第218話 偽国王逃亡

―王宮―


「陛下、前線からの連絡です。コルテス宰相率いる討伐軍がシッド・アレン両名が率いる賊軍に敗れました。宰相閣下は敵軍の捕虜になった模様です」


「なんだと!?」


「すでに、王都の防衛は絶望的な状況です。いかがいたしますか?」


 俺は持っていた王の剣を地面に叩きつける。王都には、治安維持用の最低限の兵力しか置いていない。主力部隊が壊滅した以上、ここの防衛は絶望的だ。


「即位して、数日しか経っていないのに、王都を捨てなければいけないのか……」


 横では父親を捕虜にされたルイーダが心配そうにこちらを見つめている。


「陛下! 父のことなど気にしないでください。今では、我々が国王と国母。我々の安全が第一です。すぐに、ここを捨てて逃げましょう。そうだわ、魔女がいるじゃないですか。彼女に頼んで、つてがあるヴォルフスブルクに撤退しましょう。そこで皇帝陛下に助けていただき、捲土重来けんどちょうらいを!」


「しかし、国王が逃亡など……」


「違いますわ。逃亡ではなくて、撤退や転進です。国王たるもの戦略眼をもって動いてください。ここで負けても大陸最強のヴォルフスブルクがこちらに味方してくれれば、賊軍など恐れるに足らずです」


 一理あった。


「そうだな。すぐに馬車の手配を……我々は、ヴォルフスブルク帝国に撤退する」


 ※


「急げ、敵はすぐにやってくるぞ。戦えるものは武装しておけ。王宮の周辺にいる群衆を追い払わねばならない」


 馬車の準備は数時間後になんとか整った。すでに暴徒がルーナが収監されている監獄に押し寄せている。


 こちらに暴徒が来るのも時間の問題だ。


「早くしなさい。宝石に絵画、それからドレス。できる限り持ち出すのよ」


「王妃様……お言葉ですが、そうすると馬車が足りません」


「別にいいのよ。あんたたちみたいな、下々の者はここに置いていくわ。暴徒と好きなだけ遊んでいなさい。おとりになればいいじゃない。国家再興のためのいしずえになれるわよ。子孫たちには好待遇を約束してあげる」


「そ……そんな」


 くそ、このままで出発が遅れてしまう。


「ルイーダ。急げ」


「ですが陛下、向こうで私たちが一文無しになってしまえば、品位が傷つきます。ヴォルフスブルクの貴族たちに笑われるなんて、私のプライドが許しませんわ」


「だが……」


「あと10分で終わります。もう少しだけお待ちください」


「くそ……」


 追手が来る前に早く逃げなくてはいけない。海賊たちの遺産で持ち出しやすいものはすでに馬車に詰めてある。


 ここからは時間との勝負だ。

 俺が考え事をしているとひとりの役人がすがりついてきた。


「陛下、おいていかないでください! 我々はあなたの協力者として、長年仕えてきたのです。おいていかれでもすれば、暴徒たちに殺されてしまいます」


「うるさい!! お前らのような下級役人にかまっているひまなどないわ。どけっ」

 

「ぐへ」


 俺は無礼者を斬り捨てる。

 すべては大義のためだ。

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