第4話 涙
・・・一体何分経過したんだろうか?
およそ、体感で5分くらいの間、彼女は変わらず、真顔でそれを見つめたままでいた。
そんなに、僕が男ということが信じられないのだろうか?
「・・・ねぇ」
「は、はい!!」
「・・・本当に男なの?」
「そ、そうだよ
流石に生徒手帳を偽装するなんてことは出来ないよ」
「・・・そう」
やっと、アクションを起こしてくれた!
そう、僕が見せたのは生徒手帳。もし、違う高校の人だったら、これもコスプレのアイテムと思われたかもしれないけれど、この人は同じ高校の人なので、流石にこれが本物だとわかるはずだと思って、これを見せてみたのだ。
取り敢えず、誤解が解けたみたいで、よかった・・・
ただ、彼女はひどく落胆した様子だったけど・・・
さっきまで、動転していた僕は、今彼女との距離が近いことに気づいて、生徒手帳を懐にしまいながら、後ろに下がって、彼女から離れた。
さっきの返答から、彼女はうつむいた状態になって、また動かなくなってしまった・・・
うーん、ここは声を掛けるべきなのかもしれないけれども、あいにく僕は対人スキルが高くないので、この状況での正解がなんなのか、分からない・・・
僕はこの状況をどうしようか考えていると、おもむろに彼女はため息を吐いた。
「・・・はぁ、そっか~
男なんだ~」
「う、うん、僕は男だよ」
「じゃあ、さっきのは私の勘違いか~」
「か、勘違いって?」
そういえば、彼女はどうして、突然ドアを開けたのだろうか・・・?
「うん?
ああ、ごめんね?
さっき、通路を通っていた時に、あの流行りの曲が聞こえてきて、おお誰かがこれから歌うんだなぁ~って、その時はそのまま通り過ぎようとしたんだけど、歌声が聴こえた瞬間に凄く綺麗で、感動したから、誰が歌っているんだろうって、気になって思わず、ドアを開けたんだけれども・・・」
「な、なるほど」
彼女は、見た目によらず、かなりの、行動派でお転婆な性格の持ち主らしい・・・
けど待って、僕の声が廊下まで、届いていたの!?
確かに、時々廊下を歩いているときに、ほかの人の歌声が響いているのを聞いたことはあったのだけれども、まさか、僕の声も響いていたなんて!?
僕はそのことに羞恥心で震えていると、彼女は落胆した様子で、声を出した。
「はぁあ、折角、理想の声に出会えたと思えたのになぁ」
「あ、あの」
理想の声ってなんだろう?
「でも、流石にあの歌声は男の声じゃなかったからなぁ・・・」
「え、えっと」
多分、僕で、あってると思います。
「私たちの夢に一歩近づけるかなって思ったけど、そんなに甘くはないかぁ
あ~、本当にごめんね?
邪魔しちゃったよね?
もう戻るから、安心して?・・・あ、あれ?」
「・・・・!!」
僕はいきなりのことに驚いてしまった。
なぜなら、彼女は落胆した様子ながらも、笑顔で、こちらに話しかけていたのに、突然涙を流し始めたのだから
・・・彼女は多分いい人など思う。こんな僕に対しても、笑顔で対応してくれているのだから。でも、もう、彼女は戻ると言っていたから、これでこの妙な状態も終わる。
「・・・じゃあね」
そう言って、笑顔で涙を流してお別れを告げた彼女は、トボトボとドアの方に向かっていく
・・・僕は彼女の事情を知らない。でも、僕はこのまま何もしないままでいいのだろうか?僕と彼女は初対面だ。僕が何かしたところで、きっと彼女は困惑してしまうだろう。それでも涙を流している彼女のことを僕は何故かずっと気になってしまっており、思わず、僕は彼女に向かって大声で叫んでしまった。
「待って!!」
ビクッとして、足を止めて奇怪そうにこちらを見つめてくる彼女。
彼女がこちらを向いている内に言わないと!!
「僕なんだよ」
「え、なにが?」
言葉足らずだったんだろう、僕の言ったことを、いまいち把握しきれていない様子の彼女
やばい、完全に僕の言葉足らずだ、ちゃんともう一度言わないと!!
「あの、曲を歌っていたのは僕なんだよ!!」
思わず、目を瞑ってしまったけど、よし、今度はちゃんと言えた!!
今まで、知らない人と、そこまで話したことがないので、いまいち話し方が分からなかったけど、多分これで僕が言いたいことが伝わったはず。
僕はそのことに思わず、胸に手を当てて安堵する。
・・・あれ、彼女から何も反応がないな・・・
僕は恐る恐る、目を開けてみる。
そこには、さっきまでの流していた涙が引いており、笑顔だった顔は不機嫌全開な表情をしている彼女の姿が・・・
「・・・は?」
そして、不機嫌そうにそう呟いたのだった。
・・・あれ、これ僕間違えたのかな・・・?
僕と彼女の青春革命〜音楽が繋ぐ一つの軌跡〜 アイア @aiamaru
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