第5話 成果の無い報告と記述書の言葉

魔法の記述書の言った通り、自分の過ごした時間を記録した。たぶん。テレビだっただろうところが、自問自答の時間に書き変わっただけ。

しかも、答えは出なかった。

意図した時間の使い方は、出来なかった。

未来どころの話ではない。

私は、自分が何を好きなのか?未来にどうなりたいのか?漠然としているどころか、まったく、私の中には、私はいなかったのである。


気まずい。。。

魔法の記述書を、開いて良いのかと、本をてにして、開こうとして、表紙を持ち上げようとして、下ろし、持ち上げようとして、下ろし、なかなか、広げることは出来なかった。

そんなことを繰り返していたら、勝手に魔法の記述書は、ペラペラと昨日の続きのページ。

真っ白な空白ページを開いて、落ち着いた。


開いて

閉じて


開いて

閉じて


何してるの?

昨日は、どうだった?

君は、何してたの?

どんな時間を過ごした?

未来へのアプローチは?

何を意図した時間を過ごしたの?


空白のページに、文字が走り出した。

タイプライターで打ち込まれているかのように。


言葉につまる。

なにもしなかった。

いつも通りに講義を受けて、帰宅して、

自分が何をしたいのか?考えたら、

分からなかった。

じゃあ。好きなことは?と、思い浮かべて分かったのは、好きなこともない。未来どころの話ではなく、私の中には、私がいなかったんだ。

用意されたものを、体験していくだけ。

用意されたご飯を食べ

用意された講義を受け

テレビで流れた番組を見て

発売された漫画本を読み。

私は、私は、未来何したい?

出てこなかった。

今まで費やしてきた時間を認識して、

これから体験したい未来が無いことに、

気が付いた。

昨日の私は、それだけ。それだけだったよ。


知ってる。

知ってるけど、知らないふりして聞いている。

昔の君も、昨日の君も、

今、私に報告している君も、知ってる。

私は、魔法の記述書だからね。

君が、そんなんじゃなきゃ、私を必要としない。


ただ。何もないことに気が付いたのは、

進歩だったね。


気が付かないまま。

死を向かえることも出来るんだよ。

それが悪いことでもない。

もちろん、良いことでも。

ただ、同じだけど、同じではない。

これが認識。

意識した途端、現れる。

例えば、今、君が言葉にした。

「何もない。」

「私の中には、私はいない。」

だったっけ?


私が、課題を出して、君が確認しない限り、

それは、出現しなかったんだよ。

「ある」も「無い」もない。

存在しないと言うことは、そもそも

「ある」も「ない」も無い。

「存在しない」と言うことは、

苦しみも発生しない。


君が、私を開こうとして、開けない理由も、

そもそも、初めは、存在しなかったんだよ。


ではね。

私から、課題を出すよ。


今日、寝る前に、なんでもいいから1つ。

感謝を紙に書いて。

なんでもいいよ。

それ以外は、今日は意識しなくていい。

じゃあね。


パタン。


魔法の記述書は、課題を告げて、自ら閉じた。

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私が私にかける魔法の記述書 一粒 @hitotubu

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