第28話 探り

 昼休みになり、俺たち4人は集まって昼食を採っていたのだが、


「すんません番長さん……お昼恵んでくれやせんか……」


 あろうことかチャラ男は弁当を持ってき忘れたらしく、こうして俺に泣き付いていた。


「しゃーねぇな、ほれ」

「おほー!勉強に疲れた体に沁みるぅ~!」


 チャラ男に豚肉のしょうが焼と白米を餌付けしていたところ、突如として教室内に黄色い悲鳴が木霊した。


 またか……と内心呆れつつもやって来るであろう人物を俺は待っていた。


 クラスメートたちに群がられ、後ろのドア付近で立ち往生している姉貴は、俺たちが仲良く弁当を食べている所を見てこちらへ近づいてきた。


「どうした姉貴?何か用か?」

「あ、姉貴ィ!?番長さんこの方ときょうだいなんですか?」


 若干オーバーなリアクションをとるチャラ男を他所に、姉貴と俺の会話は進んでいった。


「やぁ、八街君、東君。と……我が弟も居たのか」

「居ない方が良かったととれる言い草だなオイィ?」

「はっは、冗談だ。……それで、彼が新入生だね?」


(外見だけなら)美少女の生徒会長に見つめられキメ顔をするチャラ男。だが悲しいかな、その口角にはしょうが焼のタレが未だにこびりつき、決まるに決まらない顔だった。


「単刀直入に言うと、ここに相応しくないような顔をしているね」

「ちょっと聞きました番長さん!?今俺スッゲーバカにされたんですけど!?やっちゃって下さいよ!」

「そこで俺を頼るからお前はまだまだなんだよ、それに姉貴相手だと分が悪い、諦めろ」


 そんなー、と肩を落とすチャラ男の頭上で、八街と姉貴の会話が始まった。


「ごきげんよう、五所川原会長。何のご用で来られたのですか?」

「大した用じゃ無いさ、新しい男子の顔を見るついでに、君の美しい顔を堪能しに来たのさ」

「そ、そうですか……」


 いつもの調子で八街に会いに来たと話す姉貴に、八街は若干引いていた。


 先日『八街には付きまとわない』と言っておきながらのこれである。


「明里ちゃんは……渡しません!」

「く、栗栖さん……?」


 東が八街の腕をひし、と掴んで姉貴に抗議する。


 一見すると、一人で留守番しててねと告げる親を引き留めようとする子供の様でいて、その実『私の大事な人に手を出すな』と独占欲丸出しの行為だった。


 その仄かに百合の香りがする行為を堪能していると、姉貴は急に話題を転換した。


「ふふ、安心してくれたまえ。とって食べたりはしないよ。美しいものは手を出さず、見て愛でるべきだ。そうだろう?」

「俺に同意を求めるな。返答に困るだろうが」

「さて、我が弟を弄るのもこれまでにして、本当の用件を伝えよう」


 そこまで言いきると、姉貴は先程までの微笑んだ表情を、真剣なそれに変える。

 心なしか、その口から繰り出される言葉も重みが増したような気がした。


「先程、八街君の家の者だと思われる人が接触してきてね、どうやら長次、君の事を探っているらしい。十分に気を付けろよ」


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番長君は百合厨 子獅子(オレオ) @oreo2323

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