外伝 異世界転移していない!?〜ここはパラレルワールドです〜 前編

──注意事項。

外伝は前後編に別れた物になります。

前編をメイルストロム(@meirstlom)が担当し、後編を砂漠の使徒(@sabaku_shito )様が担当しております。リレー短編となりますので、御注意下さい──



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 ──放たれれば最後、必ず相手を穿うがつ槍。


 心の臓を穿つと言う結末を確定させ、その結末への道筋を必ず辿る不可避の一撃。それを叶える呪いの魔槍は、この星が神秘に包まれていた頃にったふるき獣のあかい骨を削り出して造られた。

 狙った獲物を確実に仕留める厄災の海獣かいじゅう、討たれた獣の一部は死してもなお、獲物を求め続けている──


 いつしかそれはゲイ・ボルグの名を与えられる事となったが、それは同じように造られた数ある槍の一つでしかない。


 また、原典は異なるものの必中の槍と言うものは存在する。

 例えば主神オーディンの扱う必殺必中の神槍グングニル。必ず敵を貫き、投手の手元へと戻る神代の宝。


 どちらも兵器としては至高の域に在る、文句なしの逸品。

 しかし、決定的に異なる部分が存在しているのも確かなのだ。


 ──それは残虐性。


 前者は痛みを与え命を貪り喰らう海獣の思念が籠る呪いそのものであり、後者は戦に勝つために鋳造された兵器。


 ゲイ・ボルグが呪いの朱槍しゅそうと呼ばれた所以は、その殺傷能力にある。必中の効果は言わずもがな、その残虐性は穿った後に発揮されるのだ。投擲されれば無数のやじりとなりて対象を穿ち、貫けば無数の棘を咲かせるのだ。

 例え心臓を貫かれずとも、傷を起点に内側から抉られる。身体の内側から抉り貫かれては無惨な骸を晒す他無くなってしまうのだ。


 またそれは対象の身に不治の激毒を残し、全身の内臓と血管の隙間に大釘を残す。加えて如何なる守りであっても貫通してみせるのだ。故に奇妙な軌道で突き穿ち、必ず苦痛に満ちた死をもたらす。



 ──誉も慈悲もなく、ただただ悲惨な終わりを与える呪いの朱槍。



 そして必滅必中の槍が存在するというのは、新たな厄災と戦を呼び寄せる事になる。必殺必中なんて代物が存在する事自体不幸なのだが、よりにもよって発見されたのは前者の方であった。

 刻まれた銘もなく、それがどういった経緯で存在し続けたのかは不明。しかし発見報告がある以上、私達にはそれを回収する義務があり場合によっては保有者を殺害する事になるだろう。

 可能であれば穏便に済ませたいが……恐らくそれは難しい。



 ──既に私は一度、彼に敗れているのだから。



 あれから数日、破損した義体や人形の修復は既に終えた。そして保有者の位置情報は既に人形達が調査済、対処法も用意したので後は赴くだけだ。


 次こそは必ず槍を退け、保有者を無力化した上で回収する。






 ──???????──


 人形達が集めた記録を元に弾き出した地点、そこは見知らぬ座標を指し示していた。その座標は現在観測している世界とは非常に近い数値であり、有難いことに全くの異世界という訳ではないらしい。


 そうして町へ赴きわかったことだが、この世界には私のような人型の生命体も数多く存在している。こちらで言う亜人種アドヴァンスらしき者も居るようで、猫耳の生えた者なども普通に生活していた。

 文明レベルは紫蘭達と同レベル、もしかすると此方の方が多少は進んでいるかもしれないといった具合だろうか?

 とは言え異界の地、警戒するに越したことはない。洋風人形ビスクドールの一体を抱えながら町を歩いていると、一人で歩く十四歳位の猫耳少女が目についた。


「すみません、そこの猫耳の貴女」

「えっと……私?」


 猫耳少女は少し困ったような顔をしていた。


「はい、少々お尋ねしたいことがありまして」

「私にわかる事なら良いんだけど、なにかな?」

「ここには人が多く集まるような場所はありますか? 探し物がありまして、出来るだけ多くの人々に聞きたいのです」

「探し物なら、ギルドに行くといいよ! あそこなら色んな情報も集まるし、良かったら案内してあげようか?」


 猫耳少女は明るい笑顔と共に道案内を申し出てくれたあたり、この世界の住人は想像以上に友好的なのかもしれない。私は彼女の提案へ乗る事にして、共にギルドと呼ばれる場所へ向かった。


「ここがギルドですよ、お姉さん」

「案内、ありがとうございました」

「いいよ、これくらい! ……そういえばお姉さん、見ない顔だね? それにそのお人形さん、凄い綺麗!」

「私は流離さすらいの曲芸師でして、この町にはつい先日着いたばかりなんですよ。この子は私の大切なお友達、手品を手伝ってくれるんです」

「へぇー……でも、曲芸師ってなに?」

「手品を見せたりする人の事です。もし宜しければご覧になりますか?」

「え、いいの!?」

「はい。道案内のお礼ですよ」


 その場に簡易的な椅子を一脚転送し、そこへ彼女を座らせる。椅子を転送した時点で手品だなんだと驚いていたが、その程度で驚かれては困る。

 そこから私は比較的簡単な手品を数種類披露したわけだが、どれを見せても猫耳の彼女は大袈裟ともとれるリアクションを見せてくれた。何時の日か造物主達にんげんたちの子供相手に披露していた暇潰しも、意外な場面で役に立つものだ。


「……さて、手品は以上になります。お楽しみ頂けましたか?」

「凄いよお姉さん、魔法みたいだった!」

「ふふふ、お楽しみ頂けたようでなによりです」


 出した時と同じように器具を送り返し彼女の反応を伺うと、やはり先程同様に目を輝かせて嬉しそうにしていた。


「こんなに凄いものを見せてくれてありがとうお姉さん! ところでお姉さん、お名前はなんていうの?」


 私は彼女に対して実名を告げるべきか迷った。回収対象が私を何処まで知っているかは不明、万が一彼女と対象に接点があった場合を考えれば伝えるべきではない。

 回収が済めばここへ来る用事もなくなる、つまり彼女と出会うことはない。


「……キュレーターと申します。お嬢さん、貴方のお名前は?」

「私はシャロールっていうの!」

「良い、お名前ですね」


 結果として私は偽名を伝えた。リブラではない、学芸員キュレーターというただの役名。


「ありがとう! そういえばキュレーターさんは、何を探していたの?」

「紅い槍を持った人を探しているのです」

「紅い……槍?」

「はい、全てが紅い槍を持った人です。もしかして、心当たりが?」

「ごめんなさい、キュレーターさん。そんな人の話は聞いたことないかな……」

「……そうですか。

 シャロールさん、一つ約束していただけますか? もしもその人の事を知ったとしても、絶対に関わったりしてはなりません」

「どうして? キュレーターさんの探し人なんでしょう?」

「少し特殊な方なので、私以外の人では逃げてしまうのです。なのでどうかお願いいたしますねシャロールさん」

「キュレーターさんがそういうのなら、そうするよ」

「ありがとうございます」


 それから私はシャロールさんと別れ、ギルドの受付と話をする。捜索対象についての情報をまとめ、捜索と言う形で依頼を出す流れとなった。

















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