第205話 王子の深層心理

 夢を見た。

 夢の中では俺は、少年だった。


 まだ、ルーナにもアレンにも会っていなかった時だ。常に一人だった。

 母は物心つく前に亡くなってしまった。父は、俺よりも継母が生んだ弟を溺愛しているのが伝わった。


 だから一人だった。俺は勝ち上がらなくてはいけなかった。何か失敗すれば、俺の価値なんてすぐになくなる。


 ひたすら努力し周囲の期待を超える結果を残した。そうすれば、俺のことを否定する奴らが黙るから。


めかけの子』

『優秀だからなんとか立場が保たれている』

『アマデオ殿下が国王になれば大使という名目で大国に人質にだせばいい』


 そんな陰口はずっと聞こえていた。

 そして、俺は家の都合で婚約者をあてがわれた。


 ルーナ伯爵令嬢。有力な地方貴族の娘。第一王子の婚約者としては、やはり地位が低い。本来なら辺境伯令嬢や公爵令嬢クラスでなければ釣り合わない。

 王室から後継者としてみなされていないことの表れだな。

 復讐心が煮えたぎる。


 彼女は性格がよく、周囲に愛されて育った俺とは真逆の存在。


 実家は裕福で、何もない俺とすべてを持っている婚約者。笑えるほど、対称的な婚約者関係だった。俺には嫉妬しかなかった。


 だから決めたのだ。


「この女の実家を利用して、成り上がってやる。そして、用が済んだら絞ったかすは捨ててやる。このすべてに恵まれた女が絶望するところを見て、俺は玉座に座るのだ」と。


 ルーナの実家からの経済援助で、俺は政治家の道を切り開いた。

 保守党でのキャリアは、順調で若くして宰相代理まで昇進した。


 周囲の目は少しずつ変わってきた。そして、ルーナに対する嫉妬を晴らす機会にも恵まれた。


 ※


「キミと私の婚約は解消だ、ルーナ。早く王宮から出ていけ。いや、違うな。貴族社会にお前が残る場所はない。イブール王国宰相代理として、お前に命ずる。ルーナ。キミの身分と財産はすべてはく奪する」


「お待ちください。私は、あなたを一生懸命支えてきました。たしかに、この度の災害で、お父様の伯爵領は壊滅しました。しかし、私たちはあなたにこれまで多くの献金をおこない支えてきたのではないですか。なのに、お金が無くなったら、即婚約を破棄して、私を捨てるなど、道義に反します。私のことを金のなる木としか、考えていなかったのですか?」


 ※


 追いすがるあの女の目を見て、俺はすべてがうまくいったと確信していたんだ。なのに……


 ルーナは復活した。それも、俺の側近中の側近であったアレンが俺を裏切る形で……


 それが分かった瞬間から、俺の中で何かがはじけた。

 手段を選ばずに邪魔するものを排除すればいい。


『そんなことで、弟である私を手にかけたのか? 兄上の手は血塗られている。そして、その手についた血は一生ふき取ることはできないぞ』


 弟の声と共に自分の手が真っ赤に染まっていることに気がつく。

 そこで目が覚めた。

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