#3 第四調査部、ゴライトリー副部長
駅を出ると、目の前にはひときわ高く目立つ超々高層ビルがそびえていた。
夜空の頂にまで至る数千もの窓には、ひとつ残らず灯りが点っていた。不夜城という言葉がぴったりなこの超々高層ビルこそ、
外壁に設置された
ビル内部を外部から徹底的に守る構造になっているわけだったが、それを知ってこれに乗るというのは、あまり気分の良いものではなかった。今のところ私は、彼らにとっても役立つ存在ではあるはずだが。
無事に三百三十五階にたどり着いた私は、外壁ドアからフロア内に足を踏み入れた。受付カウンターの向こうで、顔見知りの受付嬢が丁寧に会釈してくれる。彼女の背後には、銀色のドアがあった。
「SSMSのゼロ・コーネルです。副部長にお会いしたいが、まだ在社でいらっしゃるか?」
「少々お待ちください。確認いたします」
受付嬢が、カウンター上に置かれたコンソールのキーを素早く叩く。
「在社しております。今、アポイントメントをお取しました。どうぞ、お入りください」
音も無く、ドアが開いた。
足音がむやみに大きく響く廊下の、突き当り左右に部門トップ二人の部屋があった。左のドアをノックする。
「入り給え」
その声にドアを開き、部屋の中に足を踏み入れる。ふかふかのじゅうたんが敷かれた室内は、廊下とは全く対照的にまるで足音がしない。
正面の巨大なデスクの向こうで、回転椅子に座ったでっぷりと太った男が、くるりとこちらを向いた。ロレンス・ゴライトリー、第四調査部副部長。
「
「ほう、ベトラかね。ランゲン社の本拠地ではないか」
重そうな眉と瞼を、副部長は大きく持ち上げた。ランゲン社は、最大手の
「そのランゲンの社員からの依頼です。技師長で、
それが、カイネリ氏が私に示して見せた
「
「それは申し上げられません。守秘義務です、
副部長は、笑い出した。
「なるほど、ご立派なことだ。まあ、良い。小金稼ぎは好きにやりたまえ。任務に支障のない範囲でな」
正面のデスクの上にあるマイクロフリップ・ディスプレイを見つめたまま、副部長は手元のキーボードを素早く叩く。
「ランゲン社が、わが調査部の重要監視対象であることは言うまでもないだろう。連中の持つ力は、そろそろ我々にとって目障りな域を超えて、危険なものにさえなりつつある。しかも、その内情は不透明だ。君の調査の結果、良い土産がもたらされれば、ボーナスの額はちょっとしたものになることだろう。……これを」
この第四調査部は、市保安警察の情報局を指揮監督する役目を持つ部門だった。「特命機動調査官」、通称SSMSと呼ばれている特命調査官は、案件ごとにその第四調査部の委嘱を受けて、特殊案件を秘密裏に遂行する役目を持っている。言わば、臨時雇いの調査官だ。
額の大きさから言えば、実はこのSSMSの仕事による収入のほうが、本業である
「あと、こいつを持って行き給え」
ゴライトリー副部長がデスクの天板に置いたのは、黄銅で作られた長方形の薄っぺらい小箱だった。「
その名の通り、本の表紙のように板状となっている蓋の表面には、長い髪の乙女を象ったレリーフが彫金されていた。ページをめくるように蓋を開けば、一ページ目に当たる場所にはマトリックスFLディスプレイが埋め込まれていて、表面と同じ
「必要な情報は、
副部長は再びくるりと回転して、向こうを向いた。これ以上の質問は受け付けない、というおなじみのポーズだ。
(#4「旅の準備、絶品モンブラン」に続く)
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