第199話 王子崩れる

「何を言っているんだ!? ルーナ=グレイシア。お前はいったい何を発表したのかわかっているのか!!」

 王子は激怒しながら私に詰め寄る。


 私は涼しい顔で肩にかかった彼の手を振りほどいた。


「わかっていますよ。殿下は何か勘違いされているのではありませんか。我々は元々敵同士。国家のために緊急避難的に同盟を組んでいただけです」


「だが、お前たちの選択は、俺を本気で怒らせるものだぞ。覚悟はできているのか」


「覚悟? 殿下は意外と甘いものですね。私を何度、殺そうとしてきたか。撃っていいのは、撃たれる覚悟がある人だけですよ。私たちはずっと戦争状態です。何を甘いことを言っていらっしゃるのですか」


「なっ……」


「あなたの根幹にはこの国の王族という甘えがある。どんなに敵対していても、最後は王族に従ってくれるという考えの甘さが、あなたを2流の政治家にしているんですよ」


 王子は絶句して、固まってしまった。


「最高の連立離脱とパフォーマンスの場を与えてくださってありがとうございます。これが私からの絶縁状です」


 私が合図すると、自由党の職員たちが会場に入ってくる。そして、書類を記者たちに手渡した。


「私は次の閣議で正式に大臣の職を辞すことになります。ですので、元老院最大野党党首として、保守党へのアンチテーゼを発表させていただきます」


 私は自分の辞任会見を、自由党のための所信表明の場所に変えさせてもらう。


「そちらが次回の元老院、そして、総選挙で我々が主張していく計画の骨子になります」


 記者の人たちはあわてて書類を確認していく。


『教育制度の抜本的な改革』

『貴族に対する税制改革』

『職業選択の自由の拡大』


 これらの文字を記者の人たちは驚くように繰り返していた。


「それでは、はっきり言わせていただきます。我々は連立政権を1年以上続けてイブール王国の停滞は、保守党主流派の経済感覚のなさに起因するものだとはっきり感じることができました。このまま、保守党主流派に任せていたら、国力は停滞を続けて我が国は列強国の軍門に降る運命となるでしょう。そうなれば、貴族は没落し国民はより重い負担に苦しめられるようになる」


 ここまではっきりイブール王国の問題点を指摘した人間はいなかったはず。案の定、記者たちは目を白黒させている。


「よって、私たちはこの国家を根本的に改革する方法を考えました。それが皆様の手元にある『イブール王国改造計画』です。これが自由党の今後の活動についての指針になります」

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