第200話 イブール王国改造計画

「それでは、私たちの計画の概要を説明させていただきます」

 王子は力なく私を見つめている。邪魔しなければ、もうどうでもいいわ。


「これは、保守党政権が維持してきた経済政策の全面的な改革です。現状の保守党政権の政策は、既得権益や社会制度の保持に力を入れていました。たしかに、その方針なら安定感があります。ですが、数百年前の制度を墨守するだけで、新しい活力を国全体に注入できるわけではありません。その結果が、この長い停滞です」


 記者の一人が手を上げる。


『具体的には、どのようなことを?』


「はい。まず、イブール王国は20歳以下の若者が国民の大多数を占める成長国家です。しかし、保守党の政策では若者ではなく、すでにある程度の基盤を持っている貴族や富豪など年齢層が高い人たちを優遇しているものです。そこを転換します。私たちがターゲットにしているのは、これから成長していく若者と、貴族の当主になれずに家で飼い殺されている青年貴族たちです」


 会場はざわつく。だって、保守党は若者と青年貴族をしいたげることで政権を維持してきたから。


『しかし、それでは大した利益にならないのでは? 若者や青年貴族は貧しいですよね?』


「いいえ、間違っています。彼らこそが、私たちが見逃していた"未開の土地フロンティア"なのです」


『なっ!?』


 ここにいる保守党支持の記者たちは青筋を立ててイライラしている。だって、彼らはすでに持っている人たちだから。持たざる人たちの気持ちなんてわかるわけがない。


「彼らは、貧しさと機会の不平等によって、生産の機会を奪われています。ですから、彼らに投資をすることで、若者たちは外に出ます。彼らが動くことで、少なからずの活力が発生します。若者に教育を施すためには、教材や教師が必要です。さらに、学校の近くには食事をする場所だって必要でしょう? そして、我が国には家に不当に閉じこめられている青年貴族がたくさんいる。彼らに教職などの仕事を与えて、子供たちが学ぶことによって、莫大な経済活動が発生するのです。その若者の力が他の分野にも波及するのは間違いがない。その結果、国全体が豊かになる」


『どんな根拠があるんだ!! 根拠を示せ!!!』


「根拠ですか。簡単なことです。資料の32ページをご覧ください。私がバルセロク地方でおこなった教育改革の結果、港湾業・出版業・輸送業など広範囲に経済波及効果が発生していることがわかると思います。また、港湾業の独占を禁止することで、輸送費も低くなり庶民にも貴族にもその恩恵を得ることができております。参入障壁をなくして、機会を平等にすることで地域は生まれ変わるんですよ」


『なっ!?』

『こんなに税収が増えているのか……』

『これなら10年程度で初期投資を上回る』


「現在のイブール王国の停滞は、経済活動を行う主体が少なすぎることに起因しているのです。ならば、母体を増やせばいい。そうすれば、国は強く豊かになる!! そして、バルセロク地方でそれを私は仲間たちと示しました!」


『……』

 記者は完全に観衆になった。


「次回の元老院議員選挙で、皆さんは2つの道を選ぶことになります。保守党に投票することでこのまま安楽死するか? それとも、私たちの改革によって、皆さんも豊かになるのか。私は結果を残すことでここまで来ました。よい家柄に生まれて伝統を守ることでその地位に就いた人たちとは違う。さぁ、皆さん、どうしますか?」

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