物語編その2

致命傷を負ったジャンクは、魔人のゲインに助けられる。

彼は聖女殺しの結果を見届ける為に、ミレーヌによって遣わされていた。だが、結果は見ての通り失敗で、これで人間社会は大きな混乱を生むだろうと言った。

ゲインは先程の戦闘を見ていたのは自分だけではなく、ソーマという新聞記者が居た事をジェイクに伝える。

ゲインは人間達の情勢を知る為の手段として、人間達が作る新聞という媒体を利用していた。その中で魔族を憎み、討伐するように世論を動かそうと一番躍起になっている記者が、ソーマだという事を知っていた。

ジャンクはゲインにソーマを殺さないのかと尋ねるが、ミレーヌがソレを望まないと口にして、ジャンクを魔族の領地へと連れて行く。


城下では、ソーマが書いた記事によって混乱が生まれていた。

記事には国王が聖女を殺す為に暗殺者を雇い、卑怯にも自分の息子を利用して殺そうとしたと記されていた。その記事を読んだ国民はあの国王ならばやるだろうと口にして、やはりあの国王では駄目だと叫び出す。

国王は暗殺の失敗に頭を抱えていた。

明確な証拠がないので、現状はソーマの書いた記事だけとなっているが、この期を待っていた者達が動き出す事を恐れていた。自分の周囲には味方は少ないので、自分を守ってくれる者達はどんどんいなくなり、自分は王座を失うだろうと絶望する。

その時、王子が国王に聖女を殺そうとしたのは本当なのかと尋ね、国王はそんなものは噂話で、あの聖女は立派な存在であると嘘を吐く。


バラッドはエリスとクリフと共に旅に国を出ていた。

ジャンクを裏切った事で罪悪感はあったが、エリスに励まされ、彼女を殺す事に手を貸していた事に対する償いとして、手伝いをすると宣言する。エリスもクリフをそれを快く受け入れ、三人は次の目的地である隣国へと歩を進める。

王国では、今の国王から国を奪い取ろうとする勢力が動き出していた。その中には国王に使える宰相や各地域の領主の姿もあった。国王に味方する存在は少なく、国王が聖女を殺そうとした明確な証拠があれば、国王から権力を奪い取り、自分達に都合が良い国を作れると目論んでいた。

その為には証拠を手に入れると同時に、聖女を自分達の仲間に入れる必要がある為、もう一度聖女が力を振るう機会が必要だと考える。

それは魔族との戦争だった。魔王が居ない今、魔族の勢力は王国の戦力だけでもなんとかなる上に、魔族を相手にするならば隣国も力を貸すだろうと考えていた。

その為にまず、国王の評判をもっと下げる必要もあるので、ソーマを利用しようと目論む。


魔族の領地にて、傷の手当を受けるジャンクはミレーヌからあの国で国家転覆を目論む集団がおり、その集団は魔族との戦争をもう一度起こそうとしていると伝える。もし、そんな事がおこれば魔族は今度こそ滅びる事になるだろうと予想していた。

魔族を守る為には、人間達と手を結ぶ事も手段だと考えたミレーヌは、古き魔族達を説得する為に力を使い、説得に応じた魔族達も徐々に増えていると言う。

ジャンクは人間に尻尾を振る事で、魔族は納得しているのかと尋ねるが、ミレーヌは古き時代が終わり、新しい時代が来る。その為には魔族は敗者としての歴史を、必要な歴史にしなければならないと言う。

人と手を結ぶ時代を選ぶミレーヌに、ジャンクは自分の身だけが大事な国王とは大違いだと言うが、ミレーヌは国王は皆が思っている程、愚かではないと言う。


国家転覆を狙う者達から、ソーマは国王が暗殺に利用したジャンクの存在を知る。ジャンクが転生者殺しである事を知らない者達は、彼の経歴をでっちあげ、彼が魔族に加担する人間であるとソーマに伝える。

ソーマは与えられた情報を元に、国王を糾弾する記事を書き上げる。その内容には国の上層部の者達も事実だと、新聞が出てから宣言するという手筈だった。すぐにでも記事を出したいソーマだったが、準備が整い、最善の時期に出すからこそ、この記事には力が生まれるのだとソーマに伝え、それまでは別の記事で国王を糾弾してほしいと依頼される。

ソーマの記事は国民に読まれ、国民の反国王のムードは徐々に高まっていった。


ゲインはミレーヌに国の中で国王を糾弾するムードが高まっている事を伝える。

ミレーヌはこのままでは反国王派によって、戦争が起こる可能性が高まっている事に危惧する。そこでジャンクはミレーヌはこの記事を書いている記者を黙らせるべきではないかと提案するが、ミレーヌはそれをすれば反国王派に利用され、火に油を注ぐ事になるだろうと言う。

隣国では、エリスが隣国の王と会談していた。人と魔族が共に歩める世界を作る為に手を貸して欲しいという願いに、隣国の王は可能であれば力を貸そうと約束する。同時に、エリスへ貴女の国で起っている反国王の動きについて教えられ、要らぬ争いが起らない様に自分が動くべきだと思い、王国へと向かおうとする。

エリスが去った後、隣国の王は反国王派に向けて、聖女が向かったという事を伝え、自分も魔族を滅ぼす事に協力すると伝える。


ソーマは反国王派の協力により、王国に戻ろうとするエリスに接触する。そこでソーマはエリスに新たな王となり、魔族を今度こそ滅ぼす英雄になって欲しいと言う。

エリスは自分は魔族と共に生きる世界を作る為に行動するので、そんな事はしないと言うと、ソーマは自分が親を殺されたのに、奴らが殺されないのは納得が出来ない。この想いを持っているのは大勢いる。その人々に向かって同じことを言うのかと叫ぶ。

エリスはそれでは呪いの連鎖を生むだけで、何処かで誰かが連鎖を止めなければならない。そうでなければ、ソーマと同じ事を想う魔族が同じ事をするだろう。貴方と同じ悲劇を繰り返す事を望むのかと反論する。

ソーマはエリスの言葉に激怒し、お前は魔族を滅ぼす英雄になれば、自分と同じ思いをする者が居なくなる。その覚悟がないお前は聖女ではないと叫ぶ。


人の魔族がぶつかれば、新しい悲劇が生まれる事になるだろうと危惧するエリス。バラッドはエリスに貴女が新しい王となれば、それも回避できるのではないかと提案する。エリスにその気がなくとも、そうする事で救われる命がきっとあるのだと説得する。

エリスは自分は王にはならない。何故ならば、自分はこの異能によって死なない体を持っているからだと言う。不老不死に近い存在であり、そんな者が王になれば国は自分を神聖化し、そこから別の争いが生まれてしまう。自分が王になるという事は、未来に起こる戦争の種を植える事になってしまう。だから、王となるべき者は、それを回避できる者であり、自分にはその才能はきっとないだろうと言う。

バラッドは優しい王は人を幸福にするはずだと言うが、エリスは頑なに拒否する。

エリスが寝静まった後、バラッドは、自分が重要な事を忘れていたことを思い出す。それは彼女が転生者であり、彼女が生きている限り、世界の均衡は徐々に失われ、いずれは滅びるという事実。

不老不死という事ならば、エリスは死ぬ事はなく、世界はずっと破滅の脅威となり続ける。彼女の言う未来に起こる戦争の種は、エリスがこの世界に転生した瞬間に植えられていた。


ソーマの記事は反国王派の意思違反して、聖女すらも糾弾する内容になっていた。

聖女が魔族との共存を望む事に対して世論は真っ二つに割れた。魔族は滅ぼすべきという者と聖女が望むならばそうするべきだという者が意見をぶつけるだけでなく、乱闘騒ぎも起き出した。

国王だけに向けられた悪意が、徐々に変化し、国の在り方すらも歪めていった。

ミレーヌは人々がどうして一人の記者の記事だけでこんなにもおかしくなっているのかと疑問を抱く。例え、反国王派が裏で糸を引いているとはいえ、この状況はあまりにもおかしかった。

その疑問にジャンクが答えた。

転生者は世界の均衡を崩す。それは転生者本人が起こすだけでなく、転生者に関係する誰かにもその影響を及ぼす。ソーマが書いた記事は、単なる記事であるが、悪神の力によって均衡を崩す力が作用し、人々の心を歪ませていると。

だから、自分はエリスを殺さねばならない。これ以上、この世界を崩壊へと進ませない為にと。


ソーマは自分の記事で周囲がどんどんおかしくなっている事に気づいた。同時に、勝手な記事を書いた事で反王国派にも命を狙われる事になった。殺される寸前、ソーマはジャンクに命を救われた。そして、聖女がどんな存在なのかを教えられ、一緒に国王の下に行くかと誘われる。

国王は城でミレーヌと会っていた。そこにソーマとジャンクも合流し、ソーマは国王が魔族と密会している事を糾弾する。

ミレーヌは自分はこの戦争を止める為に来たと言うが、ソーマはその言葉を信じようとはしない。そして国王には自分の愚かな行為で、今まで国民がどれだけ不幸な目にあっていたのかを知らないだろうと言う。

聖女が王となれば人々はより良い道に進み、誰もが幸福になるだろう。その為にはお前の存在は邪魔になる。だから、今すぐに国王の座を降りろと言う。

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