第201話 熱狂と王子の絶望
記者会見の次の日。
私は、文部省の自分の席で辞表を書いた。
次官たちは、とても寂しそうな顔をしていたが、私のことを応援してくれると言ってくれた。
あとはこれを閣議で提出するだけ。自由党出身の大臣は皆辞任する。
ついに、次の選挙に備えて本格的な政争がはじまるわ。
「では、閣議に行ってきます」
※
宰相府での最後の閣議は、あっさりしたものだった。
すでに昨日の会見で宣戦布告しているから、慰留もなにもなかったわ。
王子はずっと白い顔をしていてなにもしゃべらなかった。
「では、皆さん。一度、自由党本部へと戻りましょうか?」
この後は本部でお疲れ様会を兼ねた食事会を準備しているわ。
「そうだな。ルーナ新総裁の大成功を祝わなくてはいけないからの」
フリオ閣下はそう言って、みんなを笑わせる。
本当はもうしばらく、閣下に総裁を務めてもらいたかったんだけど……
『保守党に絶縁状を叩きつけるいい機会だ。わしのような老いぼれが発表するのでは、インパクトが弱まる。お主が最善じゃ』
と言って総裁を辞任した。
宰相府の外には、たくさんの人たちが集まっていた。
彼らは、私たちをまるで英雄のように出迎えてくれた。
みんな、私たちと同じ夢を見ている。このなかに選挙権を持つ人は少ないかもしれないけど、もう誰にも止められない流れがこちらに来ている。
たとえ、王族でもこの流れに逆らうことはできない。
「ルーナ、みんなに一言かけてあげればいいんじゃないか?」
アレンは私にそう促す。
私は彼に頷いて、宰相府の玄関で叫んだ。
「みなさん、ここからが始まりです。わたしたちで、見えない壁を突き破り、この国を変えましょう!!」
大歓声が宰相府を包んだ。
※
―クルム王子視点―
軍務省の会議室に魔女はやって来た。
「殿下、大失態ですね。あなたはルーナを追い詰めていたと思いこんでいたのに、逆に追い詰められていたのは自分だった。どうしますか。このままでは保守党の野党転落は確実です。どうするんですか」
「……選挙前に、宰相を引きずりおろす。そして、私が保守党の代表として総選挙に臨む。そうすれば、王族の威光で……」
「へー」
魔女は俺の考えを冷たくあしらった。
「何を言っているんだ。俺は次期国王だぞ。次期国王が選挙に負けるなどありえない。そんなことが起きれば、王室は崩壊するぞ!! 国民の信任も得られないなど、ありえるか!!」
「そうだといいんですけどね。なら、私は別の計画を用意しておきます。どうか、頑張ってください。殿下」
そう言って魔女は消えていく。
誰もいなくなった会議室の机を強く叩いた。
乾いた音だけが部屋の中に反響していった。
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