5.設定を決めよう(5)




場所は相変わらずあなたの部屋。

青いロングヘアの美少女が椅子に座っている。彼女は革のビキニアーマーを着て、あなたのワイシャツを羽織っている。そういえば、「部屋とワイシャツと私」とかいう歌もあったな、とあなたは思う。

ついでに言えば、「部屋とワイセツと私」という…げふんげふん。


「下手な冗談はやめてね。場の空気が悪くなるから。」メイは冷たい目であなたを見る。

「え?メイがそれを言う?つまんない冗談言ったのはメイだよね。」


「あなたのような下郎と話しているとなんだか心まで穢れてくる感じね。困ったものね。」

そこまで言われなければならないだろうか?


「とにかくね、登場人物のキャラクター設定しないとね。」メイは言う。

「え?ぼくと姫と王様がいればいいんじゃないの?」


「アンタ、バカあ?」どこかで聞いたようなセリフだ。


「物語にはとりあえず魅力的な登場人物が必要なの。そんなのいねえよ、なんてキャラでも異世界なんだから許される。で、魅力的で、文章の書き分けも、イラストの描き分けもやりやすいいようにしてね。」


「まあ、そのほうがよさそうだね。絵師さんに頼むのもよさそうだ。」

メイは続ける。「とりあえずラノベなんだから、かわいい女の子がたくさん出てくるのは必須ね。」

まあそうだろうな。原作では女の子あまり出てこないのに、コミカライズのときに女性キャラが増えて、激情版じゃなかった劇場版のころは「この人だれ~」状態にもなりがちだらからね。



メイは続ける。「それからアニメ化を考えると、サービスシーンを最初のほうに持ってくることが重要よ。アニメの場合、初回冒頭二分以内に主人公がヒロインのパンツを見るか、ラッキースケベで胸を触る、というようなイベントがないと、第一回で見るのやめちゃう下郎も多いらしいから。」

なんだそれは。あなたは驚く。


「まあ、サービスシーンなしで進めて、アニメ化のオリジナルストーリーでラッキースケベもいいかっもね。」なるほど。でも、アニメでストーリーが変わるより、最初からしっかりサービスシーンもあったほうがいいかもなあ。姫が転んでパンツが見えるとかね。


きゃーって叫んで、姫の悲鳴、なんつて。


あなたが内心しょうもないことを考えていると、ジト目でメイが睨む。

「オヤジギャグはやめてね。虫唾が走るわ。ちなみに、虫酸って書くことも多いけどね。」

なんだか勉強になるようなならないような。



「異世界なんだから、人間以外を入れるのも王道よ。」メイは続ける。

「人間以外?犬とかサルとかキジとか?」

「あんた本気?」メイが冷たい目で見る。


「異世界の定番といえば、エルフと獣人ね。」

ああ。前に僕自身も思ったことだ。獣人、というかケモミミだよね。あと尻尾か。


メイの説明に力がはいる。

「エルフは細身で長い耳。森に住んでて魔術と弓矢が得意。おおくの場合、貧乳。獣人はケモミミとしっぽが魅力的。ドワーフはイメージがヒゲ男っぽいから好き好きね。ほかにもドラゴニュートとかもあるよ。ドラゴニュートってのはドラゴンの人間化したものだと思って。」

いろいろあるんだね。


「あとは身分でいえば姫と貴族の娘、騎士見習いとメイドと奴隷、ってところかな。流浪の女剣士もいいかもね。主人公に負けてハーレム入りするような。」なんか迷っちゃうな~よりどりみどりだ。


「必要なら異世界からの転移者もからめる。まあ転移者はパーティに入れないほうがあとからドラマが作りやすいけどね」

ふーん。そんなものなのかな。赤の他人の異国人たちが協力するのも面白そうだけどねえ。


「この辺をうまくミックスすればハーレムパーティ一丁上がり。みんなの能力を攻撃魔法、剣術、補助魔法、索敵と罠解除とかに分けておけば役割分担もできるし。これであなたがみんなの気持ちに気づかなければ鈍感系ご主人様の出来上がりだね。」



なるほど。なんだか何とかなりそうだ。

「あなたを含む登場人物にそれぞれ得意技とか設定する必要がある。魔法にしても、どんな魔法があるかを設定しないといけないし、ゲームっぽくするならレベルとスキルの説明とかもあったほうがいいし、ポイントを細かく設定するならHP,MPだけでなくていろいろ設定したほうがいいかもね。STRとかAGIとかね。」

「あの…あまりゲームやらないから、よくわからないんだけど。魔法にしても覚えただけじゃだめなのかな?」

「魔法だって設定必要よ。火、水、土、風あたりがとりあえず基本だけど、木魔法とか氷魔法、雷魔法とかを設定したり、光魔法闇魔法なんかを入れることもある。テーミングとか錬金術も魔法のうちに入れることもあるし、生活魔法を別に設定するのもよくあるよ。」

ええええ?そんなにたくさん設定を?

あなたは戸惑う。RPGとかやっていないので、まったくぴんと来ないのだ。

「魔法の定義なんて適当でいいよ。僕がほしくなったら能力が手に入るってのがいいんじゃないの?」

手をぬくあなた。

「でも、敵も魔法を使うんだよ。あなたが知らない魔法だって使うかもしれない。」

「そこは、なんだっけ?異世界補正?相手は僕の知っている魔法しか使えないようにすればいいんじゃないの?」

「何それ?ありえないでしょ。」

メイは驚いて言う。

「でも、ゲームで弱いころは相手も弱いのしか出てこないってのと同じでしょ。そういう物語にすればいいんだよ。」あなたは開き直る。


「そういうのだと成長物語になるから、むしろ転生ものなんだけどね…」メイは頭をかかえる。

「だって、何するかわからないんだもの。」

「だから、仲間を集めて魔王と戦えるようにすればいいのよ。そうしたらあなたは日本に帰ってニートに戻れる。」


「…戻んなくてもいいかな…」


「まあ、心変わりは十分アリだけどね。それに、実は召喚した人間が戻し方を知らないことも多いんだよ。それも相手側の隠し事の一つになるね。」

え?無責任じゃない? 勝手に呼んでおいて。まあ次元を超えてなんてそう簡単にはできないかもしれないけどさあ。


「魔王を退治したら、帰りかたがわかるはずだけど、召喚者は返し方を知らない、という迷惑な状況も多いんだよね。」


何だそれは。ちょっとひどいな。絶対呼ばれたくないもんだ。まあ、苦労しないで楽しくすごせるだけならいいけどねえ…魔王倒すなんて、逆に殺されたらやだし。







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