第217話 リムルの破滅

 私は独房に戻された後、地面が揺れるような音がした。

 ついに民衆の不満が爆発したのね。監獄の周りには、多くの民衆がクルムの横暴に不満を表明して、抗議していた。


 魔力の爆発音が聞こえる。おそらく、民衆側には貴族もいて魔力による援護をしているのだろう。


「大変なことになってしまったわね」

 本来なら流される必要がない血が流れてしまっている。


『ルーナ宰相閣下をお救いしろ!』

『王族の横暴を許すな』


 今回の件で、王政は危機に瀕するだろう。すでに国民の大部分が王政には拒否感を持っているはずだ。


 つまり、この暴動は革命への序曲。

 ここから脱出できても、かなり難しい舵取りになるわ。私たちの使命は、この流血をできる限り早く収束させて、王子たちを公正な裁判の場で裁くことになる。


 はっきり言えば、旧体制派には勝てる見込みはほとんどない。

 私たち改革派が負けるはずはない。だから、革命の後のことを考えて始めなくてはいけないわ。


 でも、私が生存している確率はそこまで多くはないんだけどね。


 だって、そうでしょう。自暴自棄になったリムルあたりが暴走するのが定跡。

 

 そして、あの男はやってきた。


「ルーナ=グレイシア。一緒に来てもらおうか。お前を人質にして逃げさせてもらうぞ」

 獣のようになったリムルが私の獄中にやってきた。

 やはりそうね。裏で人間を操り、悪逆非道の限りをつくした男は最後の抵抗を続けようとしている。


 抵抗すれば殺すとばかりにサーベルを抜いて、丸腰の私に脅しをかける。


「拒否すれば?」


「お前をここで殺す!!」


「殺してしまえば、あなたは逃げることはできなくなる。それでもいいの?」


「お前を道連れにできるなら本望だ」


「なら、やりなさい。それがあなたのやり方なのだから……」

 もうこれ以上、こいつらに何かやらせたくはない。仮に私がここで死んでも、蒔かれた種は確実に花を開く。私の意思は受け継がれる。そう確信しているからこそ、私は覚悟を持って動くことができる。


「おのれ、これ以上馬鹿にするな!!」

 サーベルは私に向かって、振り下ろされた。


 ごめんね、みんな。どうやらここまでみたい。

 でも、みんながいるからここまで来ることができたわ。本当にありがとう。


 覚悟を固めてばかりね。王子に追放されたとき。選挙での暗殺未遂のとき。海賊騒動。

 でも、心の中ではアレンが来てくれるかもと甘える自分がいる。


 駄目ね、自分の身は自分で守らないといけないのに。

 なら少しだけ悪あがきをしてみようかしら。


 喧嘩なんてしたことないけど、貴族の学校では護身術くらいは勉強したもの。


 迷いと怒りによって、彼の一刀はボロボロだった。私は体を全力で反らせて、剣をかわす。そして、床に落ちているレンガの破片を握って、彼の頭を強打する。


「ぎゃああああぁぁぁぁあああああああ」


 まさか、反撃されるとは思っていなかったのだろう。彼は無防備にレンガの一撃が直撃し、絶叫した。


「いつまでも、守ってもらってばかりのお姫様ではいられないのよ」


「このアマがァ」

 怒りくるったリムルは、剣をでたらめに振り回しながら突撃してくる。


「さすがは、我が婚約者のルーナだ。肝がすわっている」

 窓のほうから彼の声が聞こえた。

 私とリムルはそちらのほうを直視する。


「ばかな、ここは3階だぞ。アレンがいるわけな……」


「伏せろ、ルーナっ!!」


 私は愛しい人の声に従って身を伏せた。


「ぎゃああああああああ」

 2度目の絶叫が獄中にはとどろく。

 アレンの強力な攻撃魔力がリムルを襲ったのだ。


「痛い、嘘だ。苦しい、俺は大臣で貴族だぞ。なんでこんなことに……」

 ダメージによってふらついていたリムルは、アレンの攻撃で開いた穴から中庭に落下していく。


『おい、男が落ちてきたぞ。すごいケガだが真下にあった樹木がクッションになってなんとか生きている感じだ』

『こいつ、リムルじゃないか!』

『アレン将軍がやっつけたんだ!』

『死なないように痛めつけて拘束するんだ』

『こいつは重要な証人だぞ。なにせ、悪名高い内務省の情報局長だ。クルムの不正の証拠も確実に握っている』


 群衆はリムルに群がり、彼を拘束した。


「やめてくれよ。もう殴らないでくれ。命だけは、命だけは助けてくれ。何でも話す。金なら払う。頼む、やめてくれええええぇぇぇぇえええええ」


 その光景を見た後でアレンはゆっくりとうなずいた。


「無事か、ルーナ! 助けに来たぞ」


「アレン……」

 私たちはお互いに駆け寄り、そしてキスをした。


 アレンがここにいるということは、残るは王子だけ。

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