第211話 最後の謀略

「殿下、大変です。あのいまいましいルーナ=グレイシアがクーデターなどの再調査を宣言しました。このままでは、我々は破滅です」

 

 軍務省に到着すると、そこにはリムルが待っていた。

 あいつは俺たちの敗北が決まり、顔面が蒼白になって震えていた。


「そうか」


「何を平然としているのですか。私はあなたを信用してここまで一緒にやってきたのですよ。黒い仕事だって何度も引き受けた。それなのに……」


 女々しい男だ。すべてを俺のせいにして逃げようとしている。

 

「破滅したくなければ覚悟を決めろ。これが最後のチャンスだ」

 俺は冷たくリムルに言い放つ。


「まさか、殿下……あれをやるつもりなのですか」


「もう俺たちにとって生き残る方法はあれしかない。魔女がすべての準備を整えている。お前が実行しろ」


「おれ?……」

 感情の高ぶりで普段は言わない俺という言葉を使ってしまったか。まあ、構わない。ここまできたら取りつくろう必要もない。


「やるのか、やらないのか?」


「ですが、そんなことをしてしまって発覚すれば……今以上に大変なことにっ!!」


「だが、生き残れるぞ。それに成功すれば、お前を大臣にしてやる。もうチャンスは今日しかない。明日になれば、政権交代は始まりチャンスの芽はなくなる」


「殿下は、本当によろしいのですか。あの計画を実施すれば、あなたは……」


「弟を手にかけた時点でもう戻る場所はない。俺はすでに覚悟を決めた。お前たちも覚悟を決めろ。そうでなければ、何もせずに破滅しろ!」


「わ、わかりました。本日実行します」


「ああ、そうだ。今日なら政権交代の混乱で、王宮の警備も穴ができやすいからな。ぬかるなよ」


「わかりました。このリムル、成功させてみます」


「俺はその後の準備をする。自由党の首脳部は王都に集結している。クーデターで壊滅した王都防衛師団は、俺が制圧している。お前が実行すれば、即座に戒厳令を布告できる。保守党政権はまだ、政権を手放していないからな」


「わかりました。では、は、深夜に実施します」


「ああ、健闘を祈る」


 そして、俺たちは別れた。内務省の情報局は諜報任務を担う機関だ。諜報任務とはすなわちスパイ行為だ。暗殺などは得意分野と言える。そして、味方だと思っている王を暗殺する。プロにとっては簡単な部類の仕事だろう。


『(兄さんは、ついに親殺しまでするんだね。ルーナにもアレンにも叔父上にも見捨てられて、弟でもある僕まで殺して……そこまでして、得られる王位に何の価値があるんだい?)』


 弟の声が聞こえたような気がしたが、俺は無視をする。

 もう誰にも止めることはできない。

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