#45 殺戮、悪夢のプランB
「それじゃ駄目なのだよ、マチルダ。
マクアウリ常務が口にしたのは、この世界を支配する者の名前だった。ド・コーネリアス。羽ヶ淵本社会長。
「世界唯一の巨大都市に支配される世界? まともじゃない。しかし、いいだろう、
「なかなか、賢明な選択だとは思いますね」
「
「それを今まで通り、とおっしゃるのはいかがなものでしょうかね」
私は苦笑して見せた。
「大陸の南に、
「そうだろうね。しかし、うまい方法が一つだけあるんだよ。我ながら、良く思いついたものだ」
常務は、得意げな声を張った。
「
「何を言い出すの」
マチルダ専務が、悲鳴を上げた。
これが、プランBというわけだった。そして、私も一つの答えを得た。マクアウリ常務も、やはり正気ではない。このような、悪夢のような提案を持ち出してくる人間が、正気の訳がない。
その時。暴風雨の中で、何かが一斉に動く気配がした。常務の指示により、衛視隊たちが行動を起こしたのか。いや違う、彼らはその場にとどまったままだ。
次の瞬間、激しい衝撃音が耳を叩いた。銃声。
思わず身構えた私が見たのは、衛視隊の一人が頭から血を吹き出して倒れる姿だった。小さなトランクを、胸に大事に抱いたまま。
続いて、連続する何発もの銃声が、嵐の中を貫いて響いた。濃緑の
「何だこれは、一体誰の」
マクアウリ常務の叫びは、途中で遮られた。ゼロ距離から放たれた銃弾で、脳を吹っ飛ばされたのだ。あまりにも、呆気ない最期だった。
「お待たせしましたな、コーネルさん」
耳元のスピーカーから聞こえたその声に、記憶があった。
「あなたは――ロイド博士。そうですね?」
今から約一週間前――あれから、わずか七日程度しか経っていないのだ――
私は周囲を見回す。しかしそこには、ナフラム刑事たちとカイネリ技師長たちが、謎の殺戮劇を目の当たりにして呆然と立ち尽くしているだけだった。
「そろそろ、良いでしょう。
ロイド博士のその言葉と同時に、目の前の風景が一変した。銀色の
彼らの右腕には、「AST」の隊章があった。
私のすぐそばにも、いつの間にかその一人が立っていた。ロイド博士、その人らしかった。
「コーネルさん、あなたが本社に話をつけて下さったおかげです。あれからすぐに、第四調査部のゴライトリー副部長からの協力依頼がありました。最高の形で、私が開発した技術の実証実験を行うことができたわけです。防嵐仕様でステルス・スーツとガン・ホルスターを試作しておいたのが幸いでした」
なるほど、そういうわけか。ロイド博士が発明した
この一帯に密かに展開していた彼ら
しかし、いくらなんでも部隊の展開が早すぎた。
最速の強行飛行艇を使ったとしても、私の報告を受けてから部隊を派遣していたのでは、こんなタイミングでここまで来られるはずがない。極渦の下では飛行装置は使えず、列車以外の高速移動手段が事実上存在しないからだ。
恐らく、ホームに停まっているあの謎の装甲列車が、彼ら
つまり、こういうことだ。私が保安部隊詰所の
「お疲れ様でした、ミスター・コーネル」
嵐の中を近づいてきたのは、
「あなたの、
そう言って隊長は敬礼してくれたが、私の心境は複雑だった。
「しかし私の報告が、果たしてその役に立ったのでしょうかね?」
「ははは、ご謙遜を。ミスター・コーネルのご活躍は全て、携帯コンソールを通じて逐一報告されていましたから。間違いありませんとも」
あっと声を上げそうになって、慌てて飲み込んだ。
(#46「最終処理、ゼロ・コーネルの署名」に続く)
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