#1-2 立ち食いパスタの大男
かつて、この世界のほとんど全てを破壊した、
それから約半世紀を掛けて再建されたのが、世界で唯一最大の都市である、
超々高層ビルが林立するこの
心理的駆け引きによって交渉ごとをまとめ上げ、
そんな私でも、今日のような大型案件を手掛けることはさすがに珍しかった。正直、へとへとだ。腹も減った。
だから、石畳が続く通りの彼方に、見慣れた立ち食いパスタスタンドの紅いネオンがぼんやり見えて来た時、私はしめたと思った。近頃よく見かけるようになったそのチェーン店は、安くてうまいパスタを出すことで人気があった。
とにかく、手っ取り早く夕食を済ませてしまおう。この店なら上出来だ。北方産イワシの油漬けをトッピングしたペペロンチーノ、あれを大盛りにして食ってやろう。喜び勇んで、私はスイングドアを押した。
「なんだと!」
いきなり耳に飛び込んできた大声に、私は思わず顔をしかめる。狭い店内で、顔を赤くした髭面の大男が、カウンターの若い女性店員に向かって何やら文句をつけているところだった。白いシャツにデニムのオーバーオールという姿は、いかにも工員風だ。
「これが使えねえとはどういうこった。
男が振りかざしているのは、うっすらと光を放つ青い液体が入った、親指ほどの大きさの頑丈なガラス容器だった。普段、この街では見かけることのない、
「お客さん、済みませんけど、うちの店じゃ取り扱ってないんですよ、それ。ちゃんと、
カウンターの向こうに立つ小柄な女性店員は、細い腰に手を当てて、目の前の客をにらみつけた。大男を相手に、一歩も引かない構えだ。
虚勢ではなく、おびえてもいない。
これは、大男のほうが無茶なのである。
どうでもいいが、晩飯くらいは静かに食べたい。私が介入して事態を収拾してしまうほうが、いっそ早そうだった。
(#2「南方深部から来た男、転がり込んだ仕事の依頼」へ続く)
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