異神録.残火、燻る劫炎


 ──始まりがあるからこそ終わりがあるのか。

 終わりがあるから始まりがあるのか──


 一つの時代を終わらせた終末存在ドゥームズディ・エグジスタンス、その手に握られていた終末装置ドゥームズディ・デバイス。黒き巨人の王が手にしたそれは絶えぬ劫火ごうかつるぎ、旧きを焼き祓い終わらせる為の装置デバイス

 黒き巨人王の手を離れたそれは、幾千年の時を経て新な主を得る事となった。新な主は一人の幼子であり、黒き巨人王と比較する事すらはばかれる程に矮小わいしょうな存在である。


 ──新な主の名はマリーナ。

 未曾有の危機に貧した人類が産み落とした被造物にんぎょうであり、過拡張人種エクステンダーズと呼ばれる新な人のかたち。戦うために造られた体に宿す自我は未発達、発芽前の未熟な魂は伽藍の堂。喜びもなければ恐れも抱かない、まさに理想の兵器。


 それに対し、終末装置ドゥームズディ・デバイスには自我のような物が芽生えていた。それは担い手が無くとも、本来の役目を果たせるようにと仕組まれた安全装置だったのかもしれない。だが、それはどうだって良いことだ。問題なのは兵器が自我を宿していたという事であり、それは伽藍堂の彼女へ少なからず影響を与えたのである。

 与えられた切っ掛けは自我の芽生えを促し、芽生えた自我は急速な成長を見せたのだ。


 ──しかしその報告は福音ふくいんとはならず、破滅の産声となった。


 自我を獲た二人を恐れた研究員の一派が企てたはかりごとにより、マリーナは致命傷を負ったのだ。彼女が初めて抱いた死への恐怖、それを感じた終末装置ドゥームズディ・デバイスは彼女を守る為にかたちを獲たのだ。

 主を守る為に獲たのはかつての主、黒き巨人の王を模した灼熱の肉体。滅ぼす為の力を、守る為に使おうとした為か、その体躯は白炎の鎧に覆われていた。

 そしてかたちを獲た巨人王ドゥームズディ・デバイスは彼女守る為に、本来の力を躊躇いなく振るったのだ。振るわれた本来のちから、それは北欧に在った神の時代を焼き付くした劫炎。


 ──わかっていた筈なのだ、それは元より人の手には余る代物だと言うことは 。

 ただの数秒、一分にも満たない顕現で振るわれたのはたった一度。その一度で彼女を造り出した研究施設は、跡形もなく消え失せたのだ。溶岩の熱にも耐え得る素材で造られた施設を融解させ、周囲の土地さえも溶解させた終末の劫炎。

 その跡地に残されたのは主であるマリーナと、彼女の両親。劫炎の主、終末装置ドゥームズディ・デバイスは記憶していたのだ。彼女を心から慈しみ、無償の愛を与える存在の姿を。神代の披造物である自分には与えられないモノを、彼女へと与えてくれる男女のつがいを憶えていた。

 終末装置ドゥームズディ・デバイスは主であるマリーナの意識喪失と共に姿を消し、深く傷付いたマリーナは両親に連れられ遠く離れた土地で慎ましく暮らしたのだという。


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