第216話 コルテス子爵の破滅
「宰相閣下をお守りしろ!!」
近侍はそう叫ぶが、人間の盾になる兵士はほとんどいなかった。
「おい、どうした! 私は、イブール王国宰相だぞ」
だが、兵士たちは私を守らない。
「閣下、こうなれば私が……ぐぬっ」
そう言った瞬間、近侍の頭には矢が突き刺さった。
近侍は無言で、崩れ落ちていく。
「おい、大丈夫か!!」
だが、近侍は無言で動かない。急所に矢が刺さっている。どう考えても即死だ。
これで私を守る兵はいなくなった。
周囲の馬は吹き飛ばされている。徒歩で逃げるしかないのか。
『敵だ。ここはもうだめだ。みんな逃げるか降伏しろ!』
味方の絶望の声が聞こえる。
陣内には騎兵の姿が見える。味方はもう戦う気配すらなかった。
「コルテス子爵。探しましたぞ」
近くまで迫った騎兵はかぶとを脱ぐ。
「まさか、反乱軍の大将が直接来るとは……アレンあたりが来ると思っていたよ」
そこには今回の挙兵の中心人物がいた。
イブール王国軍地方軍総監シッド大将。
反乱軍の実働部隊の中心人物だ。精神的な支柱がルーナ=グレイシアだとすれば、こいつが本物の頭。前宰相・フリオ前財務大臣・そのほかの自由党最高幹部を全員拘束している以上、こいつを倒せば賊軍は崩壊する。
やるしかない。これでも一応、軍人だ。
「ほう、剣を抜きますか! さすがは、軍務次官だ。ならばこちらもやらせていただく。剣を抜いた以上は、覚悟はできているのでしょう?」
「当たり前だ。お前はここで死ぬ」
剣を抜いて突撃した。大丈夫だ、剣技なら貴族のたしなみとして練習はしている。
「ずいぶんとお行儀がいい剣技だな。あんたは、軍務省出身とはいえ、戦場にはほとんど出てこないデスクワーカー。実戦の場で叩きあげた身に通用するとでも本気で思っていらっしゃるのかな?」
あいつの剣が一瞬光る。そして、少し後から強烈な痛みが私を襲う。
こちらの剣は簡単にかわされて、シッドの一撃は正確にこちらに届いていた。
「痛い……嘘だ。私が斬られるなんて」
「おめでたい頭だ。戦場では貴族なんて身分何の価値もありませんよ。それがわからなかったようですな。そして、アレンがどうしてここにやってこなかったのも」
斬りつけられた左腕が猛烈に熱い。あったはずのそれは、私のはるか遠くに転がっていた。
「なぜだ、なぜ……」
「あなたのような雑魚を相手にするのは、私で十分なのですよ。アレンは、囚われた姫と悪逆非道な国王を倒すために、先行しています」
「嘘だ、嘘だ。こんなの嘘だ……絶対に認めないっ!!」
「認めないのは自由ですが、結果に伴う責任は必要です。おい、誰か応急処置をしてこの男を拘束しろ。すべてが終わってから裁判にかけるまで、死なすなよ」
「いやだ。大貴族の私がなぜ裁判など受けなくちゃいけないんだァ」
「知りませんでしたか? 貴族と言えども、法の下でも平等なのですよ」
その言葉に絶望しながら、痛みによって私の意識は徐々に失われていった。
―――
(作者)
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