第213話 監獄にて

 バルドロン監獄。政治犯を収容するために作られた大監獄。今ではほとんど使われていない施設だけど、国王権力が絶大であったときは陰湿な拷問や裁判さえおこなわれずに処刑まで発生していたとされるイブール王国の暗部ね。


 どことなく血の匂いが染み付いているような嫌な気分になる。


 クルムは、ここを復活させようとしている。

 絶対王政の復活。時代錯誤、ここに極まれりよ。


 独房に監禁されて2日が経過していた。外の情報を知りたい


「ルーナ議員、取り調べ室に起こしください」

 やっとはじまるのね。茶番が……


 ※


「ルーナ議員お待ちしておりました」

 取り調べ室にはクルムの側近中の側近がいた。


「リムル情報局長、まずはこの状況を教えていただけますか?」


「残念ながら、私は内務大臣です。そして、あなた達は、もう元老院議員でも次期宰相でもない」


「どういうこと?」


「クルム国王陛下が即位し、国王親政を宣言。国家緊急事態法による特別委任を根拠に元老院は解散されました。新宰相には、コルテス子爵が指名されておりますので、元老院の首班指名は無効になっております。あなたは、ただの平民なのですよ、今となってはね!! どうですか、勝利を奪われたお気持ちは。自由党の最高幹部はあなたを含めて拘束しております。前宰相閣下をはじめとする親自由党派も同じです。唯一逃亡中のアレン将軍も時間の問題でしょうな」


「……」


「悔しくて何も言えないようですな。今の気持ちなど聞くまでもない。すべての頂点に立てる寸前ですべてを奪われたのですから。大人しく命乞いをしなくてよろしいのですか? まあ、そんなことをしても結果は変わらないでしょうが……」


 まるで、小さな王子が出てきたみたい。どうして、こんな人たちしか周囲にはいないのかしらね。


 人材不足がひどいわ。


「絶対王政が復活しました。あなたたちは、栄えあるこの監獄の復活を間近で見ることができるのです。光栄でしょう?」


「もう、取り返しのつかないところまで来ているという実感はあるの? あなたたちは、ついに大罪である国王暗殺と政権を強奪した。歴史に残る悪行ですよ」


「我々は後世の歴史家の評価など気にしてはいません。そして、国王を暗殺したのはあなたたちだ。歴史にはそう書かれる!!」


 もう何を言っても無駄だと思うほど強情な言い方だった。


 でも、まさか本当にここまで無能だとは思わなかったわ。国民の代表者たちの決定を反故にして、自分たちの都合のいい結果にゆがめてしまう。


 そんなことをすれば、もう政府に対しての信用は地に落ちる。この後どうなるかは日の目を見るよりも明らかよ。


 国民の不満は、裏切られたことにより爆発する。

 革命が始まる。


 もう歴史の流れは巻き戻すことはできない。


「リムル閣下、大変です!!」

 部屋に一人の看守が入ってくる。


「何事だ! こちらは重要な取り調べ中だぞ!!」


「しかし……」

 そう言って看守は耳打ちする。


「なんだと!! シッド将軍とアレン将軍が合流し、地方軍を集結させてこちらに向かっているだと!! 早すぎる」


 さすがは、あのふたりね。

 でも、そんなことを大声でしゃべってしまっていいのかしら?

 看守もあきらめたように、耳打ちを辞めた。


「地方軍だけではありません。正規軍にも裏切り者が……このままでは、敵の数は当方をはるかに上回る危険性が……」


「なっ……」


「コルテス宰相が王都防衛師団を率いて、出陣しました。閣下も早急に王宮にお戻りください!」


「わかった。ルーナ議員を独房に戻してくれ……」


 さきほどまでの威勢の良さはどこかに消え去り、蒼白な顔で部屋を出ていこうとするリムルは、取調室の扉を開けて「あっ」と声を上げた。


 私も独房に戻るために、部屋を出ようとして、外を見た。

 監獄の前には、たくさんの群衆が詰め寄せていた。

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