第3話 首都ソウルへ再チャレンジ

 一度目の韓国旅行は、睡眠薬強盗に金を持って行かれてソウルに行けなかったので、今度は夏に再チャレンジした。ソウルは、人口約一千万人の巨大都市である。旅費は、長野県でレタスの入った段ボールを運ぶ仕事をして、15万円を用意した。家を出る際、弟に「お兄ちゃん、また韓国行くなんて、よっぽどええことあったな、グフフフ」と笑われた。


 「そんなんちゃうよ」と言って家をあとにした。また、大阪からバスで下関へ行き、フェリーを待っている時に、「お兄ちゃん、韓国は初めて?」と語りかけてきた丸坊主のオッサンがいた。「二度目です」と言うと、「ワシは、あっちに愛人がおって、女を紹介することもできるよ」と言う。変なオッサンが来ちゃったなと私は、無視を決め込んだ。関釜フェリーで釜山に入港し税関を出ると、このオッサンの愛人とおぼしき女性と子供二人が迎えに来ていた。なんだ、このオッサン家族がかりで世話をしてやっているのか、結構良い奴だったんだなと思い直した。


 私は、前回釜山で散々な目に遭っているので、速攻、高速バスでソウルに移動して、駅三ヨクサム、というユースホステルに、チェックインした。このユースに、スウェーデンから来た、韓国系のハンサムな青年がいた。英語のできる日本人の大学生が、どうして、ユースに泊まっているのか?と聞くと、生まれて間もなく里子に出されたのだという。ソウルの感想を聞くと、変なにおいがすると笑い、しかし、初対面の韓国人のサラリーマンが一緒に飲みに連れに行ってくれると言っていた。


 私は、二、三泊ユースに泊まって、まちをほっつき歩き、明洞ミョンドンでスニーカー、トレーナーを買った。その後、ガイドブックに載っていたパックパッカーの宿に移動した。その宿は、夫婦で経営されていた。宿泊人数は、十数名いたのだが、ほとんどが日本人だった。白人が一人、韓国人と白人のカップルがいた。ある大学生はタイランドからの帰りだと言い、向こうで若い娘と散々遊んできた平然と言い放っていた。今となっては記憶が定かではないが、確か高校生も含まれていたようなニュアンスで、こいつ、気持ち悪い奴だなと思った。


 また、あるカップルは、大学の4回生だったが、就職決まった?と聞くと、「ほら、俺たち就職しないから」と言った。おそらく、起業するつもりだったのだろう。

このカップルのところには、おそらく在韓のアメリカ兵だと思うのだが、ネイティブ・アフリカンが遊びに来ていて、彼はものすごく楽しそうにしていた。私も輪に加わりたかったが、英語ができず残念だった。私と知り合いになった男性は二人いて、なんと、いずれも世界一周旅行に出るところだった。一人は、大阪の元ホテルマンだった。彼は新人教育を任されていたが、部屋に運ぶ紅茶が注がれたカップがどんなに熱くとも、やけどしようが、何しようが、運ばなければならないと、新人に教えていると強調して言っていた。


 もう一人は、大学の教育学部の学生だった。彼は、教師になる前に、世界をどうしても見たかったと言った。一年休学してアルバイトをして世界旅行に出かけると教授に告げると、そんなことは、もってのほかだと言われたが、彼の意志は固く休学して旅行することになった。夜、三人で屋台に飲みに行こうよと相談したのだが、教師の卵が旅の予算の制約上行けないと言ったので、元ホテルマンと二人で行く事にした。


 今になって思えば、おごってあげればよかったと思う。屋台のお姉さんは、少し日本語が話せて、コミュニケーションがとれた。翌朝、目が覚めると元ホテルマンと教育学部の学生は次の目的地に出発する寸前だった。私は、二人にあいさつをして別れ、郊外を散策しようとバスを待っていると、背の低い、ねずみ色の光沢のある綿麻の上下の服で、腕まくりしているオッサンが、私の横に来た。


 彼は、イライラしていた。そして、唾をペッと吐いた。また、何事か私に韓国語で言った。私は、Tシャツにジーパンをはいていたが、髪型が韓国の若者とは違うので、日本人だと分かったのだろう。「はあーん?」と答えたら、羽交い絞めにされてビルとビルの間に引きずり込まれた。「何なんだ?」と思っていると、もう一人やってきて二人となったが、私は少林寺拳法を稽古していたので怖くはなかった。ただ、二人目は何が起こったか様子を見に来たようで、すぐにバス停に戻って行った。そして、私は、オッサンの羽交い絞めを思いっきり振りほどいた。細いので強い力が出るとは思わなかったのだろう。レタス運びノンストップ30日間バイトをなめんなよ!


 そして、「シバくぞ、コラッ!」と怒鳴り、その場を立ち去った。呆気にとられたのか、彼は、私を追いかけてはこなかった。今度は、電車に乗ってどこかのまちへ行こうと思い駅のホームに行ったのだが、気だるかったので宿でのんびりしようと考え引き返した。ホームの階段を上がる途中、さっきはいなかった白いチョゴリを着た人の良さそうなおばあさんが、階段に腰掛けて小銭を恵んでもらっていた。私は、大阪で小銭を恵んでもらっているおばあさんを見た事はなかった。そして、ホームの階段を上がったところで、少し、お金を置いておこうと思い直し戻ろうとすると、私の後をつけてきた二人組に流暢な日本語で話しかけられた。


 「大学で、日本語を勉強しているので、話し相手になってもらえませんか?」


 私は彼らの要求には応えなかった。釜山の睡眠薬強盗の例があったからである。そして、あのおばあさんは?と思い階段に戻ると、彼女はもうその場を立ち去っていた。大学生は、「韓国の福祉は、まだまだです」と言ったが、私が相手をしないこと理解し、彼らも立ち去って行った。家族には、キムチとお菓子をお土産に買った。とても、美味しかった。ただ、私はこの旅行中うつに悩まされていた。


 あれから、韓国についての様々な本を読んだ。そして私の旅の20年後、冬のソナタを皮切りに韓流ブームが巻き起こり、映画、ドラマ、音楽などが紹介される。整形美人がほとんだと思われるが、国民的女優のイ・ヨンエやキム・ヒソンなんてナチュラルで美しいと思う。それから若手では、ユン・ウネ、キム・ジウォン。また、私はGYAOでたまに韓国のシリアスな映画を見るが、どうも日本のそれよりも韓国の方に凄みを感じる時がある。それは今もって北朝鮮と対峙しており、緊張感のある社会の中でつくられる映像だからなのだろうか。


 なお、この旅行記は、以前ブログに載せていたのだが、韓国を推薦してくれた件の先生にも読んでもらった。また、飲みにも連れて行ってもらった。先生の話を聞くと、私が行った次の年から学生のための日韓交流の会を立ち上げていたとの事。なんだ、それだったら危険な目に遭う事もなかったなと思ったが、先生には、「まあ、俺の話聞いて、韓国行って睡眠薬強盗に遭うやつもいるわなあ」と笑わられた。少し、ムカッとしたが飲ましてもらったから我慢、我慢(;^_^A。ただ、私は懲りない性分なのでまた、韓国を旅したいと思っている。

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韓国一人旅 加福 博 @Donnieforeverlasvegas

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