短記.死を追う者

 ──矢をつがえ、弦を引いて手を離す。

 そうして放たれた矢は、静かに深く突き刺さる。


 そうして奪うのは誰かの命。

 静かな一刺しが、誰かの大切なものを傷つける。


 だからどうかお気を付けて、全てを射抜く貴方様。

 月女神アルテミスに愛された剛力無双の名射手様オリオン


 貴方に届く、静かで細く鋭い一撃を放つのは誰かしら。

 貴方でさえ欺いた、静かで小さなさそりの一撃。


 きっと、貴方は誉められたのでしょう?

 上手にやり遂げたと、沢山誉めてもらったのよね。


 だから私も頑張るわ。

 貴方に誉められる、そのために──




 私のお仕事は公に出来ないけれど、大切なお仕事。

 だからとっても難しい。そんなお仕事をこなしても、ただの一度さえお母様は私を誉めてくれません。


 お母様の指示でお会いした貴方、貴方は私の容姿を可愛いと誉めてくれましたが、一昨日サヨナラしましたね。大人の色気があると、明るいネオン街にお誘いしてくれた貴方は七日前にお別れしました。貴方達の事はもうすぐ忘れちゃうけど許してね、お間抜けさん達。


 それにね、私が誉めて欲しいのは貴方達じゃない。そんな所を誉められても嬉しくないの。わからないだろうから教えてあげる、女の子は魔法使いなんだから、可愛くも美しくもなれるのよ?

 外見だけを誉めるお馬鹿さんからの言葉なんて、ちっとも嬉しくないんだから。外面に騙されて簡単についてくる男なんてもううんざり、これなら女の人の方がよっぽど楽しいわ。


 女の人は私をしっかり見ようとしてくれる、他の男達みたいに外見だけに惑わされてくれない。だから私は隠れるの、取り繕った外見にその身を潜ませ貴方を狙うのよ。お母様を抱いた貴方を射つために。


 誰にも見付からないように、ひっそりと静かに射抜いてあげる。



 ──だからお母様、私見付からないように頑張るね。

 何時かお父さんを、刺してあげるから。

オリオンを貫いたデスストーカーのように──


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る