4 水龍の谷

「ここ座っててくださいね」

そうビビは言った。僕が出てきたときナミさんは相当戸惑ってたけど、早数時間。もう慣れてきちゃった感じだね。飲み込み早い人ってうらやましいな。僕はすごく遅いから。

「あのー。もうすぐ来るんですよね。セイ」

ナミさんが少し緊張した面持ちでいう。

「そうだと思いますよ。僕の見立てじゃないですけれど」

僕は言った。だって本当の事だから。ポコとユウの見立てだとあと数秒。

思わずゴクリと唾を飲む。僕のが緊張してきてるよ。僕がしたってしょうがないのに、、。すると、いきなりドアが勢いよく叩かれる。

ひっ!じゃなくて、ドア可哀想、、。でもなくて。

「こ、こんにちは」

僕が恐る恐る言うと、勢いよく入ってきた青い猫は、いや、セイはナミを見て信じられないというように固まっていた。僕は静かにポコにガードを譲る。ここから先はポコの策に任せるしかない。


「驚きました?これが探偵社の実力です。ひやかしには少し早かったですね。」

僕、ポコはセイに言う。笑ったまま冷たい目線で。

「図星ですか?そうですよね。あなたは見つけてもらう気なんて無かったんですからね。」

そう言われたセイは固まって凝視している。図星だったんだろう。なぜここに居る?なぜナミがここに居る。どうせそんなとこだろう。

「いつからだ」

そんなことを言ってくる。僕は

「そうですねぇ。初めから気付いてましたよ。ナミを探せと言ってきた割に写真も何も見せないから。」

と言ってやった。

「まぁいいですよ。ナミさんの事信じてないんでしょうし。」

僕がそういうと。

「ほんとなの?」

とナミが悔しそうに言う。来なければよかったと目線が語っている。僕は言わなければならない。この兄妹の両親の正体と、セイの思想を。

「セイさん。あなたは誰かを大切に思ったことってないんじゃないですか?おそらく昔、誰かに裏切られてから。誰かを大切に思ってもきっと裏切られる、そう思ってるでしょう。だから村を追い出された日、母を疑って憎んだんですよ。きっとナミさんはそれが嫌だったんでしょう。山でセイと口論になった。その結果がこれです。あっけなくナミは見つかりセイは自分の正体を暴かれた。

知ってますか?桜神直属おうじんちょくぞくの三人衆見習いへの依頼は通常の探偵の3倍の速さで達成されます。まぁそうですよね。神域でのカースト制度、あれの上位に当たりますし。冷やかしで来るような探偵社じゃないんですよ。セイさん。」

セイが呆然としていた。だから僕は言うだけ言って二人のもとを離れた。

これでよかったと僕は信じている。あとは二人がどうにかしてくれるはずだ。


僕の足音が遠ざかる。二人だけになった部屋につかの間の静寂が訪れた。

「そうだったんだね。みんなを騙して楽しかった?」

静寂を破ったのはナミだった。その声には怒りの色が見えた。怖いものだ。

「ごめん」

セイはただ謝っていた。ただナミの静かな激昂に耐えていた。

「言ってくれれば何とかなったかもしれなかったのに」

最後にナミがそう言った。僕はドアの陰で驚いた。セイも驚いたようだった。

「じゃあ。そう言ってくれればよかっただろ。遅いんだよいつも。」

セイがそう言った。逆切れした。ナミの周囲を包んでいた空気が変わった。

「そうだ。何もかもが遅いんだ。」

セイが自分に言い聞かせるように言った。まるで頼れなかった自分を責めるように、自分が間違っていないとでも信じたいかのように。少しの間呆然とセイを見ていたナミが口を開いた。

「信じようとすればどうにかなったんじゃないの?」

苦しそうな声に聞こえた。言うことが他になくて思わず言ったというような声だった。

「信じて何になる。どうせ裏切られるのにか?ずっと俺の周りには家族がいると思ってた。それなのに皆いなくなっただろ。信じるなんて行為は所詮後先考えられないやつがすることなんだよ。この世界に神なんていないんだから、信じることの先にあるのは裏切りだけだ。」

さっきまでの怒りからは想像できないくらい落ち着いてセイが言った。どうやら本音だったようだ。2人とも黙ってしまった。

『そろそろ限界かな。』

僕がユウに言うと、

『そうだな。潮時だ』

と返事が返ってきた。じゃあ。二人の喧嘩はこのくらいにさせておこう。この先にもっと重く、二人を押しつぶしてしまう位に重い事実があるのだから。そう思って僕は二人の前に出ていった。

「そのくらいにしておきましょうか。本題はまだですし。」

僕は二人の間に入って言った。二人はようやく終われるということに少し安堵したような顔を見せ、僕のほうを向いていた。僕は二人を机の前の椅子に座らせると、本題について話し始めた。

「さて、お二人も落ち着いたようですし、本題に入りますね」

僕はお決まりの「さて」をつけ、机に肘をつき顔の前に手を組んだ格好でできる限り笑顔を崩さずに言った。二人は急に改まった態度になり僕の話を聞いた。この調子なら二人は大丈夫だろうと思った僕は、続きを話し始める。

「お二人は、両親のことについて何か聞いたことはありますか?」

僕の問いが突飛なものだったからか、二人は顔を見合わせて、

「いえ、何も」

と言った。セイとナミは何も悪くないんだけど。せめて役職だけでも言っとけよ!って僕は思った。めんどくさいんだよ。これだから猫明命様系列ねこあかりのみことさまけいれつはさ。人使いが荒いんだよ。どこかの巫女とかさ!まぁ、故人に文句ってのはひどいか。

「じゃあ、この世界に五神と呼ばれる方々が存在していることは?」

僕が二人に言うと、

「あっ!昔母から聞いたことがあります。確か、、桜、紅、星、夜、水龍の五柱ですよね。」

とナミが捲し立てるように言った。それを聞いてセイも、

「なんか聞いたことあるなそれ。もう一つ、五神村っていうのもなかったか?」

と、思い出したように言った。僕は少し驚いて、というかなんでそこだけ教えてるんだよと思いながら、

「そこまで話しておられましたか。ミズキ様は」

と言った。今度はナミとセイが驚く番だった。

「「様⁉」」

「はい。様と呼ばなければならない身分なので。」

僕は先に言っておく。その通りなのだから。

「じゃあ、気になると思うので最後まで言いますよ? まず、五神村には神桜村かんざくらむら神紅村しんくむら蒼牙村そうがむら夜露村よつゆむらがあるというのが一般的な常識ですよね。だけどもう一つ。水龍の谷と呼ばれる村があるんです。ここには水龍神という夫婦神が住んでいて、桜神の住む館へといくゲートがあると言われています。その水龍神の名は、桜殿名で妻を《雨久花みずあおい》、夫を《水面みなも》。元の名を妻が《瑞稀みずき》、夫を《龍佑りゅう》と言うんですよ。お二人の両親の名前は《ミズキ》と《リュウ》でしたよね。

気づきました?重なるんですよ。また、ナミさんがミズキ様に連れていってもらったという桜の屋敷。あれは桜殿です。そこで出会ったという虹鞠こまという女性は、現在の名は違いますが恐らく猫明命様ねこあかりのみことさまでしょう。 わかりましたか?お二人は水龍神一族の最後なんですよ。」

僕が話し終わると二人はただ呆然としていた。まぁそうなるよね。だって、いきなりあなたたちの両親は神であなたたちは神の子ですよって言われてるんだし。僕でもそうなる。戸惑うよね。言ってんの僕なんだけど。セイなんてさっき神なんていないって言ってたしね。

『言ったはいいが、どうやって桜殿おうでんに引き込むんだ?』

ユウが僕に脳内で言う。

『どうやってって、、、。どうやって?』

僕は少し途中で考えながらユウに言った。

『何も考えてなかったのかよ』

普通にユウに突っ込まれた。そういうこというなよ―って緩めに否定しようと思ったんだけど、

『まぁどうにかするよ。ユウとは違うんで』

と、皮肉が先に出た。ま、ユウだしいっか。そんなことを僕が脳内で思っていると、

『あっそ』

とそっけない返事が返ってきた。なにが言いたいんだこいつ。

さて、ナミとセイの方に僕が意識を向けると、こちらはまだ呆然としていた。これならうまく事が運ぶかもしれない。っていうかこの二人大丈夫か?理解力は人並み以上かなってちょっと思ってたけど、買いかぶりすぎたかな?

「そろそろいいですか?」

僕が苦笑いを浮かべながら言うと、

「あっ、、、。すみません」

とナミが言った。僕は、こちら問題なし!どうやら反応できるようです!と、どこかのモニター室で言ってそうだなと思いながらふざける。ほんとはふざけちゃダメなんだけどね(笑)。まぁ安心したってことだよ。セイはどうかと思ってセイをみると、

「あー、、、、。えっと、、、どうぞ」

と言われた。大丈夫かい?セイ。妹君に抜かされておるぞ。と言いたくなった。間違ってもいわないけどね。よし!二人も頑張ってるんだ!僕も頑張ろう!

「水龍神が五神から欠けてしまった、ということはわかりましたか?」

僕が言うと、ナミとセイが頷く。やっぱり僕の見立て通りこの二人は頭が回るよ。助かる。優秀な猫っていいね。

「昔あった蒼牙の乱という争いで、紅神くじん星神ほしがみは処刑されてしまいました。なので五神は今二柱しかいないんです。」

一瞬二人の動きが止まった。なぜだ?雨久花みずあおい様、また言ってなかったのかな。

「普通に足りないじゃないですか!」

ナミが僕にすごい剣幕で言う。いや、、、、僕に言われても、、、。理不尽じゃないか!セイはさっきっから一言も話さないしさ。僕がそう思ってセイの方を見ると、セイは僕から目をそらした。え、、普通にショック。なんか僕怖がらせるようなことしたっけ。

僕はセイの考えを読むためにセイの本を作る。ちなみに本を作ることは結構簡単なんだよね。頭の中で本にする人物を思い浮かべて、本棚を具体的にイメージする。たったそれだけ。簡単でしょ?ページをめくりつつ僕は得意げになった。あ、言っとくけどこの本の内容は僕以外の人&猫は基本読めないからね。何を考えているかが僕にわかっても言わないんだから特に問題ないしね。そんなことを思っていると、いつの間にかセイの基本データの章が終わり、考えていることの章になっていた。文字が浮かんでは消えていくページだ。頭の中のことなんて誰にも分からない。それが通説だけど僕にはわかってしまう。それがこの頃一番怖いことだ。それのせいで誰かが離れていくことが怖い。この時もちょっとだけ脳裏をかすめたけど特に気にしなかった。書かれているのは、、、、。どれどれ、

《下手なこと言ってこいつにバレたら怖い。》

え、、、。これは、、、、。ちょっとショックだったかも。なんだよ、、、。

あれ?なんで僕は、もう会わないかもしれない依頼猫に嫌われるのをいやがってるんだよ。

脳内で今まで幾度となく繰り返されてきた乾いた笑い、自嘲が僕に少しだけ戻ってくる。いいよ。でもこれだけは言わせてよ。

「何かバレたら困ることでもあるのかよ」 

気が付いたら僕の口をついてそんな言葉が出ていた。僕の突然の豹変ぶりにセイの動きが止まる。今この瞬間でこの部屋の時間が止まったように静かだった。すると、

「ないよ」

しばしの静寂を破ってセイがそう言った。そして、

「あるとするなら自分が嫌いになったことくらいかな」

と言って笑った。その笑いは自分自身を嘲笑うようにも見えた。そして、

「さ。続きを話してくれるんだろ?」

と、さっきとは打って変わったように快活に話しかけてきた。僕は少しセイの気持ちがわかるような気がした。

「そうですね。いろいろあるんでした」

僕はたどり着いた一つの結論を話さなくてはならないことに気づいて二人のほうに向きなおった。

「その二柱の神は、猫明命と夜露という名の神で、夜露様は猫明命様のもとに行くことができません。まぁ厳密にいうと行けるのですが、いろいろ制約があって。それで今、桜殿では董寮きんりょうの生徒と護衛、そしてわずかな神桜ノ守人かんざくらのもりびと、それしか猫明命様を守ることができないんです。」

僕がここまで一気にいうと、

「話遮ってごめん。質問だらけだ」

とセイがきいてきた。まぁそうだよね。用語だらけだったから。僕は少し不貞腐れるようにバレなければ楽だったのになぁと愚痴る。もちろん脳内だけどね。

「すみません。どこが分かりませんでした?」

僕はセイに聞く。言った後でこいつすごいむかつく奴だ、と思った。わかってるのに聞くってなんかむかつくよね。あれ?同意してくれる人いるかなぁ、、、。

「えっとまず、夜露という神がなんで行けないのかと、董寮きんりょう神桜守人人かんざくらのもりびとって何なのか、かな。」

セイにそう言われた。正直に言うと予想通りだったなー。つまらん。しかもその辺って言えないこと多いんだよね。セリに桜殿の常識は全部覚えてもらうけど、口外禁止がどれなのかも覚えてもらうって叩き込まれたんだよ。この間、、。まぁいつかセイもナミも覚えるんだろうけどさ。今は言えないんだよね。だから面倒くさい。

「えっとですね、、、。夜露様が来れないのは、別世界にいるから夜しか来れないためで、董寮というのは護衛の養成所というか学校というか、、、みたいなところで、神桜ノ守人は完全に口外禁止です」

と僕は言った。分かりづらかったとしてもこれが秘密事項の限界だから。セイを見ると、わかったようなわからないような顔をしている。、、、まぁいっか。ここは理解する必要ないから。

「まぁそれでですよ。猫明命様の命を狙うのなら今なんです!」

僕が人差し指を立てて真面目に言うと、ナミにすごい速さで遮られた。

「狙いません!!」

「僕らじゃないよ!!」

はっ!思わず僕まで吠えちゃったじゃん!そりゃ猫明様ねこあかりさまは意地悪だし嫌いだけどさ!僕は殺そうと思うほど馬鹿じゃないし狂ってないよ!深いため息が僕の口から洩れた。

「僕たちの話じゃなくてですね?猫を喰らうやつのことですよ。通称猫喰つうしょうねこぐい。この名前でわかったんじゃないですか?」

二人が息をのむのが気配でわかった。その反応で正しいなこれは。そう思った後で正しいって何?と思ったのは秘密だけど。

「そうです。水龍の谷を襲った怪物である猫喰い。あれはどう見ても闇の技で作ったものなんですよねー。ということで!少し聞きたいことがあるんです!」

僕がいったん話を止めて満面の笑みで二人に問うと、

「答えられる範囲で頼む」

とセイが言ってくれた。もちろんナミも同意済みだ。二人はものすごく物分かりが良くて助かるね。本当にどこかの巫女とは違って。で、

「猫喰いが村を襲撃する前、夜に何かをする人を見ませんでした?」

僕はできうる限り遠回しに僕とユウの結論に近づけたかった。すると、

「、、、いた。、、、夜に声だけだけど、、、誰かと話す声と、けものか何かの声だった気がするんだよな、、、、。あんまり記憶が確かじゃないけど」

少しの沈黙の後セイが僕にそう答えた。僕は思わず机に体を乗り出して言った。

「誰の声だ」

僕の口調が荒れたのと僕のとても焦った様子に戸惑いながらセイは答える。

「村長の声と男の子の声だったと思うけど」

その声色に見え隠れする戸惑いに僕は我に返った。こんなことしても意味がないのに。なんとなくカッとなってしまうことが極たまにあるんだ。依頼人に醜態をさらすことなんてなかったんだけど。後悔が後を絶たない。謝らないと。

「すみません」

気が付いてから少し時間が空いてしまったものの、ちゃんと謝れたのはよかった。今までは自分に言い聞かせるので手一杯だったから。それじゃあお客さんがいなくなっちゃう。あれ?そしたら僕の記憶ってどうなるんだろう。今は猫明様に客に聞けって言われてるけど、、、。記憶戻らないって、それは嫌だな。まずいな。あっ、やっぱ何でもない。話変えよう。

「それで村長だったんですか?」

僕がセイに普通に聞くと、

「ん?間違いねぇよ」

と、セイがそれがどうかしたかと問うように僕に言った。

「いや、、、。そうなると村長=猫喰いになりますからね。桜殿襲うなんて簡単だなぁと、、、って明日か」

僕が言った突然の結論に、二人が同時に

「「は?」」

と言った。ここで捕捉。五神村の村長は一年に一度桜殿で村長会議をします。そこでは前年の報告と今年の方針について話し合うんです。普段は元日に行われるんですけれど、水龍神のことで臨時会議を開くのだそうで、それが明日なんですよね。だから村長さんが桜殿を襲うなら明日っていうこと。まぁ僕もこんな結論になるとは思ってなかったんだけどね。

「まぁまぁ落ち着いてください」

僕がにこやかに二人をなだめると、

「何のんきなこと言ってんですか!」

とナミに怒られた。思わず

「はい。すみません。」

という委縮した声とセリフが僕の口から吐き出される。のんきなことしてるつもりはないんだけどなぁ。

「まぁ、そこで二人に頼みたいことがあってですね。僕たちと一緒に桜殿に助っ人としていきませんか?」

僕のとんでもない頼みに二人は一瞬たじろいだ。そして顔を見合わせた後、

「乗り掛かった舟ですし」

「断る理由もねぇしな」

と二人それぞれで同意の言葉を僕に伝える。意外とあっさりいったなぁと僕が驚くと、

「なんで意外そうなんですか」

とナミが僕に、失礼なとでも言わんばかりにいった。なんだか心の内を読まれているような気分で話しづらいなぁ。僕も同じことをしている手前ね。

「こんな面倒くさそうなこと断ると思っていたんで」

僕がそう平然と言うと、

「「同じにするな」」

と、二人から抗議を受けた。えー大体の人はこういうの嫌がるんじゃないのー?と心の中でひそかに思いつつ、それでも協力してくれるに越したことはないし準備でもするかと僕は立ち上がった。桜殿か、、。行ったことないんだよねー。あはは。楽しみ。なんて考えていると、

『ポコ。どうやって行くの?』

とビビが心配そうに僕に言った。

『セリなら何とかなるよ一応、桜社おうしゃの巫女だし。大丈夫だよ!きっと』

と僕は楽観的に答える。そうだよ。こういうものは案外どうにかなるものなんだ。

「桜社に行きましょう!」

僕がセイとナミにガッツポーズをしながら宣言すると、当たり前のように

「桜殿じゃないんですか?」

とナミから指摘があった。心なしかナミにジトッとした目で見られているような気がするのは気のせいだろうか?大丈夫!ちゃんと根拠があっていってるから!珍しく。

「桜社に使える巫女がいるんで」

と僕はセリを使うということのささやかな復讐(?)に思いをはせる。

『僕を使った罰だー。使ってやるー。』

と脳内で一人で騒いでいたら、何故かユウとビビが僕を無視した。

『えっちょっとひどくない?』

と僕が二人に言うと、ユウが

『こんなだから使われるのだろうなと精一杯蔑んだつもりだったが』

と、心外だとでも言わんばかりに言い、ビビが

『ポコを見ていると心が痛くなってきたんだよね』

と可哀想な人を見る目で言ってきた。二人ともちょっとずつ僕をえぐってくるよね。なかなか酷いと思うんだけど僕だけかな。まぁそんな二人は無視して、

「桜社まで案内します!」

僕はそう言って元気よく探偵社のドアを開いた。ドアの外には、夏の明るい太陽と一年中咲き誇る神桜村の桜が、涼しげな一陣の風と共に陽炎の中をゆれていた。その姿に僕の気持ちがさらに晴れていく。空には入道雲。真夏の暑さから逃げるように僕らは桜社の結界へと向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫の探偵社 雨空 凪 @n35

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ