第210話 勝利の舞台裏

 私は元老院の壇上で宰相就任演説をおこなっている。

 クルム王子は蒼白な顔で会場の外に出ていくのが見えた。


 私の完全勝利は揺るがないわ。

 王子は、自由党を分裂させるために手段を選ばないのは予想ができた。だから、こちらから仕掛けさせてもらったわ。


 私とアラゴン男爵が自由党内の主導権争いで関係を悪化させていると嘘のうわさを王都に流した。そうすれば、王子の工作はアラゴン男爵に集中するはず。そのほうがこちらとしてもやりやすい。


 わざわざこちらが用意した罠に、向こうから引っかかってくれるのだから。

 王子は精神的な余裕もなくしていて、あの噂がブラフだとは考えてもいないはず。おかげで、王子側の動きは手に取るようにわかったわ。


 だって、向こうはアラゴン男爵が味方だと勘違いしているから情報は筒抜け状態で教えてくれたのだから。


 自由党の切り崩しはこうして失敗したわ。策士策に溺れるとはこういうことを言うのね。


 ちなみにアラゴン男爵が本当に寝返る可能性もあったけど……

 私の策を聞いて、「ルーナ総裁。あなたは本当に恐ろしい方だ。そのような反撃の方法を聞いてしまったら、向こうの陣営はまさに泥船だ。勝ち馬に乗っているのに、自分から泥船に乗り換える政治家はいません」と苦笑していた。


 さらに、勝利を確実化させるために、保守党の反・クルム派に協力を要請していたわ。前宰相閣下を中心に、私との裏での協力するという密約は結ばれていた。


 王子を完全に失脚させた後、彼らは保守党を脱党し、新政党を立ち上げる。そして、その新党と自由党の連立をおこなう予定となっている。


 これで不正の温床だった保守党は完全に崩壊する。

 そして、新しい時代がはじまるわ。


「それでは、私から皆さんにお知らせをしなければいけないことがあります」

 そして、私は王子を完全に破滅させるための一手を放った。


「それは、この12年間で発生した3つの災厄についてです。伯爵領の大災害、バルセロク地方の海賊襲撃事件、そしてアマデオ殿下が犠牲になった公爵のクーデター。それらについて、私は未確認ながら重要な情報をつかみました。こちらの事件については、きちんとした再調査が必要となると考えております」


『だが、捜査は終わっているよな。それもかなり古い事件のことをどうやって調べるんだ?』


 前列の議員は当たり前の疑問を口に出した。


「はい、その通りです。難しい捜査になると思います。しかし、私には一つ希望があるのです。ですので、この場を借りて宣言いたします。私、ルーナ=グレイシアは宰相と共に法務大臣を兼務し、捜査機関に対して指揮権を行使します。これによって、すべての真実は明るみに出るでしょう!」


 私と王子の最後の戦いが始まりを告げた。


―――

(作者)

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