6. 設定を決めよう(6)




場所は相変わらずあなたの部屋。

ビキニアーマーを着てあなたのワイシャツを羽織った美少女があなたの椅子に座っている。

あなたはなんとなく床のクッションの上で正座している。


あなたは言う。「異世界から召喚するだけして、帰し方を知らないなんてひどくないか?」


美少女,メイは答える。「逆の立場で考えてみなさいよ。この世が終わるかもしれない、っていうときに救世主を呼ぶことができる魔法があったら、とりあえず呼んでみない?呼んだあとその救世主が帰れるかどうかなんて考えないよね。世界が滅んだら終わりなんだから。」

まあたしかにそうだ。


ちなみに地球に来ている「正義の味方」の超人たちは、勤務中に地球に寄り道して、そのままなんとなく地球に居着いてしまった感じだ。そのうち本国の上司から「そろそろ遊んでないで帰れやボケ!」と言われて仕方なく帰る、というのがそれっぽい。


その際、自分で帰る手段を持っているもんね。また、帰れなくなって居つくのもなんとなくありがちパターンだし。


「まあ、それならそれで、帰り方を探す、というのも一つの目的になるのかな。」とあなた。


「わかっているじゃない。魔王に聞けばわかる、とか魔王を倒すと帰れる、なんてのがよくあるパターンね。ちなみに戻ると時間経過はあまりない、というほうが普通よ。途中で死んじゃった人については最初から無かったことにするケースも多いけど、まああなたの場合ぼっち転移だから関係ないよね。」


地味にぐさっと来るがとりあえず平静な顔であなたは続ける。

「戻ったら超能力や異能力はどうなるの?」


「魔法が今の地球で使えるわけないでしょ!と言いたいところだけどそれも設定しだいなんだよね。」

なんだかよくわからないけど、魔法は使えないってことか。


「まあ、普通は地球には魔素とかマナが無いから魔法が使えない、という整理するんだけどね。あくまで異世界補正なんだから地球じゃ使えないよ。ま、宝石くらい持ち帰ってもいいかもね。換金したら泥棒で捕まるかもしれないけど。」


「じゃあ、異世界転移したって意味ないよね。」あなたは言う。

「そんなことないよ。素敵な夢を見たと思えばいいんだから。戻ったら現実。狭く散らかった部屋。仕事も学校もいかず部屋で過ごす。そのうち家族に見捨てられて路頭に迷い、キレて人に襲いかかり逮捕されて刑務所へ。そして刑務所の同室の殺人犯にいじめられて…」

お願い。もうやめて。

「あ、これそのまま小説になるじゃない。タイトルはそうねえ。『異世界転移から戻ったヒキニートの俺が刑務所で殺人犯にオカマを掘られる件』

いいんじゃない。怖くて強い殺人犯と、小心者でゴマすりがうまい小物のスリ。そして無意味にイケメンの看守とともにドロドロの四角関係に…」


それ絶対路線が違う。だいたい男しか出てこないだろ。

「大丈夫。丈夫で素敵な『やおい穴』を設定してあげるから。」


何その単語。知らないけどどう考えても、ろくなもんじゃなさそうだ。


「あなたすぐ脱線するんだから。脱○じゃなくて…」そこ、何が入っても駄目なやつだよね、きっと。

「まあそれはともかく、設定は大事よ。当たり前だけど。」メイは言う。

「で、結局主人公のあなたはどんなチート能力を持つのかな。とりあえずリアル世界で、人にはなかなか負けない、秀でた能力はなに?足が速いとか高飛びできるとか歌がうまいとかダンスが得意とか県道や柔道の有段者とか…」


「そんなもん、あるわけないだろ。」

現実を見てあなたはぶっきらぼうに言う。


「何も取り柄ないの?本当に? まったく?要するにあなたは食って寝て出すだけの糞袋ってこと?何をやっても駄目なの?ダメすぎならそれはそれで異能力だけど…」


そこまで言われて考える。


あなたは小さい頃から賞状とは表彰には縁がない。最下位にはならないけど優勝もできない。中の下、くらいというところだろう。


「駄目すぎでもないけど良くもない。しいて言えばじゃんけんに強いことと金魚すくいくらいかな。」あなたはやけになって答える。


「じゃんけんに強い?いいじゃない! 金魚すくい!素晴らしい!めぞん一刻の五代くんくらいの戦力じゃないの!それで行こう!」メイが妙に反応する。


「え、じゃんけんや金魚すくいじゃ魔王は倒せないよねえ。」あなたは驚く。

「そこを何とかするのが今のライトノベルよ!これで設定もある程度出来上がりね。

じゃあ、大体のプロットを作ろうよ。」


メイはちょっとはしゃいでいる。青い髪の毛がゆらゆらと揺れる。

前あきのワイシャツから見える革のビキニアーマーがなまめかしい。


これで胸がもっとあれば、などとあなたは考える。

いやいや、そんなことより、こんな設定でいいのかな。


じゃんけん?もう少し何かないのかなあ。普通に、魔法が他の人よりも上達が早いとか威力が大きいなんてのでいいんじゃないの? あとは、剣術が上達するとか。


まあ、僕の運動神経のなさでは、異世界転移したところで少なくとも剣術が上達するってイメージはないよな。 魔法は使えるかも、だって僕は今まで童貞だし…


と、あなたは情けないことを考える。


でも、やっぱりじゃんけんと金魚すくいで魔王を倒すの?絶対無理だよね~~。

あなたは頭をかかえる。












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異世界小説メーカー:誰でも書ける異世界小説  異世界小説を書きたい人、これを読めば、サルでもナメクジでも美少女でも異世界小説を書ける! 愛田 猛 @takaida1

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