第11話 手紙

いつもの当たり前の日課。

八百万は、いつもの時間に、いつものことをしていた。

朝の10:30。

春めいた日差しが入り、暖かな風と空気に幸せをほころばせながら、2階で片付けをしていた。

不意に、艶めいた色香が漂う。

この香りは何だ?

美しい、気品のある、若々しい女性の様な、、。

香りを辿り、右に左に瞳が漂う。

ちがう。。。ここではない。。。

違う。。もうちょっと先の。

先に先にと、視線だけが、走り回る。

ピタッと、視線か止まり、そして、探していた香りが一層、ぎゅわゎ〜。っと、伝わってくる。これだ。心の中で、確証付き、

(君か。。。) 無言の声をかける。


赤い椿の花木は、笑みを伝える。

より一層、香りが伝わってきて、

瞳がそらせない。

(美しい。。。綺麗だ。。。)

溶け落ちそうな笑みで、見続ける。

(美しいね。良く綺麗に咲いたね。)

椿の花は、嬉しそうに風に揺れ、

香りをより一掃に、届ける。

(幸せだ。有難う。)

八百万は、思わず笑顔で、椿に手を振る。

その日の記憶は、それで終わり。

次の日も、

その明くる日も。

八百万は、そこで、いつもの同じ様な時間ときを過ごしていた。

椿は昨日と同じで、美しい。

違うのは、香りで、私を呼び止めない。

そして、また数日。

椿は、花びらの先を、茶色に染め、

花の終わりを告げていた。

ポトリと頭から落ちる花。

そして、八百万はそこで初めて、

椿の依頼に気が付く。

1年のハレノヒ。

花が咲き乱れ、1番美しい花が咲いている真っ最中。椿は、いつも同じ場で一緒に時を過ごしている八百万に、(今年1番美しく咲く今日の日の私を、あなたに見て欲しい。私は、今年も美しい花を咲かせ、自分を活かせたことを。)

それが彼女の依頼。


なるほど。。。

あの日だけ、私に声を掛けたのは、

椿が、最も、自分が自分を認めた日だったから、それを私の脳裏に焼き付け、

椿は「私は私である。」と、第三者の私を証拠人としたかったのだな。

ぶつくさと、

訳の分からぬ屁理屈を、

八百万は唱え、そして笑む。


花を咲かせる時が、1番自分自身を、

多くの存在に気付かさせる最大のチャンス。

いつも、みんなに紛れ込み、誰が誰だか、分からない。分かる人以外は。

私に、わざわざ声を掛けてくれた。

私は、椿にとって、気が付いて欲しい、

大切な存在の1つに含んでもらえたんだな。。。

(証拠人に選んでくれて、嬉しい。。。)

八百万は、いつになく、幸せに満たされて1日を過ごした。


----


椿が最も、美しく咲いた日

2023/4/11 10:30 見届けた。

嬉しかった。  八百万。


八百万は、手帳と、日記それぞれに

椿と八百万を刻印した。


今日の今は、

当たり前なんかじゃない。

1つ1つが、奇跡の連続。

感謝で生まれ、感謝で終わる。毎分毎秒。


「八百万。。。どうしちゃった?」

「さぁ?」

「椿の美しさに、色ボケしたんじゃない?」

「そうかもね。。。」

「たしかに、今日の椿は、生盲なまめしかった」


八百万を取り巻く空気が、

ヒソヒソと噂話をする。

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