外伝 異世界転移していない!?〜ここはパラレルワールドです〜 後編
「むむむ……」
これは怪しい。
僕の勇者としての勘が働く。
「捜索依頼……か」
仕事柄毎日見ることになる掲示板。
そこには、様々な依頼が貼ってある。
植物や鉱物を探す依頼なら、よくある。
行方不明者や指名手配も、たまに見る。
だが、今回は……。
「槍……」
武器の捜索とは、珍しい。
それにしても、依頼主はなんのためにこれを探してるんだ?
思い出の品だとか……?
いや、しかし。
やはり、怪しい。
なにか、この依頼にはここに書かれていること以上の重大なことが隠されている気がする。
僕が持っている紅い剣だって、勇者の剣。
試練を乗り越えた者しか手に入らない代物だ。
この槍も似たような類のものか……?
「僕、この槍を探してきますね」
「え……?」
「わざわざ職員の私達が探す必要は……」
「あるさ」
「これを他の冒険者が見つけたら、大変なことになる」
「どうしてわかるんですか?」
「勇者の勘……かな?」
なんか、怪訝な顔で見られてる。
だが、行くと決めたんだ。
「じゃあ、後は頼んだよ!」
僕は颯爽とギルドを出た。
「ええと……」
まずはどこから探そうかな。
「あ、佐藤!」
「ん?」
「お弁当、忘れてたよ!」
――――――――――――――――――――
「あ! 私もそれ知ってる!」
「え?」
なんでシャロールが知ってるんだ?
「昨日、キュレーターさんが探してたよ?」
「キュレーターさん?」
「人形で、すっごい手品するの!」
「なるほど……?」
よくわからないが、依頼したのはその人なんだな。
「なんで探してるかは聞いたか?」
「ううん」
まあ、聞いてないか。
「あ、でもね!
私、言われたの!」
「なんて?」
「絶対に関わってはいけないって」
「絶対に……」
となると、槍の所有者は危険人物か?
はたまた、槍が危険なのか。
「う〜ん、でも依頼がでてるし……」
「……」
「それに、なんだか嫌な予感がしてな」
「ふ〜ん」
「ちょっと探してみるよ」
「シャロールは帰っててくれ」
「いや、私も行くよ!」
「どうして……?」
「佐藤一人じゃ、危ないからね!」
子供じゃないんだから……。
でも、まあ。
「いざってときは、シャロールのスキルもあるしな」
「うん!
話せばなんとかなるよ!」
――――――――――――――――――――
「あれか……?」
「そうみたい……」
案外すぐに見つかった。
この町で、
通行人に聞き込みを続けていると、追いついた。
「さて……ここからどうするか」
関わっちゃいけないってなると、もちろん話しかけるのはやめたほうがよさそうだ。
いきなり襲いかかってくるかも。
「もう少し……様子見かな」
――――――――――――――――――――
「森に入っていったよ」
「だな」
町を出て、どこに行くかと思えば森か。
こんな人気のないところでなにをしようってんだ?
「ん?」
目の前の彼が、おもむろに槍を構えた。
どうやら正面に投げるようだ。
しかし、そこにはなにもいない。
「なんだなんだ?」
「投げた……!」
スライムでもいたのかな。
それにしては、随分遠投するみたいな投げ方だったが……。
「あ、佐藤!」
「後ろ!!」
「え?」
「うわ!!!」
さっきの槍がいつの間にか、僕達の後ろから迫ってきていた。
ただ投げただけとは思えないほど正確に僕の元へ飛んできている。
「ええと……」
「槍が止まらない!!」
叫ぶと同時に、槍は止まる。
だが。
「うっ! ぐぐぐ……!」
「どうしたの、佐藤!?」
心臓が……。
なんだ……これ……。
「ま……ずい……」
「え!?」
――――――――――――――――――――
佐藤がすごく苦しそうな顔で、膝をついたその時。
向こうから足音が聞こえた。
見ると、槍を持っていた人がこっちに来てる。
「どうしよう……!」
佐藤を置いていけない!
でも、このままだと何をされるかわかんない!
槍はまだ空中で止まってるけど……。
「あれ?」
ここで私はあることに気づく。
おかしな話だけど、あの槍、モンスターと同じ気配がする。
佐藤と一緒にモンスターの調査をしていた私だから、わかる。
あの槍は、話せばわかるような気がした。
邪悪な気配はあるけど、どんなモンスターだって話せばきっとわかってくれる。
今までいつもそうだった。
「あの、
私が話しかけたその時。
「シャロールさん!」
またまた誰かの足音。
茂みから出てきたのは、昨日の人形さんだった。
「あれ……?」
「キュレーターさんは?」
「私は訳あって、ここから遠くにいます。
あなたも早くここから離れて!」
必死なキュレーターさん。
私もそれに従いたい。
でも。
「まだ、話が終わってないですから!」
「だ、誰とのですか……?
まさか、あいつですか!?」
今もゆっくりこちらに来ている彼を指さしている。
「彼は、ゲイボルグの……」
ううん、違うの。
「私が話したいのは、紅い槍」
「はい?」
再び槍が動き出した。
……佐藤の心臓を狙ってる。
「待って!」
私が声をかけると、止まってくれる。
「ああっ!」
突然私の心臓に痛みが走った。
長くは持たないかも。
佐藤みたいに。
「殺す……!」
低い声が、響く。
「どうして……こんなことを……!」
「殺す……!」
「あなたはそれでいいの?」
「……」
「殺しだけが全てじゃないでしょ?」
「もっと楽しいこと、見つけましょ……!」
「殺す……」
もうダメ……。
痛い……。
死んじゃう……。
「私は殺してもいいから……」
「殺す……」
「二度とこんなことしないで!」
それだけ言うと、私は地面に倒れ込んだ。
――――――――――――――――――――
「起きてください、二人とも」
「ん、んん?」
「あれ……?」
目を開けると……。
「キュレーターさん!!」
この人が……。
「よかった、気がついたんですね」
「あの! 槍は!?」
「こちらに回収済みですよ」
槍を持った人形が現れる。
「じゃあ、あいつは?」
「そちらも回収済みです」
さらに、人を抱えた人形が現れる。
「あの後、なにが?」
「私がこの男を無力化しました」
「ええー! すごい!!」
「ありがとうございます」
「助かりました」
まさかこんなに強い人だったなんて。
最初から、相談してればよかった。
「いえ、それはこちらのセリフですよ」
「え?」
「シャロールさんと佐藤さんが槍を止めていなかったら、もっと苦労するはずだったんですから」
「え、じゃあ……!」
「槍はあの後、動かなくなりましたよ」
「よかった……」
胸をなでおろす。
僕はまだしも、シャロールがどうなるか心配だったんだ。
「それにしても、シャロールさんは何をしたんですか?」
なにって……あれだよな。
いつもの。
「私はただお話しただけですよ」
「これと……ですか?」
不思議そうに槍を見つめるキュレーターさん。
「キュレーターさん、信じられないかもしれませんが」
「思いは届くんですよ!」
「……ふふ。
貴方達には、敵いませんね」
……僕もシャロールには敵わないよ。
「それでは……」
「もう帰るんですか?」
「ええ、捜し物は見つかりましたので」
「あの、最後に一つだけ」
シャロールが、真剣な眼差しになる。
「なんです?」
「その槍、大切にしてあげてくださいね」
「……もちろんです」
そうして、僕達はキュレーターさんと別れた。
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