第197話 王子の陰謀
「失礼します。ルーナ=グレイシア入ります」
私は宰相執務室に入る。
そこには、宰相とクルム王子のふたりがいるはずだった。でも、その執務室には王子しかいなかった。
彼は宰相の椅子に座り、私を待っていた。
「よく来てくれた、ルーナ」
「殿下、失礼ながらその席はあなたのためのものではありませんよ」
「構わないさ。どうぜ、この椅子は私のものになる。遅いか早いかの差だ」
「……」
どうやら、今回は彼と私だけの話し合いになるみたいね。
最悪。
「では、単刀直入に聞こうか。キミが用意している教育法改正法案だが……説明をしていただきたいな」
「何を回りくどいことを言っていらっしゃるんですか。すでに、素案はご覧になっているでしょう。それに、この新聞の発行元はあなたの側近が主筆の新聞社ですよね?」
イブール王国の魔女も一枚かんでいるはず。すでに用意周到に仕組まれた敵の罠。
「さあ、彼女はあくまで協力者だからね。私のうかがい知らないところでうごいているのかもしれないだろう」
「殿下。自分の勝利を誇りたい気持ちはわかります。ですが、単刀直入に話をしましょう。建前はなしで話すための、この打ち合わせなんでしょう?」
「ふふ、自分の敗北が決まっても、まだ勝ちを諦めないその姿勢はさすがだよ」
「敗北が決まる? なにをおっしゃっているんですか。まだ、何も始まっていませんよ」
おそらく、文部省の職員にクルム王子の協力者がいるんだろう。それも上層部に。そうでなければこんなに早く法案が流出するわけがない。
「だが、あの法案が何の根回しもなく流出してしまえば、さすがのキミでも貴族側の反発を受け止められない。もう、終わりだ。おそらく、ルーナの教育改革はこの法案が根幹なんだろう? どうだ、違うか?」
「ええ、そうですよ」
「ならば、この法案が通らなければ、キミの理想は崩壊する。中途半端な改革でお茶を濁すしかあるまい。ルーナ、どんなに理想が高かろうが、この世界では意味がないんだよ。わかったか? 大人しく我が軍門に下れ。いまなら、優秀な駒としてこきつかってやるよ」
「……」
どうやら、私に復讐することしか考えられないみたいね。
もう、何を言ってもダメだわ。
「今回の失態には、宰相閣下もとてもご立腹だよ。いくら叔父上でもキミのフォローはできないんじゃないかな? メディアもおそらくキミには失望する。こんな大事な法案を流出させてしまう大臣に限界を感じる人も多いだろう」
「何が言いたいんですか」
「これが私が考えた法案の修正案だ。これを吞むなら助けてやろう。読んでみたまえ」
彼は紙を私に手渡した。
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