第12話 喜び

湯船に浸かる。

電球の光が、煌々と風呂場を照らす。

今日も風呂場は明るい。

ふと、八百万は、言葉を漏らした。

「気持ちいい〜。」

「最高〜。」

「私を綺麗にして下さって、

     有難うございます。」

「幸せだ〜。」

「部屋の中が明るくて幸せ。」

「有難うございます。」


ここ最近、八百万は、色々なものに

惜しげもなく、

喜びと、感謝の気持ちを声にしている。


なんではない。

たまたま偶然に、

自分の今が当たり前ではなく、

ご厚意で、受けれている。

それを知ってしまった時から、

いつかくる別れに対し、名残惜しい様に、

今ある現状に、感謝する様になったのだ。


(感動する。)

(感動する。)

(感動する。)


ふと言葉の主を目で負う。


(感動する。) 

       電球。。。




そして、八百万は、ふと昔を思い出す。

湯船に浸かっている時に、

急に切れる電球。真っ暗闇の中の入浴。

(なーんも。見えんし。気分が落ち込む。)


「有難い。。。」

「有難う。」


(感動する。) 

       風呂場の壁。。。


(感動する。)

       風呂桶。。。

(感動する。)

(感動する。)

(感動する。)

       湯?。。

至るところから、声が木霊する。

なんでだ?なんで声が聞こえる?

(いつもしてるよ。)

(いつも聞いてる。)

(いつも会話してる。)

(聞こえてるのは、今日、あなたが私たちの周波数にあってるから。)

(たぶんね。)


「なんで感動?」


(有難うなんてお礼を言われること無いし。)

(当たり前だと思ってるでしょ?)

(喜んでくれている声を聞いて。)

(そんな風に感じてくれるんだぁ〜。)

(みんな僕たちに興味無いでしょ?)

(当たり前だと思ってるでしょ?)


「いやね。。。」

「例えば、お金が無いとする。」

「スーパーなら、商品を手にしてお金を払う。調理するのも、食べるのも、お金を払ってからだ。」


「映画館やアミューズメントパークなら、お金を払ってからでなければ、近付けもしない。」


「なのにお風呂は、電気、ガス、水道、

 どれをとっても、使ってから随分たってから、支払いだろ?

それも、供給する時にもお金は必要だし。

払えるか払えないか分からないのに、供給してくれる。」

「これって、完全なる信用提供だろ。

 凄いなぁ~。信頼で、売ってくれている。こりゃー凄いやぁ〜って。」

「当たり前のことが、もし、

 私が提供する場合だったら。。。」

「これ、なかなか出来ないよなって。」

「誰かわからない人を信用して提供する。」

「凄いことだなぁ~。って、思っていたら、有難うって、言いたくなった。


それだけのことだよ〜。



八百万は、今日もまた、記録を残す。

2023/4/16 八百万




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あなたの人生相談お聞きします。 八百万 一粒 @hitotubu

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