綺麗な白い髪だ。ブロン

シュの彼女だとは驚きだよ。」


真面目な顔でグリソンがネージュを見ているのだ

からネージュは真面目に返答する。


「まさか、私が水を吹いて頭を冷やすとかって思

っていますか?」


ネージュの言葉に、何となく頷くグリソンの表情

にまず護衛が素早く背を向けた。ニュイがビック

リしながらヴェルトにしがみつくし、ジョーンヌ

はもうしゃがみ込んで震える。

ガルグイユだけはそう思うだろうな〜と頷く。


ネージュが口を開けたまま、ブロンを見たがその

表情に口を閉じて膨れてしまう。


「面白がってるんでしょう…」


「いや、父上の表情に驚いている、初めて見たよ

…素直に頷いてる、くくっくっ」


真顔だったブロンだったが笑い出して止まらない。

深刻な話も真剣な話も出来なくなったが穏やかな

空気が拡がる…。悲しい苦しい思いをいつも彼女

は不思議と癒してくれる。父親さえ優しげな表情

をするのだから。


彼女が居る意味はと考えるが、ただ口元を緩め…


「ガルグイユ。ネージュを連れて来てくれてあり

がとう…感謝してもしきれないな。」


「いやまあ、俺としちゃ失敗だったよ?逃がした

魚は大き過ぎたな。」


ガルグイユが眉間に皺を寄せながら笑って、大袈

裟に天を仰ぐから、ジョーンヌが仕方ないよと肩

を叩いて一緒に笑うのだ、とても楽しそうに皆笑

い出すネージュが優しく何かを溶かし癒してくれ

たのだ。


そこへ、扉を叩く音がした。


「旦那様、国王様がいらっしゃいましたが如何致

しましょう?」


小間使いが扉を開けて顔を出すが、すぐ背後から

現国王フロモンが現れ部屋に入って来る。


「グリソン、さぁ来たぞ。具合はどうだ?気分を

変えて宴を始めようじゃないか。んっ?ブロンシ

ュ!来ていたのか。さぁ裏に引っ込んでないで出

てこい、お前が来たなら華やかになる。」


唐突に現れ捲し立てるように話す男はフロモン国

王でグリソンとは旧知の仲だ。戦さでは最強コン

ビと謳われ恐れられた。前国王もかなりの猛者で

あった為、隣国は何度も侵略を挑んだが三人の猛

獣の前では無駄に終わり、最終手段として隣国同

士が手を組んだの話に戻る。

その時のブロンの働きは知っての通り、猛獣の子

は怪物だ獣達は手負いでも笑っていると敵は退い

たのだ。国王親子はブロンを随分と口説いていた

のだ。


「そうだブロンシュ。グリソンを蹴り上げてくれ、

少しばかり身体が悪いからと弱気で腹が立つんだ

よ。息子のお前にされたら効くとおもうんだ。」


「これ以上されたら、さすがにくたばるぞ?」


護衛から杖を貰ったグリソンが笑いながらゆっく りフロモン国王の側へと歩いて来る、見れば赤く

なった頬と口元に笑ってしまう。


「何だ…ん?ぶはははっ。その顔は殴られたか?

いい息子だな。」


「そうだな、それに息子の彼女には水を掛けて尻

を叩くと言われたんだ。威厳を見せねば息子の面

目立たなくなるからな。」


「ほぅ、水か?ははははっ。そいつは良い子だな。

俺なら酒樽に入れるか?」


「何だ、本当はくたばらせたいのか?」


変わらず随分と楽しそうな父と国王の背中をブロ

ンは笑いながら叩いて促す。


「さあ、とっととを始めましょう。」


そう言って、やっと大広間にて宴が開かれたのだ。

宴と言っても単なる息抜きだ、今回は豊穣を祝っ

てだが戦さが無い今を愉しむのだ。ただそれだけ

だが日々いつ始まるか分からない戦場はやはり嫌

な物、緊張を解き酒を飲み騒ぐ時間は必要だ。


国王と友人でもあるグリソンだが領地も位も高い

だけあって集まった人もかなりの規模になった。

滅多に現れないブロンシュが来ると聞いて来た者

達もいるから酷い混雑になった。


「ほーブロンシュ。かなりの人気だな!」

「何がだ?」


ガルグイユが顎に手を当てて感心するのだが、ブ

ロンからすれば意味が分からなかった。何せ久し

ぶりでもあるが大抵は両親の事やミモザに関する

噂話だから聞きたくもないのだが…ガルグイユの

表情は楽しげなのだ。

竜の聴覚には色んな話し声や囁き声すら聞こえる

らしく聞こえる内容は、


「女がかなりの煩いな、彼方此方から聞こえるな。

それにネージュを気にしてるのも居るな。」


ブロンが困った様にため息をついたところで他の

隊長や隊員らしき団体が近付いて来る。先頭には

ガヌールやクルーズ達が居る、ブロンに挨拶がて

ら来たようだが…目的は違うようだった。


「やぁ、ブロンシュ!君が来るとは珍しいね。

国王も一緒だし何事だい?」


「まさか、ブロンシュ婚約したとかなのかい?」


えらく矢継ぎ早に話し掛ける彼等にブロンは首を

傾げるのだ。


「いや?違うが、何故だ?」


妙に笑顔の彼等に警戒してしまう、また変な噂話

だろうかとブロンが答えると、彼等は更に笑顔に

なるから意味がわからずにいると。


「そうか!こちらの美しい彼女はどちらの国の令 嬢かな?一緒に居るから知り合いなんだろう?紹

介してくれないか?」


「本当、御美しい!白い髪も妖精の様ですね。

どちらから来られたのです?僕達はブロンシュの

友人なんです。」


「ブロンシュとは長年の友人でね。」


「それとも国王の知り合いですか?」


ブロンの隣りに立つネージュを見ながら口々に話

すのだ、口説きに来たのが丸分かりでジョーンヌ

が笑いながら変わりに紹介するのだが…。


「彼女の事かい?ネージュ妃はマゴニア國から来

たんだ、隣りの彼は護衛だよ。ブロンが彼女を保

護した御礼に来たんだ。」


ガルグイユの肩を叩きながらジョーンヌが微笑む、

ガヌール達はえっ?マゴニア?まさかと動揺し始

める。ただネージュは声に聞き覚えがあったので

笑顔を見せて話す。


「あの時の方々ね?私は『白髪の婆さん』だって、

ブロンさんの趣味が悪いって言ってませんでした」


その事を思い出して、ガヌールとクルーズがサッ

と蒼ざめ。いや、あのと口籠りだす。周りの隊員

達からは又かの表情で睨まれてしまう、毎回ガヌ

ールとクルーズの口の悪さに辟易する。この様子

だと白い髪の美人とは楽しい話しすら出来無いだ

ろうと他の隊長や隊員達は気落ちするのだが、そ

れどころじゃ無かった。

ネージュの背後でガルグイユが眼を竜モードにし

て威嚇するから大変だ。


「ほう、我が妃を婆さんだと⁈いい度胸だな?」


ガルグイユの顔半分が鱗状になり、爪の伸びた鉛

色の手を見せながら低い唸り声を響かせて来る。


「もっもっもっ、申し訳ありませ…」


一瞬にして血の気が無くなった、ガヌールとクル

ーズは歯の根を震わせ詫びる言葉を言い切る前に

背を向けて素早く人混みに消えたのだ。

その立ち去る速さに唖然とする程だ、他の隊長や

隊員達から「申し訳なかったな、彼奴らにキツめ

に喝を入れておくから」と彼等は静かに立ち去る。


ただネージュは色々と呆れるし、何のつもりで来

だんだろうと首を傾げるが、それよりさつきの話

しが気になり。


「ジョーンヌさん、マゴニア國ってどこにあるん

ですか?」


「マゴニア國とは伝説の空中大陸だよ。

ネージュ妃とガルグイユでいかにも信憑性があっ

ていいだろ?ネージュ妃を怒らせたら、伝説の雷

が落ちるとかさ。」


古くから伝わる伝説の国らしい、子供達が大好き

な話しらしく今だに見つからないのは高度な技術

ゆえにと信じられているのだ。不思議そうに聞い

ていたネージュが感心しながら笑う。


「また、伝説を上手に使いますね…。私、水を吐

いたり雷落としたりと思われて。何だか本当にガ

ルグイユさんと同じ竜の様な気がして来ましたよ」


ため息をついてブロンを見るのだが微笑み。


「でも、ちょっとスッとしましたけどね。」


「そうか?ネージュ妃は本当に美しいのだから。

『婆さん』は無いな、それに…。」


笑顔のブロンがネージュの腰に手を回し抱き寄せ

て頬にキスをしたら、離れた場所からきゃーきゃ

ー悲鳴やら聞こえるのだがガルグイユの聴覚には

大人数の大音響で慌てて耳を塞ぎながら叫ぶ。


「止めろ!うるささが増す!」


ブロンは気にせずネージュを愛おしそうに見なが

ら髪を直す様に撫でたりして離そうとしないのだ。

恥ずかしがるネージュを揶揄う様子は側から見た

らイチャついてる風にも見える。

単にブロンはネージュは俺の女だと周りに牽制し

ているのだった。ガルグイユに言われなくとも男

達の視線にかなりイラついていたのだから、ガヌ

ール達が近付いた事で心配になり周知させようと

しているのだった。

ジョーンヌはブロンの行動にやり過ぎだと笑いな

らも独占欲の凄さに呆れ、でもネージュだから仕

方ないなとガルグイユと眺めていた。



そして、陽も落ちた暗闇。

城のホールからは楽しげな賑わいが聞こえるが離

れた場所では静かにその時が来たのだ……、

ヴェール城の人気の無い東側に火が放たれていた。

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