第9話 翼をください-最終話
快晴の朝、開門早々から学校に飛び込んだのは、松本だった。職員室の前に立ったまま、ひとりひとりの先生に会釈を続け、担任を待った。山元が来るのを見つけると、松本は大きくお辞儀をして山元に訴えだした。
「先生、あたしはどうして退学にならないんです」
驚いた山元は、松本を生徒指導室に連れていった。
山元は松本を席につかせ、ゆっくりと言葉を選びながら話し出した。
「松本さんは、退学になりたいのかね」
「前に、補導されたときに、停学になりました。今度は、こんな事件を起こして、由美……緑川さんを巻き込んでしまって、……あたし、何の処罰もないのが、つらいんです。あの娘まで、まきこんで、それでも、あの娘、あたしのこと誤解してて。あたしが悪いのに」
「あぁ、聞いたのか。彼女がアメリカへ行くことを。今日みんなに伝えようと思っていたんだけれど」
松本は俯いたまま、静かに頷いた。
「君が、どう思っているかは知らないが、今回の事件は、君が起こしたものではない。あれは、頭のおかしな不良がやってきただけだ。君は巻き込まれただけだ。前の停学の後、更生しようとしていた君を邪魔しにきただけだ、違うかね。だから、君は何の処罰もないんだ」
「本当ですか?」
「本当だ。義務教育でむやみに退学はさせない」
「本当は、あの娘、由美子ちゃんが何か言ったんじゃないんですか。あたしに処罰がないようにって」
「ばかな、そんなことを彼女ができるわけないじゃないか」
「でも、あの娘の家は、お金持ちみたいだし」
「ここは、教育の場だ。いちいち教育理念に干渉できる者はいない。あくまで、これは理事長の方針だ」
松本は涙を堪えきれなかった。むせび泣きながら、ありがとうございます、と言うだけだった。
「まぁ、処分を下すべきだという先生もいるのはいる。だけれど、君らはまだ若い。今回の事件が、将来の君らにどんな影響するかわからない。その上、処分を与えれば、それこそ、どんな影響は出るかわからない。だから、処分はない。処分がないことで、君がそういう考え方をしてくれるのであれば、それで充分なんだ。どうしても、退学したいのならば、自分で退学届けを出せばいい。だけど、そうすると緑川さんが帰ってきても会えなくなるぞ、それでもいいのか」
静かに首を振る松本を、山元は笑みを浮かべながら見ていた。
グリーンスクール - 翼をください 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi
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