第214話 監獄陥落
―リムル視点―
「どうなっている!! 群衆が詰め寄せていて、このままでは王宮に帰ることができないぞ!」
外から怒声が飛んできていた。
『ルーナ宰相閣下を返せ!』
『議会を無視したうえに、
『祖国に自由と解放を!』
『正当なる国家の守護者を取り戻す』
『そもそも、ルーナ様には国王陛下を暗殺する動機もなければ、利益もない』
民衆たちの中には貴族の姿も見えた。
「なんとかしろ! 王都防衛師団の力を借りることはできないのか? このままではじきに監獄の壁が突破されるぞ」
「それが……」
「なんだ、早く言え」
「王宮にはこれ以上の人数が押し寄せており、防衛師団はそちらに手いっぱいのようで……」
「なんだと!? 王宮に群衆が……ちゃんと守備はできているのか!! 群衆のような低い身分の者が、あの中に押し入ったりなどすれば歴史に残る汚点になる。あの場所は、イブール王国において神聖不可侵の聖域だ。死守せねばならぬ!」
「それは当然ですが……このままではこちらの監獄がもちません。そうなれば、政治犯はおろか閣下の安全すら脅かされかねないかと……」
「仕方あるまい。看守たちに武器を配れ。向こうは丸腰だ。仮に、監獄の敷地内に入ってきたものは殺してしまえ」
「よ、よろしいのですか!?」
「大丈夫だ。この監獄は武器保管庫としても機能している。さすがに、こちらが武装すれば、向こうはひるむはずだ。銃口で脅せば、さすがに解散するだろう」
「わかりました」
そして、看守たちには武器が配られた。
※
私がここに籠城してから1日が経過した。
『早く解散しなさい。仮に、敷地内に侵入した場合は、問答無用で射殺する。すでに命令はでているのだ』
『ついに、武器で民衆を脅すのか!!』
『この恥知らずがァ』
『政策や選挙で勝てなかったから、ついに力で勝とうとした。王族には絶望したぞ!』
民衆の怒りは少しずつ上がっているのはわかる。だが、実際に武器を見たことで、少しだけたじろいでいるな。
あとは、王宮からの救援を待てばいい。
少しだけ気分を落ち着けて、私は水を飲む。
気分は少しだけ晴れた。
「閣下、魔力通信で連絡が……」
「どうした?」
「前線からの報告です。コルテス宰相閣下が、シッド・アレン率いる地方軍に敗れたようです」
「なんだと!!」
「人数が時間とともに増加する地方軍を倒すために、決戦を強いられたようです。宰相閣下は敵軍の猛攻撃を受けて敗走。王都防衛師団の主力は壊滅したようです。このままでは、王都に賊軍が……」
「嘘だろ……」
そして、その情報は民衆にも伝わったようだ。
『こちらに地方軍が来てくれるぞ!』
『クルム一派の軍隊は壊滅だ!!』
『我々の正義はここに証明された』
『魔力が使えるものは援護に回れ! 私たちも覚悟を示すぞ!』
『収容されている元老院議員には手を出すな。看守も極力殺してはいけないぞ。情報を聞き出せ』
『よし、皆行くぞ! 我らのルーナ様を取り戻す。民衆の怒りを、わからずやの貴族に示すのだ』
『正義はこちらにある!!』
観衆たちが叫びだすと、監獄の正門が爆破された。魔力による攻撃だ。
宰相軍が敗れたことを聞いていた看守たちには、もはや民衆を退ける気力はなかった。次々と武器を捨てて投降する。
「閣下……お逃げください!」
看守長は叫んだが、逃げ場などどこにもなかった。ただ、捕まる時間を遅らせるために、どこへ向かう予定もなく走ることしかできない。
無惨で絶望的な逃走劇がはじまった。
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