雑記.豆腐の角

 白くてプルプルの、大豆から作り出される魅惑の食品。

 柔らかで滑らかな舌触りのそれは、調理のバリエーションが無限と言って良いほどあるらしいのです。そして面白いことに豆腐自体にも色々とあって、水で戻すことを前提としたカッチカチの物もあるとの事でした。

 なら、いつか昔聞いた文句も実行できそうですね?


 ──それは思い付きで生まれた御豆腐様。


 白くもなくて、プルプルもしていないソイツは包丁の刃を欠くほどの硬度を与えられていた。食品としての在り方はねじ曲げられ、過剰と呼べる硬度。そこらの煉瓦など比べるまでもなく、下手な釘では刺さることすら許さないソイツを握り司書は外へ出た。

 宛もなくふらふらと徘徊する彼女を狙い、飛び掛かった魔物がいたのだ。彼女は紙一重でそれを避けると、無防備な後頭部に向かって手にした御豆腐様を振り下ろす。


 ぐしゃりと言う水気を含んだ破壊音、飛び散るは魔物の血液。

 彼女の手に握られた御豆腐様に一切の欠損はなく、そこにあったのだ。

「豆腐の角に頭をぶつけて死ぬが良い」

 頭部を陥没させ死亡した魔物を前にして、彼女は自信満々に宣言する。

 しかしギャラリーもなにもなく、そもそも頭部を豆腐の角で殴って殺しているので口上とは噛み合わないのだ。

「……何が楽しいんでしょうか、これ」



 ──血を吸って少しだけ柔らかくなった御豆腐様を手に呟いた彼女は、言葉通り酷く退屈そうであったという。


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