物語編その3

ソーマの言葉に、国王は反論する。

自分が今まで国民の為にどれだけ努力してきたのか。自分は誰もが言うように良い王ではなく、多くの国民に苦しい想いをさせてきた。だが、それでも何とか国が国としてある為に心血を注ぎ、今の王国を守ってきた。

仮に聖女が王になれば、国民はきっと喜ぶだろう。だが、あの優しすぎる聖女は本当に国を守る事が出来るのか。人々を幸せにする事が出来るのか。優しいだけでは国は成り立たない。時には何かを切り捨てる覚悟を持たなければならない。それが聖女に出来るとは思えないと。

王の言葉にミレーヌも同じ意見だと言う。

ミレーヌは魔王が死んだことで魔族の主となったが、その立場になったからこそ、王としての辛さと、自身の力不足を実感した。そして、その時になってこの王国が存在し続ける理由を知った。

魔王に蹂躙され、国土の多くを失い、何時滅んでもおかしくない状況だった。だというのに、この国は魔王の蹂躙に耐え、人が人として生活出来る場所を守り、国としての形を保ち続けた。美しくなくとも、国は人がいるからこそ国であり、その人々を守ったのは、国民が愚王と侮った存在であり、尊敬に値する存在であると。

国王は、もしも自分よりも優れた者が王となるならば、自分は喜んで王座を譲る。だが、凡人である自分でも民を守れない者とわかる者を王には出来ないと言う。

国王とミレーヌの言葉を聞き、ソーマは自分が新聞記者だというのに、自分が見たい事だけを記事にして、本当に見るべき事を見失っていたと知る。

国王はソーマに、自分にもう少しだけ時間をくれないかと言う。自分には息子がおり、その息子は王となるべき才があり、きっと良い王になる。だから、息子が新しい王になるまで、自分が王である事を許して欲しい。それを許してくれるならば、自分は人々を幸福には出来ないが、人々が生きられる場所を守ると。


国王はミレーヌに息子にあって欲しいと言う。

ミレーヌは王子と会い、自分が魔族の王である事を伝える。王子はミレーヌに父を殺しに来たのかと尋ねると、ミレーヌは君と友達になりに来たと伝える。ミレーヌは王子に君が王になった時に魔族の存在が人の隣に立つ事が許されるように、努力するから友達になってくれないかと尋ねる。

その光景を見ていたソーマは、国王に自分はこれから自分の目で見た事を正直に記事を書く。国王が愚かな行いをすれば、はっきりと糾弾する記事を書く。反対に正しい行いをしたと思えば、それなりに好意的な記事を書く。だから、自分にそれを行うチャンをくれと懇願する。

国王はそれが記者の務めたと言い、ミレーヌと王子が握手する光景を二人で見る。


反国王派は、隣国と協力して聖女を捕えようと目論む。

王国に戻ろうとしている聖女を反国王派と隣国の軍隊が挟み撃ちする作戦だった。クリフという最強の騎士が居るとはいえ、数の暴力をもってすれば可能であると計算し、二つの軍隊は動き出す。

廃墟となった街で野宿していたエリス達を、軍隊が囲む。

だが、隣国の軍隊の背後から魔族が襲い掛かる。また、反国王派の軍隊には国王の軍隊が挟み撃ちの形で急襲する。

突如として戦場とかした廃墟の街で、クリフはエリスを守る為に奮闘する。バラッドもエリスを連れて、その場から逃げようとするが、激しい戦闘の為にそれが出来ない。

そこにジャンクが現れ、エリスに銃口を向ける。


エリスを殺そうとするジャンクの前にバラッドが立つ。

バラッドはジャンクに、どうにかエリスを殺さずに世界を救う事は出来ないかと尋ねるが、ジャンクはそんな事は出来ないと一蹴する。

バラッドはエリスは何の罪も犯していない。人々の為に力を使い、多くの人々を救って来た。その結末が殺される事になるのはあまりにも惨いと言う。その言葉を聞いたエリスは、自分がどんな存在なのかを知る事になり、茫然とする。

ジャンクはエリスに、彼女がこのまま生きれば世界は滅ぼす事になると伝え、大人しく殺されてくれないかと提案する。それでもバラッドはジャンクを止めようと説得するが、ジャンクはこれが自分の仕事なのだと言い、エリスを殺そうとする。

だが、そこにクリフが現れ、二人は戦闘になる。


二度目のクリフとの戦闘。

前回同様、クリフの剣技の前に劣勢になるジャンク。しかし、予め此処が戦場になると予想していたジャンクは、廃墟に設置した様々な罠を使用する事でクリフを翻弄し、劣勢を覆す。

クリフは自分は魔王との闘いで死んたエルフに、エリスを必ず守ると約束していた。それは愛する者の最後の願いでもあった。故にこんな所で負けるわけにはいかない。此処で役目を果たせず死ねば、愛した女に満足して会う事が出来ないと叫ぶ。

ジャンクの罠を搔い潜り、彼に必殺の一撃を放とうとした瞬間、軍団同士の戦闘が廃墟にまで及び、二人を巻き込んで激しい戦いを始める。

ゲインも乱戦に現れ、ジャンクに使命を果たせと言ってクリフと敵対する。ジャンクはゲインにクリフの相手を任せ、エリスの下へと向かう。


エリスは戦場を見ながら、自分の半生を思い出す。

かつて、自分はこの世界とは別の場所で生まれ、そこで不慮の事故に遭い、この世界に転生した。そこでは魔王によって多くの人々が苦しみ、助けを求めていた。最初は自分には何も出来ない。何もしたくないと思っていたが、この癒しの力が発現した事で、自分の成すべき事に気づいた。

多くの出会いと別れを繰り返し、仲間の犠牲により魔王を討伐する事に成功し、これからは世界がより良いものになるように努力する事に決めた。

だが、現実は自分のせいで多くの命が失われる事になり、今もこうして人と魔族が争っている。更には転生者の自分はいずれを世界を滅ぼす事になると聞けば、最初から全部が嘘ばかりで、自分の意思など一つもなかったのではないかと疑問を抱く。

ならば、きっと自分は害悪で、このまま生きてはいけないと悟る。

死を受け入れたエリスに、バラッドは自分は死神だが、人に寄り添う事で罰を受けた。しかし、それは後悔するような事ではない。自分にできる事を精一杯やった結果ならば、後悔などしない。それをする事は、自分が寄り添った人の幸福を否定する事になってしまうからだ。だから、自分の命を無碍に扱うような事はしないで欲しい。エリスを想い、生きて欲しいと願う人の為に、生きて欲しいと。

エリスを説得するバラッドの前に、ジャンクが現れる。

ジャンクはエリスに、転生者は悪神によってこの世界に転生してきたが、転生者の意思は悪神とは関係がない。この世界を救おうとした願いは、エリス本人のものであり、エリスの功績は誇って良いものだ。だからこそ、多くの人がエリスを愛している間に終わりにするべきだと。

エリスはジャンクに、自分はこの世界を破壊する害悪ではないのかと尋ねる。

ジャンクはエリスに、殺すには勿体くらいに素晴らしい聖女だと言う。

ジャンクの銃弾はエリスの心臓に打ち込まれ、エリスは絶命する。


国王と魔族の軍団が勝利し、戦いは終わった。

クリフは亡骸となったエリスの前で膝をつき、約束を守れなかった事に後悔しながら、自分の喉元に剣を突き立てようとする。その剣を止めたのはバラッドであり、そんな事はエリスは望んでいないと言う。

クリフはバラッドにお前達が来なければ、エリスは死ななかったと叫び、バラッドに剣を向けが、彼女を守る様にジャンクが間に入り、決着を付けようと提案する。

クリフの剣がジャンクの体に突き刺さり、その剣を押さえつけたジャンクがクリフに銃弾を撃ち込む。銃弾はクリフの片腕を吹き飛ばす。

殺せとクリフは言うが、ジャンクはそれは自分の仕事ではないと言い、姿を消す。


とある異世界、現代日本に似た世界の病院で赤ん坊が生まれた。

その赤ん坊を遠くから見守るバラッドは、ジャンクにどうして自分を庇い、裏切った事を許したのかと尋ねる。

ジャンクは裏切りは慣れっこであり、自分の前の相棒だった死神も同じことをした事を伝える。死神は魂を運ぶだけの存在ではあるが、神は道具程度しか考えていないせいで、死神の自我を軽く見ている。だから、バラッドが自分の邪魔をするのは想定内であり、新しい相棒を探すのも面倒だと言う。

そこでバラッドは自分を選んだのはジャンクであることを知り、どうしてそんな事をするのかと尋ねると、ジャンクは転生者の魂を運ぶのは、魂の重さをきちんと理解している者でなければならない。そういう者でなければ、この仕事は唯の流れ作業になってしまい、他の神々と同じになってしまうと。

元気に生まれた赤ん坊を見ながら、バラッドはジャンクにこの仕事をしなければ、母親に会えるのではないかと尋ねる。ジャンクは母親である悪神のした事は許されない事であり、息子である自分がその尻ぬぐいをするのは当然の事だと言う。

バラッドは、それは母親を愛しているから、と尋ねる。

ジャンクは、そういう奴が一人くらいは居ても罰は当たらないだろうと答える。


エピローグ

ある新聞記者が世界を歩き回っていた。

その新聞記者の書いた記事は人の側、魔族の側の両方の目線で書かれていた。

良い事も書けば、悪い事も書く。

記事には国王が王子に王位を譲った事。

魔族の王が新たな王を祝っていた事。

その事を批難する人々の声と、それを新しい時代が来たと歓迎する声があった事。

人と魔族の小競り合いが僅かながら起こっている事。

その小競り合いを仲裁する片腕の騎士がいる事。

聖女の事は、思い出としか書かなかった。



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