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@art18

第1話

俺の名前は遊島優斗、高校二年生だ。

名前の由来は「優」から分かるだろうけど"優しい子に育つように"

だそうだ。

どうも家族内では「堅物にならないか?」だの

「甘すぎる人間にならないか」だのと言われていたらしいが

実際育っていく環境によるってもんで今の俺はとても優しいとはいえないような性格になってしまっている。

高校の地味めな女子をからかったりしてるくそ男だな、でも、言い訳をさせてもらうと他の連中はその女子を気味悪がったりしてるが俺は正直どうも思わないなと思っている。

何より、嫌いならまずは近寄らないし、いちいちからかうのはそいつの反応を見ていると楽しいからだ。

今日もいつものようにからかい続けて家に帰った。しかし、帰る途中に雨が降り急いで帰ると鍵を落としていることが発覚、とても外にいられる状況じゃなかったのでコンビニのイートインスペースで暇を潰すことに。

しばらく経つとその地味めな女子がコンビニへ来た。

彼女の名前は佐藤美鈴。彼女は自己紹介の時鈴のようなきれいな声になり自分の声に自信が持てるようにという理由から両親にそうつけられたと言っていたが

実際その声は誰もはっきりとは聞こえていなかった。

自信が持ててるとは思えない声に先生が必死で解読した結果その紹介に行き着いたから皆もそれで納得している。

その後男子達からはいじられ続けていたが反応が薄くその長く真っ黒な髪がホラー映画に出てくる女の人を彷彿とさせたのか誰もいじら無くなった。(しかし…彼女にとって一番嫌いなのは俺だろうなぁ)なんせそんな状態でも絡んで来るのだから。

まだ優しさが見えればいいが弄りたい欲が見えているぐらい露骨にいじるから相当嫌われているだろう…とは思ったが流石にここにずっといるのも迷惑だ、いくら嫌いな人とは言え事情を説明すればそれなりに助けてくれるだろう。

そう思い声をかける

「よう!珍しい所であったな」

「え?!ぁ…優斗…くん、うん、ほんと…だね?」

俺が声をかけると彼女はビクリと体を震わせた、声だけで俺と気づいたのだろう、とても仲のいい友人に声をかけられたときの

反応ではなかった。

「こんな雨の中買い物なんて、家近いの?」

「え?…まぁ…そうだけど…」

「そうなんだぁ…あのさ、もし良かったらなんだけど」

「嫌ですっ‼」

俺の言いたいことを察した彼女は言い切るより早くに返事をしてきた…俺嫌われすぎじゃね?

「ちょっと事情を聞いてくれ!」

「はい…」

とても嫌そうな顔だった…事情を話すと嫌々ながらもこう言ってきた。

「玄関だけなら…」

俺は正直入れてくれることにびっくりしていた。

俺から言っておいてなんだと思うかもしれないが俺だったら妥協案を探すと思ったからだ。

彼女の家に行く途中でこんな質問をうけた

「鍵の形って…覚えてますか?」

「え?!」

思わず聞き返したらビクン!と体を跳ねらせて黙り込んでしまった。

少し間があり鍵の特徴を聞かれたと理解して特徴を伝えていく。

「う~ん…キーホルダーはピンクの悪魔をつけてるよ」

ピンクの悪魔とはとあるゲームの別称だ。ちなみに俺は原作を知らない。

色々なゲームキャラどうしで戦うアクションゲームでそのキャラを知った。

「あぁ…あのキャラクター可愛いですよね、ぷにぷにふわふわしてて、でもなんでも吸い込むギャップもまたいいんですよねぇあれ今ではコピーなんてできるキャラですけど初期は色も真っ白だしただ吸い込んで吐くだけのキャラクターだったなんて話もあって…」

いきなりまくし立てるように話す彼女に少し驚愕していると

「あぁ!…ごめんなさい、嫌ですよね、私なんかと同じ趣味みたいなの…」

「そんなことないよ?」

彼女は驚いた風な顔をして

「え?だって私の事嫌いなんじゃ…他の人たちも気味悪がってるし…何より貴方が私をからかうのは嫌いだからだって先生が…」

その続きは聞けなかった…声が小さいというよりも先生がそんなことを言っていたという事実が苛立たしかった。

「…誰先生がそんなこと言ってたの?俺誰かに佐藤の事嫌いなんて言った覚えないしそもそも嫌いじゃないぞ?」

...

一瞬の間があり少し青ざめて彼女がこちらを向いた。

「え?…」

「ん?…ああ‼そういうことじゃなくて、別にみんなが言うような不気味とか思ってないってことっ‼」

すると彼女は安心したようにホッと一息ついて

「良かったです…」と一言言った

俺ほんとに嫌われてんな…

そんなこんなで家についた。彼女と話してたのは楽しかったがここで話し自体は終わりだと思うと少し寂しいような暇な感覚にとらわれる。

しかし彼女は意外なことを言った。

「上がって…どうぞ」

「え?!」

思わず大声を上げかけた、聞こえなかったわけではなくその対応に驚いた。

あんなに嫌っているのに上げてくれる彼女の優しさはどうなってるのかと思った。

「あの…変な事聞くけど佐藤俺のこと好きじゃないよね?」

「え?…えぇ〜っと…そのぉ…なんていうか…」

あまりにも濁すのでもしやと思い

「気を使ってるなら正直に答えていいよ?別にいつも嫌がらせしてる人に気を使う必要ないし」

そう言うとすぐに「嫌いです」と返ってきた…マジで素直じゃん…そう思いながらも彼女の優しさに感服だった。

俺ならまず家に上げない、気は使わない、そもそも話しかけられても無視だ。

「…えっと…ごめんね?それなのにこんなことまでしてもらって…」

「いえ、別に困ってる人は助けないと気分が良くないので…」

どこかのアニメの主人公がいいそうなセリフだと思った。

しかしやはり好きではないらしく家の中での会話ははかどらなかった。

仕方がなくスマホでYouTubeを見る、最近人気なゲーム実況者

『東方赤髪の門番』なんて名前の実況者だ最初見たときはゆっくり実況かと思ったかが実際は女性が自力で少し声を変えてやっているものだった。

するとこれまで黙っていた彼女が

「その人、好きなんですか?」と聞いてきた。

なので俺は素直に答えることにした。

「うん、実況内容も良いしゲームのチョイスもいい、女性でアクションは少なめだから大変だろうけど、あと声もキレイですごいなと思うよ、声を少し変えてるらしいけど実際もすごいんだろうなぁ」

こんな話をするとなぜかそっぽを向いて「…そうですね…」

と言っていた。

少し恥ずかし混じりのその反応に俺の直感が叫んだことを質問した。

「もしかして…親族?」

彼女は声を出さない、なのに自分が褒められたときのような反応をするという事は仲のいい姉か妹なのだろうか、

そう思ったが違ったらしい、首をブンブン振っている。

その日は雨が止むまでリビングにいさせてもらった。

彼女の母からは「あらあら、彼氏?いい男連れ込んだわねぇ」なんて言われた、なんか家族でキャラが違いすぎるのに驚いた。

そして次の日。

学校につくと机にホコリまみれの鍵が置いてあった。

誰が置いたかは検討がつく探そうと思い扉へ向かうと俺が開けるより早く扉が空いた。

「あ…優斗くん…あの、鍵…昇降口の側溝に詰ってたよ、多分だけどカバンのところに引っ掛けるのが甘かったんじゃないかな…」

そういう彼女の右腕がホコリまみれになっていた。

少し泣けた。こんなに嫌がらせをしてるような俺の鍵を探すしてくれるなんてもう女神にさえ見えた…が他の人から見たらホコリまみれで怖さが倍増しそうだったので急いで制服の上を脱がさせた。

「…寒い…」

「仕方がないだろ、あのままだとほんとにいじめの対象だぞ…ほら、俺の上貸してあげるから」

俺の学校は下は男はズボン女はスカートたが

上の制服は裏地に名前がある以外は同じなのだ、また今の時期ならYシャツでも問題はない。だから制服を貸そうとしたのだが

「嫌です…」

ここに来て嫌われている所が如実に出てきた。

しかしそんなこと言ってる場合ではない。

ホントに寒そうなのか袖から見える肌は鳥肌が立っている。

「俺が嫌いなのは分かるが我慢してくれ!流石にここまでしてもらったのに何もしてあげられないとか俺が気まずい」

そう言うと彼女は渋々といった顔で制服を着た。

その放課後。

「なぁ佐藤、今日お前の家行っていいか?」

その質問に驚いたのは彼女本人ではなく周りの人だった。

「…なんでですか?」

「昨日のお返しがしたいし、お母さんにお礼を言っとかないと」

そういうことならとOKをしてもらったが彼女は先に帰るというので少し友達と遊んでから帰ることに。

しかし俺に近づく人はいない…女子は来た

「あんなインキャに声かけてあげてるのホントに優しいよね、けど流石に家は女の子相手だしヤバイよぉ?」

どう考えても陽キャ組な奴らが来たので適当にあしらっておこう。

そして、その日の夕方5時。

「お邪魔しまぁ~す…」

俺は静かに彼女の家に入る。

リビングで待っていると彼女が私服で出てきた。

「えっと…ちょっと待っててもらえる?」

「え?!あぁ、うん分かった」

予想外に可愛くてビビった。

顔をちゃんと見たのは俺が初めてだろうな…

(もう顔に自信ないからそのヘアーにしてるの?とか煽れねぇ…)

そんなことを言おうもんなら今の姿を思い出して顔を赤らめてしまいそうだ。

少しすると彼女が脱衣所らしき場所から出てきた。

「ごめんね…手洗いしておいたんだけどまだ乾いてなくてさ…ドライヤーでむりやり乾かしちゃった…平気だよね?」

え?…俺はお返しのためにそれをしてきてたのだがそのまま返されたら意味なくね?

「いや…平気だよ?」

…一応のお菓子を持って来といてよかったぁ…

てかこのお菓子ってゲーマーがオールする時に人気だけど女の子とかにはありなのか?…まぁYouTube見てオールでもいけるしセーフか。

「これ、制服とあと、お礼のお菓子」

「え?!このお菓子って…」

「あ、ごめん、もしかして嫌い…」

「私が好きなやつよくわかったね?…ウフフ」

「……っ!!」

笑顔も可愛くね?…てか今日の陽キャ組より可愛くね?

もうわけがわからない…いつもその髪型でいれば可愛いのに

なぜそんなに前髪をおろして顔を隠すのだろうか…

俺はその後彼女の母と話をして家に帰った。

その夜東方赤髪の門番を見たがなぜか彼女の顔がちらついて集中できなかった…

そして、次の日

彼女はいつも通りのインキャヘアーで学校に来ていた。

それが嬉しくも感じた。俺しか知らない彼女の秘密を知ったようだった。

しかしこの日、もっとすごい秘密を知ることになる。

俺はその日も彼女と一緒に帰ろうとした。家が同じ方向なのでおかしくはないと思ったが彼女は嫌がったのでとりあえず家に帰った。

しかしやはり少し話したかったので家に向かった。何も持たずに行くと流石にまずいと思ったのであのお菓子を持っていった。

家の前につくと彼女の母とあった。

彼女の母は快く家に上げてくれた。出かける前だったらしく玄関を開けて俺が入ると「ごゆっくり〜」と意味有りげに扉を閉めた

リビングにはいないので部屋だと思った。

いきなり入るのもどうかと思いノックをしようとしたが誰もいないはずなのにノックをされてもびっくりしてしまうだろうともはやびっくりさせる体で思い切り扉を開けた…するとそこには…

とてつもないPCの数とゲーム画面、更にそこに向き合う彼女の姿があった。

いや、向きあってたが正解だ。今彼女はこっちを向いている。そしてそのゲーム画面のユーザー名は『東方赤髪の門番』だった。

俺がなにかいうより早く彼女の目には涙が…

「ふぇあ?…」

もう意味がわからないのだろう、俺もだ。

しかしいきなり泣かれたら俺もビビる。

「あっ、えっ?、な、なんで部屋に?」

半泣き状態で聞いてくる彼女

「いや、ちょっと佐藤とゲームしてみたいなと思ってきたんだけど…お前YouTuberだったのな…しかもあの東方赤髪の門番」

「あ…あぁ…」

少し嗚咽混じりの喘ぎの後

「ごめんなさい!!、騙す気なんてなかったんだけどあの動画を褒めてくれたときに嬉しくってついっ!」

泣きながら弁解するが何も聞こえない。

正直そこはどうでも良かった。

彼女はゲームが好きで、話もよく合う、更に可愛くて声もキレイだ。

その全てが今知ってしまったのだ。そんな事が目の前にあるのに

隠し事をされていたなんて小さいことじゃないか…。

気づくと俺は彼女を抱きしめていた

「え?…」

彼女のいつもは聞けない声…とても心地よく感じれる

「別に怒ってないよ、むしろゲーム好きなら良かった、一緒にできるじゃん…な?」

「え…あ…」

また泣き出した。そんなにおかしなことは言っていないが…

この日は暗くなるまでゲームをした。

次の日彼女は休んだ。寝すぎたらしい、ラインで明日は来ると言っていた。

次の日彼女はイメチェンしていた。

と言っても俺の知っている姿だ。

前髪をきれいに分けて目もしっかり見えるようにして学校へ来た。

相変わらず人と話しにくそうで男子達から声をかけられキョドっていたところを見た。彼女は以前に嫌がらせを受けて対人恐怖症気味だったそうだけど大丈夫だろうか?

そう思いながら遠目で見ているといきなり駆け寄ってきた。

えー…そんな風にされたら男子の目が痛い…

「あの!今日一緒にゲームしませんか?」

いつも通り、だけどそれは俺しか聞いたことのない声量で、

その声を聞いた男子たちの目が一瞬でハートになるのが見えた。

「う…嬉しいけど、俺だけだとちょっと気まずくないかなぁ…」

「え?!むしろ他の人の方が気まずいです…視線も怖いし」

たまに素直な彼女、この言葉に釘付けになっていた男たちの目はいきなり泳ぎだした

まるで見てませんと言うように。

しかし彼女はトドメを指すように言った

「それにいつもみんな無視してきてて優斗くんしか仲良く話せるのいないし…」

この言葉は流石に誰もどうにもできないらしい。

冷や汗をかくばかりだ。 仕方がない…彼女は俺をご指名だ、

俺だってそれ自体は嬉しいんだ。

「…いいぜ…今回こそ負けねぇからな」

…これは俺と妻の付き合い始める前の話。

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