第38話 試練パート2といったところかな?

 スイたちとの話を終え、私たちは、借りた地図の通りに歩いて行った。これといった出来事は特になく、1度も剣を抜かないまま、キカス山のふもとまで来ることができた。

 入山開始。道の幅が狭いので、1列になって登る。私が先頭だ。小石や木の枝が落ちていたり、デコボコしていたりで、歩きにくい。私は、人間より繊弱と言われているエルフであるミラさんが、ちゃんとついて来ているか心配になり、後ろを振り向いた。


「あ、浮いてる! なんかズルい!」


 人間側は体力を消耗しているというのに、ミラさんは浮遊の術でらくしているではないか。彼女の呼吸は一切乱れていない。


「そっか、その手があったか!」


 ハナが真似まねしたら、真面目まじめに歩いているのは私だけになってしまうではないか。それもむなしいな。


「人聞きが悪いですね、ソラさん。これも魔術をたしなむ者の知恵と言いましょうか。わざわざ自分の足で歩いて、しんどい思いをすることをすんなりと受け入れてしまう人間とは違うんですよ」

「そりゃ、ミラさんみたいにしたら楽かもしれないけどさー、人間ってね、なぜか知らないけど、苦労する方を選んじゃうのよね。その分、頂上に着いた時の達成感は大きいですよー。私は目いっぱい喜びたい方なので、多少の苦労は受け入れますよー」


 様子からして、ハナはどうやら、きちんと歩いてくれるようだ。それから、こうつけ加えた。


「それに今回はね、何かあった時のために、魔力を温存しておきたいってのがあるし」


 そこへ、ミラさんがこう問うてきた。


「それもわかりますが、疲れて休んでいるところを魔物に見つかったら、すぐに体勢を立て直せますか? こちらの都合に合わせて待ってくれるようなお人よしだったらいいのですが……そんなのが本当にいるとは思えませんし」


 突然のエンカウントか。ありえない……とは言えない。こういう山とか森とか、人間の営みから離れた場所というのは、魔物に適した環境でもある。私たちが今いるこの山だって、単に情報が入ってきていない、あるいは私たちがたまたま知らないだけで、もしかしたら──

 一応、用心はしておく。



 不用意に走ったり跳んだりせず、一定のペースで歩いていったので、ミラさんが心配するほどの疲れは出なかった。心臓の動くスピードが通常より少しだけ早くなった程度で、これもしばらくすれば落ち着くだろう。


「ふぅ、着いた……」


 ここで、私は硬直してしまった。


「おー、ここが頂上ね……って、ソラ、どした?」


 ある一点を見つめたまま動かない私を不審に思ったハナが、肩を叩いたり、更に声をかけたりした。が、状況は変わらない。私は石のようになってしまった。原因は、前方にあった。


「あそこに何か……げ、何だあれ?」


 そこには、巨大な蜘蛛くものような姿の魔物が立ちはだかっていた。


「スイの嘘つきめ~。魔物いるじゃないのよ~」


 私は首を左右に振った。動きはぎこちないが。


「……それは違う。スイは、魔物に出会わなかったって言っただけで……この山に魔物は出ないとは、一言も……」


 そして、低めの声でボソボソと、スイの弁護をした。


「……確かに。で、どーすんの? あれ」


 魔物の後ろには、木材で作られた囲いが。もしかしたら、あの中に魔法陣があるのかもしれない。そうだとすると、私たちが先に進むためには、あの魔物を倒す必要があるということか。だが──


「ソラ、足がたくさんある虫も苦手だったよね? カブトムシやクワガタとかは平気なのにね」


 私は、今度は首を縦に1回だけ振る。あ、カブトムシでも幼虫は駄目だが。


「そしたら、あの門番気取りの蜘蛛野郎は、強そうだけど私が──」


 そこで、私はハナを制した。


「私がやる」

「え、でも……」

「アレを見たままで捉えるからいけないのよ。何か違う生き物だと思ってやれば、きっと、どうってコトは……」

「ソラが、苦手を1つ減らそうとしている!?」


 こんな、蜘蛛ごときに怯えていたら、冒険者なんぞやっていられないだろう。この先、もっとキモチワルイ奴を見かけた時、私はどんな反応をするのやら。魔術士であれば、離れた場所から攻撃できるからいいが、私は近距離からの攻撃をメインとする方なので、どうしても、間近で見たくない部分も見ざるを得ない。

 このようなことを言うのも何だが、魔物自体はいても構わなかった。私がサクッと倒してしまえば済む話なので。ただ、何故なぜあのような奴なのか。他の、虫ではない奴はいなかったのか。

 文句を並べても、どうしようもない。やるべきことは1つ。あの魔物を排除する!

 私は剣を抜いた。前進すると、蜘蛛は私を敵と見なしたのか、目を赤く光らせた。

 モタモタしていると、あれとの対面時間は長くなる。素早く行動すれば、終わるのもまた早い、ということで──

 ザッ!

 私は地を蹴った。それを確認した蜘蛛が、その場で脚から糸を出してきた。本体がかなりの大きさだからだろうか、糸もそれなりに太い。1本けると、次が来た。速度も侮れない。まばたきは厳禁だろう。

 3回目は複数(何本かなんて数えていられない)が同時に来た。いっぺんにこのようなこともできるのか。これは……避けきれない! 斬ってしまうしかないだろう。

 邪魔なものをスパッと処理してから、蜘蛛本体を攻撃──これでいこう。そして、実際に糸を斬った。

 思っていたよりも固めだったが、第一段階はできた。が──


「うわ、何コレ!?」


 私は次の行動に移せないでいた。糸が剣にからみついてしまっていたのだ。これでは、攻撃力がガタ落ちではないか。ハナたちの所へ、1度引っ込む。


「どーしよ、コレ」

「あー、蜘蛛の糸はベタベタするからね。しょうがないよね。私に任せて。剣を横に持ってくれる? その方がたぶんやりやすいかなー」


 ハナの言う通りにしてみる。すると彼女は、指先に魔力を集中させる。

 小さな炎が生まれた。それを、刃全体に当てていく。

 糸は焼かれ、やがて綺麗さっぱりなくなった。


「おぉ~……」


 元の状態に戻った剣を見て、私は感激した。


「ありがとーございます! 深く感謝するであります!」


 2回も頭を下げてお礼を言ってしまった。


「いやいや、たいしたことじゃないから……」


 いや、重要なことですぞ。これで、ふりだしに戻った。

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無敵な彼女の素敵な冒険バナシ 霜月りの @rino_11_15

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