第27話 人身売買の黒幕

「ブロンシュに会いたいが為、年一回の訪問して

貰うのも苦肉の策だ。爺や二人は引退した護衛だ。

お前達に会いたい守りたいだけだった。

なのに、お前の大事な……」


ブロンは静かにグリソンの腕に手を置き首を振り


「あれは俺の責任だ。その事はいい。」


「だが、手にかけたのは…」


グリソンの言葉にブロンは腕に置いた手に力を込

める、視線だけを背後の皆に向けるような動きに

グリソンは気付いてハッとした。ニュイの横に立

つ背の高い男と白い髪の娘が寄り添って話しかけ

て居るのだこちらの話を聞こえないようにしてい

るのが分かる。あの時あんなに取り乱したニュイ

だ思い出させるのは酷な事だった、当然ブロンに

とってもだと情け無くなる。


「すまない、気が乱れたな。お前達に会えて興奮

し過ぎたんだが失礼だった…」


「大体の話しは分かりました。ただ兄達は、アコ

ニとビュグロスは何処に?」


「ビュグロスはもうすぐ出て来るだろうがアコニ

は亡くなったとビュグロスが伝えに行ったはずだ

が?宴の連絡ついでに自分で話すと言ってたのだ

が聞いて無いのか?」


扉近くで静かに話を聞いていたガルグイユやジョ

ーンヌ達の目の色が変わる。ブロンは父の状態に

感じていた何かが繋がり。


「…アコニはいつ、亡くなったんですか?」


「ミモザの事故の後だ、塞ぎ込み寝込むようにな

ってからすぐだった。お前達には負担になるから

連絡せずに…」


「そんな随分前なら幾らなんでも俺達の耳にも入

るだろ!」


「いや、アコニの身内だけで済ませたんだ。あま

りにも急死だったし、さすがに母親の死にビュグ

ロスが泣いて静かに過ごさせてくれと言って…」


ブロンは頭の中で益々不安が膨らみ、グリソンの

腕を掴む手に力がはいる。その様子で体調が悪く

なった理由にグリソンも息をつく。


「父上はいつから身体の具合が悪いのですか…」


「…アコニが亡くなってからだ。」


ガルグイユが静かにブロン達に近付き、スッとグ

リソンの目を覗き込む瞳は竜の瞳孔だった。


「毒だろう、臭いも出てるな数年間かけてだな…

ガタイがいいから持ってる感じだ。」


「どうにかなるか?」


「分からんが毒系等に詳しいのはギイだ、後で来

るから診させよう。」


「大事な事を話せたから。必要無いぞ、私はもう

いい…ただの年寄りだ、くたばるだけ…」


グリソンが投げやりに呟く途中で鈍い音がして椅

子から落ちる、ブロンが力一杯殴ったのだ。


「逃げるな‼︎そんな男を父親だと思いたく無い‼︎」


護衛が慌ててグリソンを起こしながら、眉間に皺

寄せて苦言する。


「いくら息子でも、病人を殴るとは!」


「病人?臆病者になっただけだ!戦さで名を馳せ

たグリソン・ヴェールだ!戦の猛獣だと言われ、

黒い獣の親だと言われてきただろうが!この程度

でくたばるのか‼︎たかが…たかが…毒ぐらいで、」


ブロンの背中が苦しそうだった、叫ぶ言葉に押し

殺してきた思いを感じる。一緒に過ごせなくても

似ていると他人に言われると父との繋がりを感じ

ていたのだ。どんな言われ方でも何を言われても

親子だと思われるなら…獣なら獣でもいい。


そんなブロンを見ながら、ネージュが思うのは自

分の両親の事、共働きだったが一緒に過ごす時間

はあった一つ屋根の下なのだから。時間が有れば

色んな話しが出来たのだ。それらは心の大きな糧

になってるのが今なら分かる。


ブロンの両親について多少は聞いて知っていた。

ネージュが見るブロンは母親に似て優しく穏やか

な男性だ。そして亡くなった彼女を思い泣き、兄

の行動に怒り、そして父親に悔しさをぶつけてい

るのだ。父の弱さ甘えを認めたくないのではなく、

ただ強い父でいて欲しいのだと思う。苦しいと言

っても辛いと泣いてもいいから足掻いてでも生き

る強さを見せて欲しいのだろう…。

投げやりな父を見たくないのだ、父の背中だけを

追って来たブロンは素直な優しい人なのだから。

ネージュはそんなブロンのどれもが愛おしくて仕

方なかった。駄々をこねる子供の様なブロンの背

中を撫でて話しかけていた。


「ブロンさん許してあげて下さい。身体が辛いと

逃げたくなります。それに甘えたいんです息子の

ブロンさんに大人だって泣き言言いたいですよ。」


「ネージュ…」


ブロンは耐え切れ無い思いをまた彼女が受け止め

様としてくる…ネージュを抱き締めて泣きたくな

る。父の気持ちも分かっていてる、強く逞しい身

体が痩せ細り立つのもままならない状態がどれ程

辛いかは分かる分かるが…止められない感情だっ

た。


「でも、グリソンさんはブロンさんにとって自慢

の父親なんです。だから最後まで闘って欲しいん

ですよ…私も父親がそんな弱音言ってもいいです。

でも逃げるなら、多分水をぶっ掛けてお尻叩きます。」


ネージュは悲しそうに今度はグリソンに向かって

話すのだが……水?尻?と聞いて、ガルグイユも

ジョーンヌも背を向けて震え出した。

ヴェルトもニュイを抱きしめながら顔を隠して震

えるのだ。そしてグリソンを支える護衛も震えな

がら出た言葉は。


「可愛い顔で何と豪快な…くっふっ」


と必死で笑いをこらえるのだ。さすがにブロンも

ネージュを抱きしめて笑ってしまう。


「…ネージュ、殴るのは悪かったと思う。だが病

人に水をかけるのも尻を叩くのもかなりの酷さだ

と思う、くくくっっくっ」


「駄目だ、ネージュは酷い、くくっぶっふふっ」


ジョーンヌも腹を抱えて豪快に笑い出すから、皆

声を出して笑い出す。ネージュひとり赤い顔で呟

き「だって…」と膨れているからブロンは頬にキ

スしながら。


「ん、だってだな俺が悪かった。父上、と言う事

だ水を掛けられたく無かったら意地でも治そうと

踏ん張ってくれ。俺の父、猛獣は毒ぐらいでくた

ばらないと見せてくれ。」


グリソンに向ける笑顔のブロンを見てため息をつ

き護衛に支えられながらゆっくりと立ち上がる。


「分かった。泣き言だったなお前の父親である為

に意地を見せよう。彼女に尻を叩かれる前に。」


いや、あの、しませんよ、例えでとワタワタする

がブロンに唇を塞がれてしまう。ネージュが暴れ

たり何かを言いそうになるがキスして止めるだけ

だった。いつも、優しく心を抱き締めてくれるネ

ージュに感謝する様にキスをするのだが、さすが

にグリソンも「親の前だ少しは遠慮しろ」と笑い

出すぐらいブロンはネージュに優しくキスをし続

けるのだ。

空気が一変した所でブロンの背中をガルグイユが

ポンと叩いて促し、ジョーンヌ達と頷き合いスッ

と表情を変え、本来の目的を口にする。


「さぁ、ガルグイユの件に絡む問題を始末しよう。

ビュグロスをここに、父上。」


「そうだな、だがその前に現国王が来るのだ。

まずガルグイユ殿、彼に会ってくれ。」


そう言われて驚いたブロンとガルグイユが顔を見

合わせていた。何故ならグリソンに紹介して居な

い筈のガルグイユを知っていたからだった。




ガルグイユがヴェール家に来た本当の理由は護衛

ではなく人身売買の一件だった。調べれば国中で

人間狩りが人知れず横行していた。親を亡くした

幼い子供を里親にとしながら売られていたり。

行方不明となる女、子供が多すぎるのだ、人型に

なる竜達も狙われて始めていた。最初は間違えて

狩ったひとり、銀色の髪が美しいと高値で売れた

のが始まりらしい。


それをただの人間では無く、竜の変幻であると知

るや追い回して狩り始めたのだ。ネージュもその

流れで売られる寸前だったと分かった。

妙な人間がやたら森に何度も来るからガルグイユ

がひと咆哮で連中を追いやったり、住処を移動さ

せる流れで偶然崖から飛び降りたネージュを目に して捕まえたのだった。

そして、行方不明の竜を探して辿り着いたのは…


人身売買の親元は…ビュグロスの祖父でありアコ

ニの父親だった。ビュグロスも戦さでの移動中人

狩りをしている有様だった。

ガルグイユも情報が確信になり他国に売られた竜

を取り返すべくブロンに打ち明け、一網打尽を狙

うつもりだった。調べれば国内での売買場所はい

つも変わり、何らかの宴を開くと聞けば潜り込み

その城内のどこかで開かれるという手口なのだ。 見つかればその城主に罪を被せる下準備をしてな

のだからタチの悪さは並では無い。

そして今回はヴェール家でだ、ビュグロスは当然

ブロンに罪を被せるつもりなのだが…。

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